9. 懺悔
◇
犯人逮捕から、数日が経った。新聞も、テレビも、週刊誌も、あの事件の報道を止める気配はなかった。さまざまな視点から事件を掘り起こし、犯人の生い立ちや周辺の人々の証言など、ありとあらゆることを根掘り葉掘り、垂れ流し続けた。
どんなに耳を塞いでいても、あらゆる場所で事件の話題が耳に入った。
犯人が寂しい家庭環境で育ったこと。
供述に不明な点が多く、精神鑑定が行われる予定だということ。
そして、被害者になった人たちがみな、タロちゃんと同じような立場の男の子ばかりだったこと。
未だ身元不明の被害者がいるという事……。
私は一切を語らなかった。
あの日以来、事件のことも彼のことも、何も聞かず、何も見ず、何も知らないフリをした。
保身のため、あの子を、見捨てた。
間もなく、アパートが引き払われることを知った。事件とは関係なく、もともと一年ほどで契約終了になる予定だったらしい。
「お疲れ様」と、叔父は私に声をかけた。
アルバイト最終日。
私に与えられた仕事は、アパートに残された物の処分だった。すでに大きな荷物などは運び出されている。私は淡々と……雑誌やコップなど、細々とした忘れ物を全て、ゴミ袋に詰めて回った。
そして、最後の部屋のドアを開けた。
二階のその部屋は、妙にがらんとしていた。四畳半の和室が、やけに広く感じた。ゆっくりと息を吐きながら、私は部屋に足を踏み入れる。
オレンジ色の夕日が差し込み、いつも彼が座っていた場所を、やさしく照らしていた。
残された物に手を伸ばす。けれど、なぜかうまく掴めない。そこでようやく、自分の指先が震えていることに気がついた。
彼がファンだと言ったアイドルが表紙を飾った雑誌。
彼がよく舐めていた、袋入りのキャンディ。
戻ってこない主人を待つ、数少ない荷物たち。
喉の奥が詰まり、息ができなくなる。
熱くて、苦しくて、胸の奥からこみ上げてくる何かを、私は抑えきれなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…
その場に崩れ落ちる。畳に額を擦り付けるようにうずくまった。泣くことすら申し訳なかった。それでも涙が出て、止められなかった。
「ごめんなさい…ごめ……」
部屋の中には、咲いたばかりの金木犀の香りが、息苦しいほど充満していた。
◇