61 奴隷の解放
ユメカ先生が本部に報告に行ったり、泣いているハミラちゃんをリグがヨシヨシして落ち着いて来た。
「そろそろ話してくれても良いんじゃねえか?兄貴さん。」シードルがそう言った時にユメカ先生が戻って来た。
「報告は終わったから、しばらくすると撤収が始まると思うが、私達は今日はこのテントを使って休んでいて良いと了承を貰って来たぞ。ん?何かの話でもするのか?」シードルの雰囲気を察したのだろうか?俺には話をする雰囲気だったと思えないんだけど。
「ほら、兄貴。出たらって話してたでしょ。僕もシードルも気になってんだよ。」みんなして近づいて来る。
「サラマンダーと犬の話だよね。」二人とも首を縦に振った。
「俺が学院のダンジョンに初めて入った時にヒヨコを連れて歩いたって話は・・・・リグにしかしてないね。」考えてみればこれって犯罪になるかもって話だった気が?
「リグ。俺はどうやって話せば良いかな?」リグに助けを求める。
少しリグが考えて、スイ姐さんと盗賊風のお姉さんとユメカ先生を集める。
「この話は基本的に聞かれたくないんだけど、聞くなら絶対に他言しない事を約束してもらうけど大丈夫?」リグが低い声で聞く。ドスが聞いてて怖い。
「パーティー外だからって事だね。でも、聞いても良いって事はそれだけの信用は貰っているって事だろう?じゃあ信じてくれても良いよ。裏切者はもう居ないからね。」スイ姐さんが言う。
「裏切者って・・・ガンズが居ない。」よく考えたらガンズが見当たらない。
「兄貴さんって本当にボンヤリしてるよな。化け物と戦っている時と同一人物には思えねえよ。」
「あんなクズと子供なんて作らなくて本当に良かったわ。あんなのと一緒にされたら私達も迷惑よ。」盗賊風のお姉さんの彼氏って話だったな。
「ちなみにガンズのその後って聞いても良いか?」シードルが聞く。
「この町から追い出したわよ。深層で命が掛かってたって言っても、残るって言ってから逃げるなんて冒険者として許される行為じゃ無いからな。知り合いの居ない所まで逃げて冒険者をやるんじゃないか?」
「まあ、マトモなパーティーに入れて貰えないだろうけどね。」
「じゃあ。兄貴そのまま続けて良いよ。ヒヨコの話からでしょ。」
「学院のダンジョンって1層がヒヨコじゃない。攻撃されても問題無かったから、そのまま倒さずに放置してたんだよ。そうしたら増えて増えて30匹位になってたのかな?」
「ダーリンらしいね。」シアンが相槌を打ってくれる。
「ヒヨコを引き連れたまま、2階層に行ったんだよね。」
「なっ!お前」
「口は挟まないで。」リグがスイ姐さんに注意する。
「そうしたらボーンがなんか分からないけど、ヒヨコを殺し始めたんだよ。」みんなの表情が厳しい感じになっている。
「その事を思い出したら、変だなって気が付いてさ。」
「変て何が?」リグが聞いてくる。
「犬とサラマンダーの力差って、ヒヨコとボーンよりも大きいじゃない。なのにサラマンダーは犬を襲わないって変じゃない。」
「それとね。ボーンがヒヨコを襲ったら、ヒヨコがボーンに向って行ったんだよ。それまで俺の足元をウロウロしていたのに。」
「それで、兄貴さんは化け物に犬を殺させれば、犬があっちに行くって考えたって事か。」
「シードルの言う通り。だけど、サラマンダーは犬を攻撃しない様にしているとしたら、簡単には攻撃してくれないと思ってさ。目を潰して火を吐かせれば上手く行くかなって思ったんだよね。」
「だから、化け物が犬が燃えているのを見て止まってたのか。」
「犬がサラマンダーも夢中になっている間に逃げて来たって訳だよ。」
「兄貴じゃなきゃ気が付かない方法だね。」
「そうだな。そんな事をやった事の有る奴は普通は居ないからな。弱いモンスターが強いモンスターに襲われるって話は、フィールド系ダンジョンでは聞いた事が有るが、普通はフィールド系ダンジョンには行かないしな。」スイ姐さんがリグに同意している。
「私、ダーリンが檻に入っても出て来るまで待って居るからね。」やっぱり捕まる様な事だったらしい。
「ふふふふ。」話すだけ話をして、ダンはダンジョンでの疲れからシアンの膝枕で眠っていた。
「やっぱり疲れてたんですね。ダーリンさん。」エメルダが毛布をダンに掛ける。その隣ではリグとハミラが椅子に座って寛いていた。
「先生。聞いても良い?」リグがテントの反対側に居るユメカに声をかける。
「僕に用かい?」シードルと一緒にリグの近くまで歩いて来る。
「先生はダンジョンから戻って来た時にシアンの言った通りだったって言ったよね?その事が気になってさ。」
「ああ。あの事か。私はね地上に戻ってすぐに、シアンと聖女様に噛みついたんだよ。ダンよりも奴隷のリグの方を心配してあげるべきだってね。」そう言われたリグはシアンを見る。
「その話。別に気にしてないから良いよ。謝らなくても。」
「シアンもアイナも兄貴が残るなら自分だって、考えているのを知ってたの?」
「知って居たんじゃ無くて分かっていたんですよ。私もシアンちゃんも。」エメルダはダンの頭を撫でながらリグを見ないで答える。
「でも、そんな素振りは無かったよ。」
「リグはダーリンの事を分かって無いな。ジャイアントゴブリンの時もダーリンが一人だけ戦っていたでしょ。」
「それはそうだけど・・・」
「ダーリンはみんなを守ろうと思ってやっているんじゃないのよ。単に嫌なだけなの、自分よりも先に知って居る誰かが死んでいくのが。」
「僕も同じことをダンジョンから出て来て言われたんだよ。君と違って僕は全く信じられなかったし、色ボケだとしか思えなかったよ。君たちが揃って出て来るまではね。」ユメカが答える。
「俺もダンジョンの中でリグに先に帰って良いって、兄貴さんが言った時は耳を疑ったもんな。リグを捨てて行く前提だから、落ち着いてるんだと思ってたからな。」シードルは悔やむ様に笑う。
「納得して貰えたかな?僕が行った事の意味が。」
次の日になって珍しくギルドに来た。
「それでは、リグニール・ガストンの奴隷魔法の解除を行います。」このでっぷりしたオッサンが、この町の奴隷商人らしい。
「それでは手を付いて。」事前の説明で言われていた様に手を着く。
「始めます。」そう言って何やら言っているけど、まあ気にする事では無いと思う。
前を見るとリグと隣にはハミラちゃんが居て、二人揃って儀式が終わるのを待って居る。
「はい。これでおしまいになります。これで、リグニール・ガストンは奴隷という身分から解放されました。今後の活躍を期待しています。」そう言って、でっぷりしたオッサンは帰って行った。
「なんか思ったよりもあっさりしてたね。」
「兄貴さん。リグがお世話になりました。これからもパーティーメンバーとして使ってやってください。」ハミラちゃんに頭を下げられてしまう。
「ハミラ。勘違いしたらダメだよ。」
「何が?」俺も心の中で何が?って思ったぞ。
「今まで通り僕がリーダーで兄貴が働くの。」
「どういう事ですか?」ハミラちゃんが素朴な疑問を聞く様に聞いて来るけど、俺にも分からないのでリグを見る。
「良いかい、ハミラ。パーティーの財布を握っていて、作戦を立てたり、行動を決めたりするのって誰の仕事か分かるかな?」
「リーダーでしょ。」なるほど。どうやら俺のパーティーのリーダーはリグだったらしい。そう言えば、前にリグをリーダーにした気がしないでもない。
「そうだよ。だから、僕が兄貴のパーティーのリーダーをやってるって事。」なんかハミラちゃんの目線が冷たくなったような気がする。
「良かった。まだ、帰って無かった。」なんかギルドの受付のお姉さんが走って来た。
「どうかした?」リグが聞く。
「それがですね。今回の救援の費用の請求をまだしていなかったので、これが請求書です。」請求書をリグが受け取ると・・・・口がパカッと開いた。
「こ こ こ これを これを僕達が払わないと・・・・ダメなの?」リグが人と話すのに動揺するのを始めて見た。
「分割払いでも構わないので支払いをお願いします。」ハミラちゃんも請求書を覗き込んで、え!って顔になっている。
「いくらくらいなの?」せっかくなので俺も見て見るけど・・・・良く分からない。やけに同じ文字が並んでいるなって位でピンとこない。
寮に戻って来てシードルとリグと俺の三人で返済計画の会議になった。
「なんで俺達3人なのかをまず知りたいんだけど?」
「先に女子達が帰るまでの分は教会が聖女様を助ける為って事で、全額負担してくれているんだって。だから、残った僕達の捜索費用が請求されているって訳だよ。」リグが答えてくれた。
「俺達にこんな金が払えると本気で思って居るのかよ。しかも、学院からの請求が8割じゃねえかよ。どうなってんだよ。」シードルはかなりご不満な様だ。
「先生に聞いたら、これでも安くしているらしいよ。A級 B級合わせて20人は捜索に参加してくれたみたいだしね。」
「ちなみにいくらなの?」俺は金貨持ちなので余裕である。さすがに払えないって事は無いだろうから。
「白金貨一枚だって。」
「白金貨?あんまり使われない金貨だったと思うんだけど?」
「大判だって貴族が冒険者を集めて大きい事をする時くらいしか使われないと思うよ。それが10枚って笑うしか無いよ。」
「え~と。つまり金貨が100必要って事?大判って金貨5枚だっけ?」確か10枚だったと思うけど、5枚で合って欲しい。
「金貨10枚で大判1枚だよ。」
「いや。おかしいでしょ。その金額は、だって普通に金貨だって一枚稼ぐの大変なのに、それが100枚って明らかに高すぎるよ。」俺の所持金が金貨が5枚か6枚だったと思うから全然足りない。
「それがね。A級の冒険者になると一か月で金貨数枚は稼ぐんだよ。しかも、僕達は3か月もダンジョンに居たからね。むしろ助け合いの精神でかなりリーズナブルにしてくれているんだよ・・・これで。」
「ヨシ。これは依頼人の所に行ってみよう。あのオッサンならどうにかしてくれるかもしれない。」
「おお~。ご苦労さん。君のおかげで研究が進んでいるぞ。」
「それは良かったね。それでさ、今回の依頼で転移トラップに掛かって捜索して貰った費用なんだけどさ。」
「それは災難だったな。」
「費用って負担して貰えたりしないのかな?」
「無理だな。私も慈善事業でやっている訳では無いんでな。」
「でもさ。依頼の結果でそうなった訳じゃん。」
「私の聞いている話だと、宝箱を開いた事でトラップが発動したって聞いたが?」
「そうだけど、事実として依頼の結果でしょ。」
「違うな。宝箱を取って来るのが私の出した依頼なら、君の言って居る事は正しい。だが私が出した依頼は鱗粉を取って来る事で、宝箱は開ける必要がそもそも無い。
つまり私の依頼の結果起きた事では無く、君たちが宝箱を開けた事によって起きた事だ。それで私が支払うのは道理が通らないな。」
「兄貴。無理だよ。」
「そこを何とか。」
「私に出来るのは、君達の魔石を少し高く買って上げられる事だけだ。」そう言って魔石を入れると自動で金額を算定してくれる箱を出して来た。
「そうだ。犬の魔石がかなりあったはず。」3人でせっせと魔石を計算してくれる箱の中に入れて行く。
「どうだ。」今回は一応とは言え、深層のモンスターの魔石を大量にぶち込んだ。借金を返して余る位になるんじゃ無いだろうか?
「素晴らしいな17億ルードとは大したもんだ。これで私の研究も捗ると言う物だ。金を渡してやってくれ。せめてもの助けに端数は切り上げて17億だからな。」
そして、女の人が大きな金貨を3枚と俺の持っている金貨を4枚持って来てくれた。
「これはこれで凄い金額なんだけどな。」リグが複雑な表情で呟いた。
これで3章も終了。
良かったら評価して行ってくれたら嬉しいっす。
じゃあ4章で。




