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コップに注がれた菊酒を舌に転がしながら、私はひとり考え込んでいた。
――菊酒を飲むと、不老長寿になる。
サリーのオバアが毎年のように欲しがっていたというのは、つまり「長生きしたい」という願いの現れだったのではないか。
なのに、目の前の瓶は、封を切った形跡すらない。
どういうことなのだろう。
胸の奥がもやもやと波立っていく中、隣に座っていた遺族のひとりが私に声をかけた。
「それにしても、貴女、お酒に詳しいんだね」
思わずコップを置き、私は曖昧に笑った。
父も相槌を打つ。
「そうそう。私なんかは『そんな名前の泡盛があったなあ、菊のなんとかって』くらいしか思い浮かばなかったよ。
あとは、花札とか……」
……泡盛?
私は父の言葉を繰り返した。
「父さん? なんで急に泡盛の話を?」
父はきょとんとした顔で笑う。
「え? だってお婆さん、沖縄の人だろう?
沖縄ならやっぱり泡盛じゃないかと思ってさ」
――え?
胸の奥が急に冷えた。
私は遺族の方へ向き直り、意を決して尋ねた。
「……あの、すみません。
お婆さんは本当に『菊酒』って言ってたんですか?」
遺族の女性は、少し戸惑った顔をして答えた。
「ああ、もちろんよ。本人がそう言ってたから。
……方言混じりでね」
そして、ぽつりと続けた。
「――『菊酒』、って」




