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そのタイムマシンは本物か?

作者: 城太郎

 私は、タイムマシンを発明した。信じられないかもしれないが、本当の話だ。


 子どもの頃に見たアニメに登場したタイムマシンに憧れて、大人になったら絶対に作ってやるぞと心に決めていた。


 そうして出来上がったこのタイムマシンを使えば、過去の好きな時間の、好きな場所に戻ることができる。実際に過去に戻れることは、私自身の肉体を使って実証済みだ。


 まぎれもなく、世紀の大発明である。


 しかし、私は大きな問題に直面した。


「このタイムマシンが本物であることを、どう証明すればいいのか?」


 そんなこと簡単だと思うだろう。しかし、「他人に説明して納得してもらう」ことを目的とする場合、これが意外に難しい。たいていの場合、冗談と思われて信じてもらえないからだ。


 そこで、証明方法をいくつか考えてみることにする。




 実際に、誰かに使ってみてもらったらどうだろうか。


 しかし、本物かどうか分からないタイムマシンを試す度胸がある人間がどれほどいるというのか。


 仮にそんな人がいたとして、今度はその人が「本当にタイムマシンで過去に戻った」ことを証明しなければならない。そのためには、その人の信頼できる知り合い五人にも、タイムマシンを試してもらうしかない。


 今説明したのが、悪名高い、ねずみ講の手口だ。




 話を戻そう。


 次に、過去に戻って「本来そこにないはずのもの」を置いてくる、というのはどうだろうか。


 目の前の人に「今からタイムマシンで過去に行ってきます」と言って、過去に行く。そして帰ってきたときに、パチンと指を鳴らして、「では、右ポケットを探してみてください」と告げる。


 すると、トランプのカードが出てくる。


 ただの手品だ。現実のトリックに頼るより鮮やかではある、と思われる。




 では、誰かに過去を変えることを予告しておく、というのはどうだろうか。


 例えば、私の知り合いである田中一郎氏に、「これからこのように過去を変えてくる」と約束してから過去に戻る。そこで過去を変えて、戻ってきて「ほら、変わったでしょ?」と言う。


 一見うまくいきそうだが、過去を変えるということは、それすなわち未来が変わるということだ。


 未来を変えた先で出会う田中氏は、最初に約束した田中氏と別人――田中次郎氏になってしまう。


 田中次郎氏とは別に知り合いではないので、うまく話せる自信がない。ぜひ、お友達から始めたいところだ。




 逆に、過去の人に予告しに行く、というのはどうだろうか。


 過去の世界の誰かに、「何年の何月何日にタイムマシンが発明される」と教えておく。


 しかし、過去の人への過度な接触は、御法度だ。未来が大きく変わってしまい、タイムマシンが発明されない可能性がある。


 そうなったら私は過去の世界に取り残され、「私」と、「もともと過去の世界にいた私」の二人が同時に世界に存在することになる。


 私が二人いる世界を想像してみる。


「お前は誰だ?」「お前こそ誰だ?」


 そのまま二人、肩を組んで踊り出す。時には喧嘩もするだろうが、研究効率に関しては大きく向上するのは間違いない。今よりもっとずっと早い時点で、タイムマシンが発明されるだろう。


 しかし、そうするとやはりタイムマシンは生まれるということになり、その場合……どうなってしまうのだろう。


 さすがの私も、頭がこんがらがってきた。




 視点を少し変えて、もっとずっと過去――500年前などに戻って、歴史的価値のあるものを取ってくる、というのはどうだろうか。


 今の時代で手に入るはずのないものを持っていれば、過去に戻ったという話に信憑性が出てくる。


 しかし、よく考えるとそれもダメだ。あいにく私は、歴史的価値があるような代物を見分ける眼力は持ち合わせていない。


 せいぜいできることと言えば、織田信長あたりを攫って現代に連れてくることくらいだ。


 そうすれば、信長が登場するドラマに、本人役としてキャスティングできる。よりリアリティを増した番組は人気が爆発し、信長は名俳優として現代でも確固たる地位を築くだろう。


 そうとなれば、彼らを主軸に据えた芸能プロダクション「ノブプロ」の設立だ。視聴者が飽きて人気に陰りが見えてきたら、またちょろっと過去に戻って、豊臣、徳川あたりを連れてくればいい。


 そして私は、彼らをプロデュースする新時代の中心人物として脚光を浴び、億万長者に……タイムマシンなんて、もはやどうでもよくなってきた。




 いろいろと考えてはみたが、どうやらタイムマシンが本物であることを証明するのは難しいようだ。その場合、「実は私はタイムマシンなど発明していなかった」というのが、客観的に見て正当な結論だろう。


 つまり、今私の目の前にあるものはタイムマシンなどではないということになる。では、一体なんなのだろうか?


 無駄に大きくて、茶色い木製。平らな天板、本を立てる仕切り棚。いくつもの引き出し。


 もっとも適切な単語が頭に浮かんだ。




 冒頭の発言を訂正しよう。


 私は、学習机を発明した。


 もし君が望むなら、これが学習机であることを証明するとしよう。


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