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幸福  作者: 大自然の暁
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新入生

 制服の袖に腕を通す。

 彼女がその制服を着た事は今までに何度もある。しかし今日、その行為には特別な意味が孕んでいる。今日は嶺淵(れいえん)学園の入学式だ。彼女は学園の生徒として初めての登校をする。

 彼女はリビングに出て、母親にその制服姿を見せた。


「ど、どうかな……。」


「とっても似合っているわよ?今日はあなたが花形なんだから自信を持ちなさい。」


「う、うん……。」


 母親は何を言っても不安げな娘の頭を撫でた。その黄金色の髪は撫でられる度に流動性を持ち、ボブカットが重力に従って整えられた。

 彼女は母の手が好きだった。優しく、落ち着ける手だった。昔から不安な時や、恐ろしい時、常に母の手に励まされた。


「ほら、早く朝ごはん食べて学校に行きなさい。入学式から遅刻なんて洒落にならないわよ。」


「わ、分かった!」


 彼女は食パンを急いで食べきり、しかし急ぎすぎて喉に詰まらせた。


「っむが!」


「ああ、もう!はいこれ水!」


「んっ……、はぁ、はぁ……。あ、ありがとう。」


 彼女は水を飲み干し、そしてすぐに出掛ける用意をした。鞄を取り、靴を履き、玄関のドアに手を掛ける。


「それじゃあ、いってきます!」


「いってらっしゃい。嶺淵(れいえん)学園の生徒さん。」


「っ! うん!」


 そして、彼女はその瞳に希望を抱き、一歩を踏み出した。





 彼女の名は名引(なびき) 黄色(きいろ)。彼女が幼い頃に父が自殺し、それからというもの女手一つで育てられてきた。彼女は貧乏に過ごしていたが、その事に文句の一つも言わず、今日に至る。

 中学校まで公立の学校に通い、嶺淵(れいえん)学園を受験した。

 そして今日がその入学式だ。





 彼女が嶺淵(れいえん)学園に到着すると、美しい桜並木に圧倒された。無限に続いていると錯覚しそうな程、遠くまで見える桜並木は、名引(なびき) 黄色(きいろ)にようやく学園の生徒としての実感を与えた。

 そんな彼女に近づく人影があった。


「ごきげんよう。高校からの入学ですか?」


「えっ、あっ、はい……」


 話しかけて来たのは同じ新入生だろう人物だった。しかし彼女の所作は実に優雅であり、その生まれが只者ではないことを余すことなく語っていた。名引(なびき) 黄色(きいろ)に話しかけた人物、彼女は美しい黒髪を靡かせていた。黒髪、黒目。まさに大和撫子という言葉の似あう生徒であった。


「では、ここで会ったのも何かの縁。入学式の会場まで共に行きましょうか」


「え、えっと……。いいんですか……?」


「? 何か問題でも? ……ああ、無理にとは言いませんが」


「い、いえ! 光栄です!」


 名引(なびき) 黄色(きいろ)は黒髪の少女、夜刀(やと) (すみ)と入学式の会場である体育館棟制服の袖に腕を通す。

 彼女がその制服を着た事は今までに何度もある。しかし今日、その行為には特別な意味が孕んでいる。今日は嶺淵(れいえん)学園の入学式だ。彼女は学園の生徒として初めての登校をする。

 彼女はリビングに出て、母親にその制服姿を見せた。


「ど、どうかな……。」


「とっても似合っているわよ?今日はあなたが花形なんだから自信を持ちなさい。」


「う、うん……。」


 母親は何を言っても不安げな娘の頭を撫でた。その黄金色の髪は撫でられる度に流動性を持ち、ボブカットが重力に従って整えられた。

 彼女は母の手が好きだった。優しく、落ち着ける手だった。昔から不安な時や、恐ろしい時、常に母の手に励まされた。


「ほら、早く朝ごはん食べて学校に行きなさい。入学式から遅刻なんて洒落にならないわよ。」


「わ、分かった!」


 彼女は食パンを急いで食べきり、しかし急ぎすぎて喉に詰まらせた。


「っむが!」


「ああ、もう!はいこれ水!」


「んっ……、はぁ、はぁ……。あ、ありがとう。」


 彼女は水を飲み干し、そしてすぐに出掛ける用意をした。鞄を取り、靴を履き、玄関のドアに手を掛ける。


「それじゃあ、いってきます!」


「いってらっしゃい。嶺淵(れいえん)学園の生徒さん。」


「っ! うん!」


 そして、彼女はその瞳に希望を抱き、一歩を踏み出した。





 彼女の名は名引(なびき) 黄色(きいろ)。彼女が幼い頃に父が自殺し、それからというもの女手一つで育てられてきた。彼女は貧乏に過ごしていたが、その事に文句の一つも言わず、今日に至る。

 中学校まで公立の学校に通い、嶺淵(れいえん)学園を受験した。

 そして今日がその入学式だ。





 彼女が嶺淵(れいえん)学園に到着すると、美しい桜並木に圧倒された。無限に続いていると錯覚しそうな程、遠くまで見える桜並木は、名引(なびき) 黄色(きいろ)にようやく学園の生徒としての実感を与えた。

 そんな彼女に近づく人影があった。


「ごきげんよう。高校からの入学ですか?」


「えっ、あっ、はい……」


 話しかけて来たのは同じ新入生だろう人物だった。しかし彼女の所作は実に優雅であり、その生まれが只者ではないことを余すことなく語っていた。名引(なびき) 黄色(きいろ)に話しかけた人物、彼女は美しい黒髪を靡かせていた。黒髪、黒目。まさに大和撫子という言葉の似あう生徒であった。


「では、ここで会ったのも何かの縁。入学式の会場まで共に行きましょうか」


「え、えっと……。いいんですか……?」


「? 何か問題でも? ……ああ、無理にとは言いませんが」


「い、いえ! 光栄です!」


 名引(なびき) 黄色(きいろ)は黒髪の少女、夜刀(やと) (すみ)と入学式の会場である体育館棟へと向かった。その最中、彼女達は奇異の目に晒された。夜刀(やと) (すみ)曰く、彼女の家は相当に有名な名家らしく、彼女の所為でそう見られているらしい。


「って夜刀(やと)!? もしかしてあの夜刀(やと)家の!?」


「ま、まあ、そう呼ばれることもあります」


(えぇ……、見られてるのって絶対夜刀(やと)さんの所為じゃないよ。そんな名家と一緒に平民の私がいるからだよ……)


 名引(なびき) 黄色(きいろ)は居心地の悪さを感じつつ、しかし夜刀(やと) (すみ)の善意に甘えることにした。当人がいいと言っているのだし、どうせ入学式が始まるまでの付き合いだと考えたからだ。右も左も分からない彼女にとって夜刀(やと) (すみ)が話しかけてくれたのは渡りに船であり、まさに救世主であった。


「あぁ、そろそろ体育館棟が見えてきますよ」


「お、おぉ……!」


 数分歩いてようやく見えてきたその体育館棟は、彼女の知るそれとはまったくの別物であった。

 外観はまるでどこかの王城のようだ。その白亜の建造物は天まで届くほど巨大であり、それは遠くにある筈なのにまるで近くにあるかのように錯覚するほどであった。どれだけ歩いてもまるで近付いている実感が湧かず、本当に夢でも見ているかのようだ。

 夜刀(やと) (すみ)はそんな名引(なびき) 黄色(きいろ)を見ると、まるでいたずらが成功した子供のようにくすっと笑った。


「どうですか? あなたは今日からここで学んでいくのですよ?」


「じ、実感が湧きません……。あれ、体育館棟なんですよね……?」


「そうなりますね。地下二階と地上五階建ての計七階層になっていて、風紀委員会の本部も併設されているんです。なので地下二階分と五階は風紀委員が所有しているため実質的には四階層ですが」


「ほ、ほえぇ……」


 名引(なびき) 黄色(きいろ)は規模が違い過ぎてなんと返すべきか分からなくなった。そのため言葉にならない音を発し、しかしそれでも思考は戻ってこなかった。

 そんな彼女の手を夜刀(やと) (すみ)は引いて行き、入学式の会場に足を踏み入れたのであった。

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