56 オオカミの巣5
他の事に気を取られている時に限って、犬が6体揃ってしまった。
3体づつ左右に分かれて攻撃をしてくる。前回の時の打ち合わせ通りにシードルの方に動く。
少しでも時間を稼ぐためにスイ姐さんが炎の壁を犬の前に出すけど、一番前の犬は止まったけど二番手・三番手の犬は炎の壁を勢いのままに越えて行った。
先に炎の壁を抜けた犬をシードルが盾で受け止める。次の奴がシードルに時間差で飛び掛かろうとしているので、俺も勢いのまま踏みつける様にして蹴り飛ばす。
一度は炎の壁の前で立ち止まった犬も炎の壁を越えて来た。犬を蹴ったおかげで走っていた勢いを止めた俺は、振り向きざまに炎の壁を抜けた犬を横薙ぎ斬る。
切られてよろける犬に返す刀でもう一度斬ると、首が切れて倒れた。
他の2体を見ると俺が蹴った方は、盗賊風のお姉さんが短剣でいつも通りにサクッと処理している最中で、シードルに飛び掛かっていた方はスイ姐さんとシードルが二人で戦っていて、そろそろ決着が付きそうな感じになっている。
ガンズの方を見ると、残りは1体になっていて3対1になっていた。
少しすると頑張っていた2体も倒れて、呆気なく6体は倒されてしまった。
「犬だけなら何とかなりそうだな。」みんなの思いをガンズが代弁してくれる。
「だからと言って気を抜いて戦って良い相手では無いぞ。」スイ姐さんが後ろから答える。
「違いねえな。」そうこう言っている内に犬が来る。
次の6体を倒して、次の2体と戦っている時にあの足音が聞こえた。
「ダン。犬は他に任せて少し前に行ってくれ。」ガンズが叫ぶ。
後ろのガンズ達よりも10mは前で待ち受ける・・・・う~ん、デカイ。顔のサイズだけで小型の軽自動車くらいの大きさが有りそうだ。
まるでトラックみたいにゆっくりT字路を曲がって来る。たぶんだけど、長さは大型トラックと同程度は有ると思う。
T字路を曲がって顔が俺の方を向く。顔はティラノサウルスを少し平たくした様な感じで表面はザラザラしてそうな感じだ。
「想像以上にデカいな。T字路を曲がっただけでこんなに近くに来るのか。」そう言いながら剣をしっかりと握り直す。
「ダン。反対側に犬が居るぞ。」ガンズに言われて見ると、サラマンダーの顔が通路の右寄りに居るから俺も右寄り居るんだけど、左の壁際に3体の犬が居てこっちを見てる。
とりあえず小手試しに威力マシマシのマジックショットを顔面に打ち込む。
思いっきり目の辺りで弾けたけど・・・・何も無かった様に動き続ける。
サラマンダーの下あごが俺の頭の高さと同じだ。大きく3歩進んで下あごの下に入って首を横薙ぎ斬るけど・・・・金属と金属を打ち付ける様な音がしただけで傷が付いている様には見えない。
「やべ。」前足が俺を蹴り飛ばしに来たので右に大きく飛んで躱す。
「マジかよ。」躱した先に尻尾が降って来る。
もう一歩右に跳ねて転がりながら避ける。壁際で立ち上がると、今度は尻尾が鞭の様に来るのが分かったので剣を収納空間に入れながら飛び込み前転で後ろに逃げる。
飛び込み前転で起き上がったらすぐに、飛び込み前転をして振り返ると、俺よりも大きい氷柱が飛んでいくところだった。
氷柱だけじゃなく、光や水球やらパチンコやらで一斉掃射って感じでサラマンダーの巨体が見えなくなっている。
次の瞬間、巨大な氷柱が途中で弾け飛んでバラバラになった。
サラマンダーの足音が聞こえる。
「逃げるぞ。」スイ姐さんの声がダンジョンに響き渡る。
「ハア ハア ハア。」安全地帯の部屋に入ったら、急に息が苦しくなった。閉まっていないドアの向こうではサラマンダーが帰っていくところだった。
「あれだけやってもダメージ無いのか?」シードルの言葉通りで、サラマンダーにはダメージらしきものは見当たらない。散歩でもして居るかのように、全く変化がない。
会議になるのかな?って思ったけれど、スイ姐さんは何も言わずにガンズと盗賊風のお姉さんの所に行ってしまった。それを見たシードルはユメカ先生の横に移動した。
「ダーリン。大丈夫だった?」隣に来たシアンに話しかけられる。
「ケガがある様なら言って下さいね。」シアンの反対側にはエメルダが来た。
「兄貴。干し肉取って来たよ。」そう言ってリグが樽の中から取って来た干し肉を俺に渡して来た。
4人で壁を背にして干し肉をモグモグする。高い保存食の壺は持ち主が収納空間に入れてある。樽と同じように部屋に無造作に置いて有ると、あっという間に無くなるだろうって事でスイ姐さんがみんなを集めて食べるタイミングを決めるらしい。だから、出来るだけ食べないでくれって言われている。
「兄貴。もう一回、サラマンダーと戦えって言われたらどうするの?」
「やるかな?でも、剣で斬っても全くノーダメージじゃな。」
「あれだけ魔力を込めたのに軽く弾かれちゃったしね。どうしたら良いんだろう?」やっぱり氷柱はシアンの攻撃だったらしい。
「シアンちゃんの魔法でダメだと私じゃ役に立たないし・・・・」
「ダン。デザート出してくれ。」スイ姐さんに言われて壺を出して行く。ナッツはデザートと言うのか疑問だけど、ガンズもシードルも良く食べる。
「ん!なにこれ?」壺と壺の間に短い竹の様な物が有ったので取り出す。
「どうしたの?またガラクタが入ってたの?」リグはドロップアイテムを拾う行為をガラクタ集めって読んでいる。
「ガラクタじゃ無いわい。」確かにギルドで買取依頼が発光されている訳でも無ければ、魔石よりもかなり安いので収納空間を圧迫するだけ損なのだ。俺みたいに収納空間が小さめだとなおさら。
始めの方こそ(もしかして?)って拾っていたけど、拾うのを止めてもリグの中では俺はガラクタ集めをするってイメージが付いてしまっているみたいで、俺の収納空間に良く分からない物が入って居るとガラクタ認定されてしまうのだ。
「でも、なんだろう?」荷物を整理すると買った覚えの無いものが出て来る現象だろうか?
「ちょっと見せて。」珍しくリグが興味を持ったので手渡す。
「人工物だと思うんだけどな。シアン分かる?」リグがシアンに手渡す。
「何だろうね。魔力を入れて見ても良い?」
「あ!」シアンの一言で思い出した。
「シアンちょっと貸して。」シアンから受け取って魔力を注ぎ込むと、青い光の刀身が生まれた。
「兄貴さん。それってサラーシアが言ってた光の剣だよね?」
「そうだった。サラーシアちゃんの彼氏がくれたんだったよ。」すっかり忘れて収納に入れっぱなしにしてた。
「でも、確かに燃費に問題は有るな。」凄い勢いで魔力をガリガリ削られて行くのが分かる。たぶん1分位しか刀身を出してられないと思う。
「されだったら、サラマンダーにもダメージが入れられるかもしれないな。有名な光の剣のレプリカだろう。」
「そうだけど知ってるの?」スイ姐さんに聞く。
「本物は魔剣と同程度だと言われているけど、レプリカは魔力の消費が激しいのは知って居る。ただ光の剣とレプリカでは攻撃力自体は優劣が無いって事もな。」
「そうなんだ。」魔力を注ぐのを止めて、持ち手だけになった光の剣を見る。攻撃力だけなら有名な剣に匹敵するなら可能性は有りそうだ。
「そうと分かれば、ちゃんと休んで次の戦いに備えるぞ。」そう言ってスイ姐さんはお気に入りのキュウイのドライフルーツを4個持って行った。
デザートが終わるとエメルダに洗浄魔法をかけて貰う。
「そう言えば、シアンは洗浄魔法は使えないの?」順番待ちで暇なので聞いてみる。
「洗浄魔法自体は簡単な魔法だから使えるよ。でも、コントロールが難しくてあんまり綺麗にならないから、上手なアイナにお願いするんだよ。」
「使えるけど、あんまり綺麗にならないんだ。」
「リグの洗浄魔法なんて、やらないよりはマシってレベルよ。気持ちの問題って言えるくらいに。」
「僕は使えない兄貴よりはマシってレベルって事だよ。」リグがチクッ嫌味を言う。
「なら学院に帰ったら、俺も覚えれば追い付けるな。」すぐに追い越して逆に嫌味を言ってやろう。
洗浄して貰ったら後はシアンとエメルダに挟まれて眠るだけ。シアンは分かるけれどエメルダが隣に来る理由は不明だけど、女子の甘い香りに包まれてなかなか寝れなかったりする。
もちろん不満な訳では無くて、こんな状況で何が有る訳でも無いのに緊張するのだ。
VSサラマンダー2回戦だ。
犬はすでに危険を感じる敵では無くなった。しっかりと剣が当たれば一撃で倒せる様になったから、囲まれない限りはそんなに危険は無い。
今回は初めての7体同時に出現したけれど、楽勝だった。
犬が数回出て来た後で、サラマンダーの重量感を漂わせる足音が聞こえて来る。
サラマンダーの気配を感じると空気が変わる気がする。さっきまで緩やかな感じからピリピリと張りつめた様な感じに。そして、左側からサラマンダーが顔を出した。
別に俺の事を見ている訳でも無く。ただ前を見て進んでいるだけなのに、背中から冷たい汗が出るのを感じる。
サラマンダーの脇から2体の犬が飛び出して来た。サラマンダーと違って早いのであっという間に俺の前に到着する。
先頭の犬が飛び掛かろうとしたタイミングで、リグのパチンコが直撃して怯んだのでその隙に素早く袈裟斬りにする。後ろの奴を見ると地面から岩の棘がせり上がって串刺しになっていた。
気持ちをサラマンダーに切り替えながら剣を光の剣に持ち替える。
前回と同じ程度の距離に来たタイミングで、3歩大きく踏み込んでサラマンダーの喉元を横薙ぎに斬ると、鋭い刃物で切られたようにキレイに筋が付いてからパカッ開いた。
「グエエエエエエエ~~~」と大きな声でサラマンダーが声を上げると、傷口から赤い血があふれ出て来る。
前回同様に蹴る?踏む?に来る前足を避けると尻尾が振り下ろされてくるけれど、前回よりも明らかに攻撃が浅い。
余裕をもって大きく一歩後ろに跳んで避けると・・・・大きく口を開けてサラマンダーが俺を見ている。
直感的に大きく横に飛んでゴロゴロ転がって避けると火炎を吐きやがった。キャンプファイヤーの炎の近くに居るみたいに熱い。
「やべ。」炎から尻尾が飛び足して来たけど、避けられない。咄嗟に右手の盾に魔力を込めて受け止める。
盾に尻尾が当たったと思ったら・・・空飛んでいる空中で足をバタバタするけど、空を掻く感触しかない。なのに、サラマンダーが俺を見ながら大きく口を開ける。
「終わった。」避けるどころか動く事も出来ないし、よく頑張ったよ。俺。
と思ったんだけど、サラマンダーの開いた口に大きな氷柱が突っ込んで行った。
俺は運よく足から着地出来たので、後ろに下がって距離を取る。
見るとサラマンダーの口に氷柱が突き刺さったんでは無く、噛む事で止めている。
バキバキバキバキって音を立てて氷柱がかみ砕かれると、大きな氷柱はキラキラと光りながら消えていく。
「逃げるぞ。」スイ姐さんの声がダンジョンに響く。
速攻で部屋の中に逃げ込む。サラマンダーの動き自体は遅いから、逃げるのは難しくない。
「兄貴。手は居たくないの?」部屋に入ってすぐにリグに聞かれる。
「何が?」と言ってみると・・・盾で受けた右手が盾の腕輪と肘の間位の位置にもう一つ関節が出来た様に曲がっている。
「ダーリンさん。ちょっと我慢しててくださいね。」呆然として居たらエメルダが来て腕を無理やり真っ直ぐにした。
すぐに回復魔法をかけてくれて痛みを感じたのは、エメルダが腕を無理やり戻す時だけだった。まあ、それも一瞬だったから呆然としている内に治ったって感じだ。
「すぐに動くとまた折れちゃいますから、ちょっと休んでくださいね。」そう言ってエメルダが笑いかけてくれる。フッ!あと5年若かったら恋に落ちていただろうな。
「見て分かるくらいにはダメージが入ったが、とても倒せそうには見えなかったな。」スイ姐さんが隣に来た。
「メチャメチャ怒ってたけどね。」
「シアン。あの火炎は防げそうか?」
「準備が出来て居れば防ぐのは出来るけど、急に来たらどうにもならないと思う。」
「さすがにアレを倒すのは難しいか。」スイ姐さんが溜息交じりに呟いた。
「兄貴はどう思うの?」
「どうって言われても、まだ2回しか戦ってないし。何とも言えないかな。」
「お前は頭大丈夫か?一度食らえば全滅する様な攻撃してくるような化け物と、まだ戦う気なのか?」ガンズがなんでか怒ってるんですけど。
「でも、ダメージは入ったよ。」ガンズが(ダメだコイツ)って思って居るのが分かる。でも、ダメージが与えられるなら勝てる可能性は有ると思うんだけどな。




