三話 目標設定
四歳某日。
俺は現在、町の図書館に来ている。
ちなみにだが今回はデインが同伴している。
最初行きたいと言った時は驚かれたものだが、今じゃ近所の公園感覚でOKしてくれるから助かるというものだ。
さて、異世界に転生して最初にしたいことといえば剣とか魔法だろう。
最低限言語をマスターしたとはいえ、ありふれた異世界と同じくこの世界にも魔物はいるのだ。
そりゃあ元創造主だから前は強かったさ。ま・え・はね!!!
でも人間として産まれた以上、今の俺はちょこっと知識を持った四歳の子供だ。それに、前は文字通りなんでも出来たから、細かい魔法の使い方なんて全く存じない。
せっかくこの世界に戻ってきたのに、通りすがりの魔物にワンパンKOはい終わり!なんてのは御免だよ。ほんとに。
そんなこんなで、最低限でもいい。この世界で生きるための実力をつけるために来たのだが……
「全っ然見つからない……」
町に一つだけの図書館ということもあってかなり広いし蔵書数もある。だがあるのは英雄譚とか歴史書とかそんなんばかりで、魔法とか剣のことが書かれている本が一向に見つからないのだ。
まあそうだろう。こっちは四歳の子供。今の俺からしたらただの本棚は果てしなく高い山のようなのだ。
上にあったらどうしようもない。
(仕方ない。少々恥ずかしいが、デインに頼んで……って、いないし……)
親同伴と決めたのはデインとアルシアなのに、どこへ行ったのやら。大方自分好みの本でも探しに行ったのだろう。
そんな時だった。
「ねぇ、そこの君?本が取れないのかな?」
「え?あ、いえ。実は、魔法とかどんなのがあるか知りたいなって思いまして」
いきなり話しかけられて驚いたせいか、ちゃんと返せたか不安だ。
相手は20代くらいだろうか?
綺麗で長い黒髪。
冒険者っぽい黒と白の衣装を身に包んで。
携えているのは剣とポーチのみ。
顔は、そのモデル体型に合わない温和で幼げな笑みを浮かべていて、一言で言えば、美少女と美女の間のような感じ。
俺が16歳なら、あと数年待って告白したかもな。
いや、俺ヘタレだし、無理か。
「ふふっそうなんだ。私はアリエー。私も魔法は得意でね。あと数年経ったら、教えてあげるよ」
な、なんという距離の詰め方!?いや、あっちはそんなつもりで言ってないんだろうけど!!
それに剣携えて魔法得意とか!?天は二物を与えずとか言ったの誰だよ!!いや、俺が言えたことじゃないか。
だが、あと数年も待つわけにはいかないんだ。
せめて本の場所だけでも聞かなければ
「あ、あの、出来れば、魔法とかそういう本がある場所を教えてくれませんか?」
ヘタレで小物な俺にしてはよく頑張った返答ではないだろうか?
前の俺なら確実に何も喋れずに終了だったわけだし。
「そうだね〜、あ、これとかどう?『魔法辞典』と『剣法百科事典』これなら大抵の事は書かれているし、参考になると思うよ」
んなあっさり!!俺の苦労は一体……
というか、やっぱり上の方にあったんだな。
子供が「剣法だ〜!」とか言って剣振り回すと危ないに決まってるし、当然か。
兎も角、これで俺も魔法が使え…じゃなくて、練習するための土壌が出来たのか。
危ない危ない。前世の俺なら間違いなく、「これからコツコツ練習してくんだからまだ自重だ、自重」なんて考えたはずなのに、転生して前前世の記憶が戻ってから、たまに調子が狂ってしまう。
前前世の俺は楽観的すぎるんだ。
なんでも出来るがために基本的にはなんとかなるでしょの精神。
抑え込まなきゃ痛い目見るな、うん。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして〜。私もこの町に越してきたばかりだから、何か困ったら言ってね」
「…はい」
優しそう……というか、優しい人だったし、行き詰まったら相談しにいってみようか?
なんて思えるくらいには、いい人だったな。
でも、本当に行き詰まったら教えてみるのもいいかもしれない。親にばっかり迷惑をかけれないし。
兎に角、これで魔法も剣術も練習できるのだ。
生きるために強くなる。
うん。頑張ろう。
◇ ◇ ◇
帰宅後、早速『魔法辞典』と『剣法百科事典』を読むことにした。
辺境の地ということが幸いして、庭は広い。
初歩的なものならば練習環境としてちょうどいいというものだ。
前にもチラッと言った通り、創造主であった俺は、嫌味でもなんでもなく本当になんでも出来た。
ゲームでいうチーターみたいなもんで、○○はこういう物!と念じれば本当にそういう風に法則や事実ごと書き変わってしまったりしたのだ。
だからこそ、こういう魔法とか剣法とかを使う機会がなく、関わっていた者も教えてくれなかった。
この世界を創造する時も、感覚で法則をつくって後はオートマにしてたから、だから、俺の知識なんてわりとペラッペラで、友人や妻との日常がほとんどなのだ。
ん?妻ってどういうことかって?それはエリラだよ。創造主の僕が、唯一恋愛面で愛した女性――
って、今完全にもってかれてたな。
別に二重人格という訳では無いのだが、口調や一人称も違った以上、そう見えてしまうのも仕方がない。
文字通り一からという事になる。
そんなこんなで、本を読み進めていくと、いくつかのことが分かった。
一つ目:この世界には"神力"と"魔力"の二つの力がある。
二つとも力を扱うためのものだが、神力が剣法などを扱う時に必要なもので、魔力が魔法を使う時に必要なものという風に違うらしい。
この二つはあらゆる物質に含まれているため、それらを利用するか、自身のものを使うかで分かれるそうだ。
二つ目:修得した剣法や魔法を使う能力箱をエゾンという。
これは理解するのに時間がかかったが、剣法や魔法を修得してエゾンという箱に入れると、その人だけのオリジナルのエゾンができるということだろう。
例に例えるならば、電気と家電、そしてそれらの総称。というべきだろうか。
プロセスとしては、神力や魔力という電気を、剣法や魔法などの家電に流して使えるようにする。そしてそれらの使えるようになった家電を整理し、自分だけの力としてものにしたのがエゾンになる。という感じ。
だから熟練した剣士や魔法士は、剣法特化や魔法特化のような、自分だけのエゾンを修得しており、そこから使いたいものを選んで戦うようだ。
エゾンを使う利点については、痛いほど察せられた。
最初は形として残すだけかと思った。
だが、読み進めていくうちに察してしまった。
剣法・魔法、このどちらも種類が多すぎるのだ。
攻めの剣や守りの剣、炎魔法や水魔法など、特性によって得意不得意があるから、全てができる人はそれこそ勇者や魔王に進化とかしてないと難しいのは分かる。
しかし、これはいくらなんでも多すぎる。
これじゃ戦闘で使い分けるには不便すぎる。だからエゾンにすることで、その問題を解決したのだろう。
まあ、このシステム創ったの俺なんだけど…
うん。オートマにした俺がバカだったかなぁ…
とりあえず、俺みたいな初級者は、使える剣法・魔法を増やして行くところからだ。
――それで強くなって、いつか、この世界のどこかにいる前前世の仲間と再会する。
これが、俺の人生での目標だ。
僕が生きていた頃、あの子達は賢人・賢神だった。
そのレベルにまでなると寿命という時間制限はなくなるから、今もどこかで生きているはず。
僕のあんな最期はもう御免だし、俺の空虚な16年もつまらないものだったから。
俺はそんな、自身の性格と人生にはとても合わないであろう決意を込めて、本を閉じるのであった。