53 オオカミの巣2
出て来たカナブンと影から出現する黒い犬を駆除する簡単なお仕事。黒い犬を倒すのに少しだけ罪悪感を感じるけれど、モンスターなので割り切って倒す。
すでに今日だけで飽きる程やっている作業を終わらして後ろを見ると・・・・今更ながらに気が付いてしまった。
「兄貴さんどうしたの?」
「なんで俺って前衛なんてやっているんだろう?どう見たって後ろの方が楽しそうなのに、俺の相手は虫・犬・虫・犬。なんか嫌になって来るよね。」
「た 確かに・・・・でもよう。後ろに行ったとして、兄貴さんならどうやって話をする?」
「そりゃ・・・・・何の話をしているんだろう?」言われてみれば大勢の女の子を相手に俺は何を話すんだろうか?高校時代に何かで女子に紛れて男一人の時には空気の様になっていた事を思い出した。
「確かにダンジョンの中では女と話をする機会は少ないが、前衛の方がモテるぞ。」
「そうなの?」話をして無いのにモテるってどんな状況?
「そういう話はよく聞くけど・・・・」シードルと二人でデカい人を見る。
「盾になって守ってる姿を見るとキュンって来るらしいぞ。」
「ガンズさんはそういう経験が有るんですか?」シードルが突然敬語になった。
「そりゃパーティーを組んで一年もすれば良い感じになる奴も居るさ。」チラッと後ろを見る。
「もしかして・・・・」スイ姐さんの方じゃ無かったし、盗賊風の女の子とって事なんだろうか?
「ホラホラ次が来たぞ。」気になるけど、カナブンが来たので倒しに行く。
「今日はこんなもんにするよ。」俺がカナブンを倒して戻って来ると、スイ姐さんの大きな声がダンジョンに響いた。
「なにしているの?」みんなが集まっている所に来ると、デカイ人が白い水筒の様な物を出して何かやっているので聞いみる。
「何って、休んでいる時にモンスターが来たら面倒だろ。」
「休む?今日は終わりじゃ無いの?」俺の勘違いで休憩だったのかな?
「兄貴さんはモンスターと戦ってて聞いて無かったんじゃない?」
「そういう事か。目標量が集まるまでダンジョンに泊まるんだよ。」
「そういう事だったのね。」後ろでは食事の準備をしているし、よく見れば端でテントを作ってる。
「でもダンジョンの中でテントって必要なの?」
「男はともかく、女には必要だろ。」
「なるほど。」確かに女子のプライバシーは必要だった。シアンには辛い思いをさせて居たかもしれないな。
「ダン。私達が見張りに立つよ。」スイ姐さんから直に指名される。もしかして告白の予感?
みんなは行き止まりの壁の近くでまとまっているけど、俺とスイ姐さんは30mは離れた所まで来た。
「本当に大丈夫なのかい?」干し肉を差し出して来るので受け取る。
「何の話?」干し肉を齧ると一番安い干し肉の味がする。
「モンスターが来るとあんたは起きるんだろ?」
「もしかして、その確認だったりする?」愛の告白では無いらしい。まあ、照れた様子も無かったし、そんな事だろうとは思ったけどさ。
「他に何が有る。」
「二人になりたかったとか?」
「プッ!何を言いだすかと思えば、冗談も言えるんだな。」笑顔は可愛いんだよな。
干し肉をカジカジしながらガンズ(デカイ人の名前らしい)とミリー(盗賊風のお姉さん)が付き合っているらしくて、その愚痴を聞いていた。何でもたまにダンジョンの中でイチャイチャするらしくて3人パーティーだと疎外感が半端ないらしい。
一通り話が済んでスイ姐さんが早く寝ろオーラを出して来たので寝たふりをする。
気が付くとカナブンが向かって来たのでサクッと倒して戻る。
「本当に寝てたのか?」
「どうなんだろう?」俺に聞かれても困る。気が付くと敵が来ているだけで、自分が寝てるかどうかの自覚何て俺には無いぞ。
「まあ。良いや。マント掛けてやるから出しな。」言われるままに白いマントを収納空間から出して渡すと、座った所に掛けてくれた。
「ハッ」気が付くとスイ姐さんが隣で座って眠っていた。
カナブンと犬をサクッとやって戻って、スイ姐さんの寝顔を覗き込む。本当に寝ているんだろうか?少しドキドキしたので起きる前に俺も隣に座る。
マントをスイ姐さんにも掛けた方が良いかな?でも、掛けたら起きちゃうかな?って考えて居たら、またしてもカナブンが・・・見るとスイ姐さんは居ない。
「なんか凄い虚しい気持ちになるんですけど。」独り言を言いながらカナブンと犬をサクッとやる。
次に起きてカナブンを倒して戻ると、マントを被ってシアンが寝てた。
「起きた時には居たのかな?」いつも通りにカナブンに真っすぐ向かって、サクッとやったから全く覚えてない。
座ってもカナブンが出て来なくなったから、収納空間からナッツと少しお高い干し肉を出してモグモグする。
買い物に行くとついつい必要も無いのに保存食を買ってしまうので、俺の収納空間いっぱいに保存食が入っていたりする。
「ダーリンさん、おはようございます。シアンちゃんはこっちに来てたんですね。探しちゃった。」
「おはよう。俺もさっき気が付いた所だよ。食べる?」
「この干し肉って・・・それにナッツも・・・」何を驚いているんだろうか?
「ダーリンおはよ。」シアンが起きて寝ぼけ眼で抱き着いて来たけど、そのままにしてナッツをモグモグする。ついでにシアンの口にもナッツを入れて上げる。
「ダーリン。果物ある?」ナッツを食べて覚醒したみたいなので、イチゴを干したような奴を出す。
「アイナもどうぞ。」そう言ってシアンがエメルダに渡す。
「良いんですか?」
「ダーリンは保存食を買うのが趣味みたいなもんだから、食べて上げないと次のが買えないでしょ。」別に趣味な訳じゃ無いけど、町に行くとついつい買ってしまうんだよな。
「そうなんですか?」
「まあ遠慮せずに食べてよ。」エメルダはチビチビ食べ始めた。
「こんな所に居た。」しばらくしたら侍女さんもエメルダを探しに来たらしい。
「シアン。私も貰って良い?」なんでか侍女さんは俺じゃ無くてシアンに聞いた。
「良いよ。」そして、シアンも自分の物の様に答える。
「・・・・・」別に良いんだけど、ちょっと聞いて欲しかったなって思った。
しばらくするとみんな起きて来て、昨日と同じ干し肉を配ってくれたけど収納空間に入れて女子3人のガールズトークを隣でボ~と聞いていた。
「兄貴 兄貴。」ボ~として居るとリグが来て小声で話しかけて来た。
「どうした?」俺も空気を読んで小声で返す。
「いつもの保存食って持ってないの?」
「持ってるけど?」
「ちょっと頂戴。」さすがにみんなが起きているので、壺は出さずに収納に手を入れて干し肉とナッツを直接渡す。
「ありがと。」
ふと周りを見るとスイ姐さんのパーティー3人とユメカ先生にシードルが一つのまとまりになっていて、女子3人に俺とリグの5人で二つのグループになってた。
「シードルは先生狙いじゃない。」侍女さんがシアンとエメルダに言ったのに、俺がドキッとしてしまった。
「そんな事って有るの?」エメルダが反応する。
「確かにシードルから積極的に話しかけているね。リグは何か知ってる?」シアンがリグに聞く。
「何も聞いて無いけど、最近は妙にやる気になっているね。」
「そもそもの話で私とアイナは教会関係で、あんた達はソイツが来るから来たんでしょ。シードルだけこの依頼に参加する動機が無いのよ。そこで、先生と一緒に居る為だとしたら辻褄が合うじゃない。」
「でも、最近エルフの子に振られたって聞いたけど。」エメルダもそういう話は知って居るらしい。
「新しい恋でエルフの事を忘れようとしているのよ。」
「シアンの言う通りよきっと。だけど先生を相手にってどうなのかしら。」女子3人は楽しそうだ。リグはハムスターの様にナッツをモグモグしている。
「そろそろ始めるわよ。」スイ姐さんの号令で一斉に立ち上がる。女子達はさっさと動き始めるし、切り替えが早い。
そんな感じで3日?4日?位が過ぎた。毎日同じ作業をしていると何日経ったかが良く分からなくなる。朝の会話はダンジョンの進捗だったり、普通の世間話も多いから俺も混じれて会話が出来るので一日で唯一楽しい時間だったりする。
「今日中に集まるみたいだぞ。」ガンズ(たまに朝の会話に出て来るので覚えた)が本日3匹目のモスラが出て来た時に言った。
「もう集まるの?予定では七日って言ってなかったっけ。」シードルが言うには七日の予定だったらしい。ちなみに俺は今知った。
「やっぱり、聖女様と魔族の嬢ちゃんのおかげで魔力に余裕が有るから集まるのが早いんだとさ。シードルはもっと時間を掛けたかっただろうが、依頼は完了って事だ。」シードルは複雑な感じだけど、ガンズは嬉しそうだ。
「もしかして明日から俺も文字の勉強になるのか・・・」そう思うと一気にテンションが。
「ほら来たぞ。最後まで気は抜くなよ。」気分は乗らないけど、カナブンを倒しに行く。
それから数時間立った時に。
「溜まったよ。」スイ姐さんが大きな声でみんなに知らせる。
「終わったな。」シードルが残念そうなオーラを漂わせているけど、ガンズは『モンスター避け』に魔石を入れてるし、後は帰るだけだな。
「スイ アレって。」ユメカ先生が珍しく大きな声でスイ姐さんを読んだ。
後ろが騒がしくなっているけど、前には良く聞こえない。ガンズも出口石を使って良いのか困って居るみたいだ。
しばらくするとみんなして前の方に歩いて来た。
「何か有ったのか?」ガンズが話しかける。
「アレが何に見える?」スイ姐さんがずっと先に薄っすら見える岩を指差している。
「もしかして宝箱か?」
「此処からじゃ判断が付かないから、行って確認しようって事さ。」確かに岩が有る様に見えるけど、見間違いって言われると自信が持てないな。
そんな訳でゾロゾロ全員で宝箱らしきものを確認に行く。
「本当に宝箱なんて有るんだな。」シードルが誰に言うでもなく呟いた。
「俺も今回で5回目だ。冒険者を始めて10年は経ってるから2年に一回見つかるかどうかって感じだな。深層まで行く奴らは見つける機会が多いって話は聞くけどな。」ガンズが答える。
「特別な装備品とか出て来た?」
「俺が使っている斧が出て来たぞ。材質はミスリルなのに強度がバカ高い魔法の斧らしいぞ。もう5年使っているけど、壊れる気配すらないって一品だ。」
「盾よりも丈夫な不思議な盾なのよね。」盗賊風のお姉さんの声を始めて近くで聞いた。
「へー。」シードルは興味津々の様だ。
「何度見ても岩にしか見えないな。君もそう思わないか?」ユメカ先生に聞かれた。
「うん。宝箱って言われたら、金ぴかの箱をイメージするよね。」
「じゃあ。開けるよ。」スイ姐さんがそう言うとシンと静まり返る。
スイ姐さんが岩に手を触れると、岩が砂になって消えていく・・・・なんでか、突然ダンジョンが暗くなった。
目の前の岩は無くなったけど、何も出て来なかった。
「ハズレって事?」誰も何も答えない。
まわりを見ると来た道が無くなって壁になっている。反対を見ると続いていたハズの道も消えて壁になっている。
「そういう事?」宝箱が有った反対側にはドアが有る。
「嘘だろ。これってあれだよな。」ガンズが慌て始めた。
「落ち着け。落ち着くんだ。みんな落ち着け。」スイ姐さんが大声で落ち着けって連呼している。
「何?どうしたの?」ちょうど隣にいたユメカ先生に聞いてみる。
「転移トラップだ。」俺の方を見ずに答えた。




