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9. 懺悔




 犯人逮捕から、数日が経った。新聞も、テレビも、週刊誌も、あの事件の報道を止める気配はなかった。さまざまな視点から事件を掘り起こし、犯人の生い立ちや周辺の人々の証言など、ありとあらゆることを根掘り葉掘り、垂れ流し続けた。


 どんなに耳を塞いでいても、あらゆる場所で事件の話題が耳に入った。

犯人が寂しい家庭環境で育ったこと。

供述に不明な点が多く、精神鑑定が行われる予定だということ。

そして、被害者になった人たちがみな、タロちゃんと同じような立場の男の子ばかりだったこと。

未だ身元不明の被害者がいるという事……。




 私は一切を語らなかった。

あの日以来、事件のことも彼のことも、何も聞かず、何も見ず、何も知らないフリをした。


保身のため、あの子を、見捨てた。





 間もなく、アパートが引き払われることを知った。事件とは関係なく、もともと一年ほどで契約終了になる予定だったらしい。

「お疲れ様」と、叔父は私に声をかけた。



 アルバイト最終日。

 私に与えられた仕事は、アパートに残された物の処分だった。すでに大きな荷物などは運び出されている。私は淡々と……雑誌やコップなど、細々とした忘れ物を全て、ゴミ袋に詰めて回った。


 そして、最後の部屋のドアを開けた。


 二階のその部屋は、妙にがらんとしていた。四畳半の和室が、やけに広く感じた。ゆっくりと息を吐きながら、私は部屋に足を踏み入れる。


 オレンジ色の夕日が差し込み、いつも彼が座っていた場所を、やさしく照らしていた。


 残された物に手を伸ばす。けれど、なぜかうまく掴めない。そこでようやく、自分の指先が震えていることに気がついた。


彼がファンだと言ったアイドルが表紙を飾った雑誌。

彼がよく舐めていた、袋入りのキャンディ。

戻ってこない主人を待つ、数少ない荷物たち。


喉の奥が詰まり、息ができなくなる。

熱くて、苦しくて、胸の奥からこみ上げてくる何かを、私は抑えきれなかった。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…


 その場に崩れ落ちる。畳に額を擦り付けるようにうずくまった。泣くことすら申し訳なかった。それでも涙が出て、止められなかった。

「ごめんなさい…ごめ……」



 部屋の中には、咲いたばかりの金木犀の香りが、息苦しいほど充満していた。





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