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60 オオカミの巣9

 「リグ シードル話が有るから来てくれ。」二人が起きたので呼ぶ。


 「もしかして何か思いついたの?」


 「確証は無いんだけどな。試したい事が有るんだ。上手く行けば此処から出られると思うんだけど、失敗したら俺がやられちゃうと思うんだ。」


 「だから、先に逃げろって言うなら断るよ。」リグに断られる。


 「俺もだ。美味しい所の独り占めは許さねえぞ。」


 「美味しい所って、失敗したら巻き添えになるんだよ。」


 「俺達は兄貴が此処から生きて出る事に賭けたんだよ。当然だけど賭けに勝った時に、見返りを求めるのは普通でしょ。」


 「俺と一緒に帰るのと、別々に帰るのってそんなに違うの?」俺には良く分からない。


 「そりゃそうでしょ。後から兄貴が無事に帰ってきたら、僕は主人の情けに助けられた奴隷じゃん。でも、一緒に帰ったら転移トラップを突破した実績を持つ冒険者って事だよ。」


 「そうすりゃリグも兄貴さんに奴隷の身分を解放して貰って、ハミラと婚約できるな。」


 「そういう事だからよろしくね。兄貴。」


 「まあ、そういう事なら最後まで付き合ってもらうよ。でも、ハミラちゃんってサイゼリエール君と婚約してるのに、リグとも婚約出来るの?」疑問に思ったので聞いて置く。


 「二人の貴族がプロポーズした場合は女に選ぶ権利が有るんだぜ。兄貴さん。基本的には男からしかプロポーズは出来ないし、プロポーズしてきたのが自分の家よりも上の家だと断り辛いけど、もう一人の男がプロポーズしてくれれば話は別って訳だ。」


 「普通にそれだと、家同士で揉めそうだけど大丈夫なの?」


 「後からプロポーズする男が争う覚悟だから別に良いんだよ。争う覚悟が無ければ、そもそも後からプロポーズなんてしねえよ。」


 「そういうもんなんだ。」


 「で、僕達は何をすれば良いの?ほとんどは兄貴一人で出来るんだろうから、必要無い事は聞かないけど必要な事も有るでしょ。」


 「サラマンダーが出て来てからは犬を倒さないで欲しいかな。もしも、犬が攻撃してこないなら放置してて。」


 「それだけ?」


 「他には・・・・サラマンダーの火炎に気を付けて。」それくらいしか無いかな。


 「特に無いって事な。」




 干し肉を齧って休憩してから部屋を出て戦いを始めた。たぶんこれが最後の戦いになると思う。もしも、俺の考えが間違っていたら、さすがに生きて戻って来るのは厳しいと思うんだよね。サラマンダーの火に焼かれて死ぬのは嫌だけど、逃げていたって死ぬだけだしここが正念場ってか。


 犬は余裕だからサクサク倒して行く。


 「今回は早いね。」リグの言う通り犬を10体も倒して無いのに、足音が聞こえて来た。


 「じゃ、行って来るよ。」


 「頼んだぜ。兄貴さん。」


 「僕達は見学しているよ。」


 サラマンダーが出て来る前にT字路に出来るだけ近づきたいので走る。


 「あれ?反対だ。」いつもは左側の通路から出て来るのに、今回は右側から足音が聞こえてきている。


 左だと思い込んでたから左に寄っていたので、ちょっと迂回して右側に移動しながら光の剣を取り出す。


 左側の通路からは犬が5体も飛び出して来た。想定よりも数が多い、圧縮ショットを作ろうと思ったら、犬が撃たれて吹っ飛ぶ。


 犬はリグの攻撃を警戒して俺の方に向って来なくなったから、圧縮ショットを霧散させる。


 右側の通路からサラマンダーの鼻が見えて来た。


 「この位の位置で良いかな。」それなりに助走付けられると思う。


 サラマンダーの鼻づらがドンドン出て来るけれど、まだだ。タイミングをしくじると台無しになるから、得意じゃ無いけどガマンする。


 まだ


 まだ


 まだ


 サラマンダーの目が見えた。


 光の剣に魔力を送りながら、全速力で走り出す。俺の方を全く見ようともせずに左に左にって進んで行くサラマンダーの目に向って飛び上がる。


 「食らえ」サラマンダーの目と口の間の皮膚に足の裏を当てる様にして、勢いのまま逆手に持った光の剣をサラマンダーの目に突き立てる。


 抵抗らしい抵抗を感じずにスウーッと根元まで刺さる。


 「グエエエエエエエ」 


 光の剣の魔力を止めて、サラマンダーの顔を蹴って地面に着地した。


 直後にいつもの様に前足で蹴ろうとしてきたのを避けて距離を取る。首を動かして俺を探しているけれど、片目のせいで見えないから見つけられないらしい。


 順調すぎる位に順調だ。まあ、順調じゃ無かったら死んでるんだけどね。


 犬は後ろの方でリグとシードルと戦っている。


 リグのパチンコとシードルの圧縮ショットで吹っ飛ばされて、ダメージを負った犬は後ろに下がった。でも、元々後ろに居た犬もダメージが有るのか距離を詰めないで睨み合った。


 俺はサラマンダーに見つからない様に息を潜めて成り行きを見守る。


 俺を見つけるのを諦めたのか?リグ達を見付けたからなのか?移動を再開した。


 ちょうど良い位置になるまでサラマンダーと歩調を合わせて進む。動きは遅いけど、響く足音で緊張感が半端ない。さっさと終わらして此処を離れたいけど、出来るだけ良い位置で事を起こしたいからガマンだ。


 ガマン


 ガマン


 ガマン


 後ろの犬を再度確認して、気合を入れる。


 「ここだ」再度、光の剣に魔力を送って、喉を斬る。


 「グエエエエエエ」


 ドン ドン ドン


 尻尾がT字路の壁に当っているのが見える。


 もうちょっと進んでいたら、尻尾の攻撃が降って来たんだ。忘れてたけど、運良く助かった。


 さっき目ん玉をやった時には尻尾は使わなかったのにな。


 サラマンダーの右目が見える位置まで慎重に移動する。


 サラマンダーが顔を俺の方に向けたタイミングで、バッチリ目が合った。瞬間に体中の毛穴が開く感じがした。


 ヤバイ。咄嗟に潰した目の方に2歩大きく動いてから、サラマンダーの方に向ってダイブ。


 地面に倒れ込んだ直後に俺の近くを火炎が通り過ぎる。服が焼けるんじゃって位の熱さだ。


 歯を食いしばって叫びたいのを飲み込む。火を少し下げられただけで俺は火達磨になる。


 攻撃が止んだのを確認してから音を立てない様にゆっくりと起き上がる。


 死角を意識しながら慎重に後ろに後ろに動いていく。なんでかサラマンダーが動く気配が無い。


 「ワンワンワンワンワン」けたたましく吠えながら3体の犬がサラマンダーに向って行く。


 1体の犬がサラマンダーに体当たりをするけど全くダメージ何て無い。それでも他の犬たちもサラマンダーの足元で吠えている。


 サラマンダーの後ろから追加の犬が来たけど、他の犬たちの行動に戸惑っているのか?サラマンダーから少し離れた所で様子を見ている。俺の方にもリグの方にも行く気配は無い。


 しばらくするとサラマンダーが移動を再開した。左目が無くて首元をザックリ切られているのに気にした様子も無く歩き始める。


 「ギャン」犬がサラマンダーに蹴られて宙に舞う。すると、様子を見ていた犬たちも加わった。


 足に体当たりしたり、足元で吠えたりしているだけで、特に何が出来ている訳でも無いのに向って行く。やっぱりヒヨコと同じ反応だ。


 サラマンダーは慎重に足を進めているみたいだけど、たまに蹴ってしまうみたいで犬が宙に舞う。その度に犬はヒートアップしていく。


 「兄貴。どうなってんのコレ?」


 「とりあえず出てから話すよ。俺はもうちょっと確認してから行くから先に行って。」


 「絶対に僕達と同じ出口石で出て来てもらわないと困るからね。」真剣な目でリグに言われる。


 「じゃあ、出口石を用意して置いて、次の犬がサラマンダーに向って行ったら3人で揃って出れば良い?」


 「出口石は出したよ。」


 3人で次の犬が来るのを待つ。犬たちは俺達には全く目もくれずに、サラマンダーに向って体当たりしたり足の周りをグルグル回ったりしている。


 サラマンダーとしては凄く歩きづらそうだ。


 「あの化け物が犬に気を使っているのか?」


 「お!次のが来た。」様子を見る事も無く4体の犬がサラマンダーに向って行く。


 「準備を始めるよ。」そう言って、リグが出口石を使った。





 「眩しいな。」外に出ると太陽は高く上がっていて、昼日中だった。


 「この時間には定時報告は無かったはずだが?」そう言いながらユメカ先生が、手元の資料を見ながら俺達の方に向って歩いて来る。


 「ユメカ」シードルが声をかける。


 「誰だ。私の・・・・シードル。」資料から目を上げたユメカ先生が固まる。


 「リグ。干し肉持ってない?」これから恋愛映画が始まりそうなので、ツマミが欲しい。


 「僕が持っている訳無いでしょ。全部置いて来たよ。」


 ユメカ先生が動き始めるよりも先にシードルが行って抱きしめた。ユメカ先生も抱きしめ返した。


 「なんか知り合いがやってると俺の方が恥ずかしくなるな。」感動の再開なのに、俺から見ると『シードル ユメカ先生 主演の恋愛映画』を見ている気分になる。


 「確かにそうだね。」


 「しかし、だいぶ汚れているな。」


 「あ!悪い。臭かったよな。」シードルが慌てて離れる。


 「シアンが言った通りだな。」ユメカ先生がリグを見て言う。


 「それって」リグが言うよりも早くユメカ先生が口を開く。


 「みんなあっちの仮設テントに居るから来てくれ。」そう言って先に立って歩いて行く。




 ユメカ先生に着いて行くとテント村みたいになっている所に来た。どれだけテントが有るんだろうか?10や20じゃきかない位にテントだらけだ。


 「此処だ。」そう言って中に入って行く。小さいテントで2人用位に見えるけど・・・・4人も入って大丈夫なのか?


 「なにこれ?」中は明らかに広い。普通に学校の教室位の大きさが有って、中には先に帰ったみんなが居る。ちょうどシアンと目が合った。


 椅子に座っていたけど、立ち上がって走って来た。それを見たエメルダも俺を見付けて走って来る。


 「ダーリン。」シアンを受け止める。そのままエメルダまでダイブして来た。


 「ちょ 」受け止めきれずに倒される。


 「いててて。」二人の体当たりで転んで、思い切り背中を叩き付けられたぞ。抱き着いている二人を見ると口が開いた。


 「お帰り」二人がニッコリと笑った。


 「ただいま。」背中は痛いけど、生きて帰って良かった。


 連日の徹夜の後に家族に「お帰り」って、迎えて貰えるから頑張れるって言ってた奴が居たけど、こんな気持ちだったんだろうか?

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