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What color is the sky today? Sleep

「空は今日も青いか?当たり前のことを聞くな」 

石田衣良『池袋ウエストゲートパーク』より


  群青、紺碧、天の原。空の色は多種多様だ。同じように、貴方にとっての常識は私にとっての非常識。その事実が前提として存在するのが、私が三月まで務めた日本語学級だったりする。

 日本語学級での学習は、基本他校の子が1~2時間目と5~6時間目。3時間目と4時間目は自校の子の指導となっている。在籍している子の国籍は中国が一番多く、その他はバングラディシュ、フィリピン、ネパール、ウズベキスタンと様々。因みに、東京都では日本語学級が単体で存在するけど、他県では特別支援と一緒になっていたりする。

 うん、だろうね。だって、言葉が分からない=何していいのか分からない だし。その証拠に、1年生のネパール人の男の子は構ってポーズなのか廊下に寝転んでいる姿をよく目にしていた。最近はやらなくなったけど。

 私?そういう時はスルーですよ。だって、誤学習しちゃったら困るし。「じゃあね」一言声をかけて立ち去る。そんなことを繰り返していたら、「●●先生、日本語」と言いながら追いかけてくるようになりました。・・・今、授業中じゃない?そんな日も多いのが困り者だけど。

 まぁ、日本語教室で私と一対一だとちゃんとやるんだけど、全体指導だと指示が通らないんだろうな、とは思う。一度、私が空き時間に生活科の授業に入ったことがあるけど、担任の先生が水分補給の指示をしたのが分からず、うろうろしてたし。英語は日本語より理解しているみたいだから、私が[Drink the water]と言うと水筒を取りに行きました。因みに私は英検3級レベル。ただ、流暢に英語を話すフィリピン人の子に声掛けをお願いしたときに返ってきたのは「?」という顔。

 逆に流暢だと通じない。日本語学級に入って受けたカルチャーショックの一番はこれだったかもしれません。

 因みにこのフィリピン人とのハーフの男の子は6年生。この子に関しても、まぁ四方山話はたくさんある。まずこの子、最初は課題に全く手を付けなかった。私は産休に入った先生の代替で、その後を引き継いだんだけど、聞いた話去年からこんな調子だったとのこと。漢字に関しては全く手を付けず。担任の先生に「見てやってください」と言って渡された作文は一文字一文字ひらがなを書いて仕上げる。・・・これってさぁ。

 どう考えても読み書きに課題があるようだったので、彼には(問題文を)『読んでください』という魔法の言葉を授けることに。結果、私の授業では文句言いながらやるようになりましたよ。「こんなの簡単だよ」できる課題だと、得意げにそう言ってくる。

 ・・・

ま、内心どう思っていても口に出さないのがプロというものですからね。そして彼、どうやら英語で記述するのは問題ないと判明。アルファベットの方が漢字より画数も少ないから納得だけど。うん、まぁそれができるならそれでいいよ。私は事故の後文字を書くのが極端に遅くなり、英語の時間は書き写している最中に授業が終わったから、筆記体を覚えて何とかした人だからさ。

 「ありがとう」「助けてください」「ごめんなさい」。私の推しのVチューバ―によると、この三つが言えれば何とか生きてはいけるらしいから。中学校にも行っているというカウンセラーの先生に彼のことは話しておいたので、いざとなったら何とかなってほしいな。とりあえず、彼が騙されて闇バイトに手を染めないか、それが最大の懸念事項です。

 「心理的安全基地」っていう言葉があって、それは子どもが『ここにいれば自分は大丈夫』って安心できる場所のことを指す。しょっちゅう日本語学級に顔を出す(しかも、授業中)外国籍の子はネパールの子だけじゃなく、クラスが落ち着いてない中国の子やバングラディシュの子もいるから、きっと彼らにとっての心理的安全基地は日本語学級なんだろうな。

 だから他校から来る子の中でも、文化の違いによる質問なんかは多い。ハロウィンの時期はジャコランタンの絵を描いて、「これ何?」と聞かれたり、担任の先生とのやり取りで『給食をほとんど食べません』と書かれたり(多分断食中)。尚、日本語学習の中には5W1Hで文を作る課題があり、その中で高熱が出てもなかなか病院に行かず、ようやく行った時には母親が医者に怒られていた、ということを笑顔で報告したため、私が保護者の方に子どもの医療費の助成制度について説明したことも。

 その中で一番驚いたのは「先生は子どもの頃、嫌いな先生いた?」という話。・・・うーん、彼女は絵本好きで私ともすっかり打ち解けていたけど、これ、教師と児童の距離感じゃなくない?まぁ、いいけどさ。自校の6年生にも「先生、何か面白い話して」「昔付き合ってた人とかいた?」とか聞かれたし。

んー。でもこれさ、たぶん彼女は担任の先生に思うところはあるんだろうな。彼女の担任の先生には会ったことがあるんだけど、初任だったし。まぁ、私も初任の担任には苦しめられたからなぁ。いじめを黙認されたり(中学)。「このクラスは男女の仲が悪いので、話し合いをしたいと思います」と言って、男女の仲を完全決裂させられたり(高校)。高校時委員長だった私はそりゃあ苦労しましたわ。文化祭の仕事を大量に振り分けられ、苦情を言ったら「先生だって、こんなに仕事をしてます!」と言ってキレられたりした話をしたところ彼女は納得して「確かにそれはない」と言って考え込んだみたいだけど。いろいろと思うところはあるだろうけど、教師って言っても人間だからね。それは子どもにも言えることだけど。何にせよ、彼女は会話を重ねられるようになるのと同じくらいのペースで落ち着いて授業を受けてくれるようになりました。

 これは、他校の担任の先生大好きな2年生の男の子も同じだったから、多分会話して意思疎通ができると多少なりとも落ち着きが出るんだと思う。自校のネパールの子も会話が成立してる私と授業しているときはちゃんと座ってるからなぁ。日本語学級に通う子は、学年も日本語の習熟度もばらばらだから基本1対1で授業となる。だから、割と信頼関係も築きやすい。私はこの3月で日本語学級を離れたけど、彼らが新しい先生達ともうまくやっていってくれてるといいな。子どもによっては言葉が分からないと固まっちゃうから、上手にツールを使って意思疎通をしていってほしい。私に失礼な態度をとる初任者しか今年残留する先生がいないから、少し不安だけど。まぁ、教務主任が代わりに入るなら大丈夫でしょ。

 私が空の色を美しく思えるようになったのは、私の話を聞いて大事にしてくれる人たちに出会えたから。もう会えないかもしれない彼らは、私の幸せを望んでくれているから。私が教師を続けていられるのは、彼らがいたからだから、先生も君たちの幸せを願うよ。そんなことを思いながら、私は日本語学級を離れました。


 さて、無事に国試にも受かったことだし、次はエビデンスか。となると、特別支援かな。そうぼんやりと思いながら部屋の片づけをしていた4月3日、まさか後任の教務主任が倒れたから戻ってきてくれと電話が来るとは思っても夢にも思っていなかったさ。

 ・・・出戻りは来月になるそうです。


 

                                     続?


 「何で先生のやることにはいつもオチが付くの?」そう言っていた教え子がかつていたなぁ・・・


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