50 免許皆伝
「ダーリンさんって、良く怪我しますね。」シードルに連れて来られた治療室にはエメルダが居た。
「俺もケガなんてしたくないんだけどね。しかも、今回は事故じゃ無くて傷害だし。」骨は折れたけど痛む前にエメルダに治して貰えたので痛みは無かった。
「強化魔法の授業ではケガされる人も多いですからね。
ま まあ、ダーリンさんは私が居るのでケガしても大丈夫だから安心してください。」エメルダの顔が赤い気がする。
「ケガしても安心って・・・・。そう言えばエメルダって魔法の授業は受けてるの?」エメルダはいつも此処に居るイメージが有るけど、授業って受けているのだろうか?
「強化魔法以外の授業は一通り学ばせてもらってますよ。まあ、攻撃魔法の適性が低いからダンジョンで使えるのは支援系の魔法が主ですけど。」
「あれ?前に攻撃魔法を使ってなかった?」光で薙ぎ払う的な魔法を見た覚えが有る。
「あ!あれですか・・・・あれって杖に埋め込まれている魔法なんですけど、凄く魔力を使うんですよ。本当はイザと言う時に使う魔法なんですけど・・・・モンスターを倒さないとって思って。」
「そうなんだ。シアンは攻撃魔法の方が得意っぽいから、二人が同じパーティーだと良い感じだね。」暗にパーティーに勧誘して置く、やっぱり女の子の多いパーティーって憧れるよね。
「シアンちゃんともそんな話をするんですよ。将来・・・」赤い顔でモジモジ話してくれるけど、シアンと同じパーティーになるのを期待しているんであって俺は関係ないハズだ。あと10年若かったら間違いなく勘違いしていたな。
「アイナ。ちょっとお願い出来る?」俺の知らない女子が治療室の反対側から声をかけて来た。
「私はこれで行きますけど、治してすぐは折れやすいですからダンジョンはダメですよ。」
「ダンジョンには行かないから大丈夫だよ。」
「本当ですね。」目が合うと首を縦に振ってニッコリと微笑んで行ってしまった。
「ふう。ヤバかったな。」エメルダは天然の悪女なんだろう。危うく勘違いするところだ。まあ、何度か勘違いをした事の有る俺だったから問題無いけどな。エロいオーラも出すし、エメルダってビッチだったりするんだろうか?
「今日は良い子に帰って休むか。」シードルは強化魔法の教室に戻ったし、もう一回あそこには行きたくないから今日は寮に帰る事にした。
「なんて事だ。」次の日になったけど・・・・やる事が無い。
「ユメカ先生の所で一日文字の読み書きはやりたくないし、かと言って魔法の授業は文字の読み書きが必須みたいだったしな。ダンジョンはダメだし・・・・道場でも行って来るか。」消去法で道場に行く事にした。
何となく女の子の居る道場には行きづらかったから、ヤブサメの道場に来た。
「学院が始まったと言うのに感心だな。」木刀を肩で担ぐようにしながらニヤニヤと俺を見る道場主のオッサンと向かい合う。
「あれ?サイゼリエールくん?」道場の端でサイゼリエール君が木刀を振っている。
「ん?新弟子と知り合いなのか。おい、新入り。」もしかして他人が空似しているだけなのかな?
「ハッ!師範。お呼びでしょうか。」態度から考えて他人が空似しているだけの様だ。
「コイツと知り合いか?」
「ハッ!元パーティーメンバーであります。」俺はこんなサイゼリエール君は知らないぞ。
「学院の同期と言ったところか。」
「ハッ!そうであります。」
「分かった。下がってヨシ。」
「ハッ!」そう言って元の位置に戻って木刀を振り始める。サイゼリエール君に何が有ったんだろうか?まるでマシーンの様に木刀を振っている。
「何をすると人間がああなるの?」
「この道場の中では剣の実力が全てだ。剣の道に生きるというのはそういう事なのだ。」分かってた事だけど、聞いても無駄だった。
「なんで俺だけ毎回あんたとやる事になるのさ。」少なくとも俺が見ている前で、このオッサンと他の人が実戦形式の稽古をしている所を見た事が無い。
「お前に上下と言う物を教えているのだ。では、行くぞ。」いつもの様に一気に間合いを詰めてからの振り下ろしだ。殺しに来ている様にしか見えない。
大きく一歩後ろに避けて、振り下ろしの途中で止まった木刀を強く木刀で弾いて懐に飛び込む。
足を狙って思い切り横薙ぎで斬りかかるけど、器用に剣の持ち手の部分に当ててから距離を取られる。
「やりよる。」ニヤニヤしていた顔が引き締まって、ギラギラしたように感じる。
オッサンが腰を落として踏み込んで来るのに合わせて俺も前に出る。
「く」横薙ぎの一撃を木刀で受けながら、すれ違う予定だったのに木刀が当たった瞬間に吹っ飛ばされた。
転がって起き上がった時には目の前にオッサンが上段に構えていた。
振り下ろされる木刀にどうにか木刀を当てて脳天はずらせたけれど、思い切り肩を叩かれた。肩に魔力を集めて受けたから痛みは有るけど、思ったよりもダメージは少ない。
「見事だ。お前はヤブサメ流剣術の免許皆伝を名乗るが良い。」
「は?何?何のこと?」イキナリ何を言いだしたんだ?このオッサン。
「このまま剣を交えて行けば100回もやらぬ内に吾輩に一撃入れる事になるだろう。」
「一撃入れたら免許皆伝で良いじゃん。剣を教わった覚えは無いけど。」
「吾輩は一方的に叩く勝負しかしないのだ。よって金輪際お前とこの道場で剣を交える事は無い。」
「堂々と言う事じゃ無いと思うぞ。カッコ悪いし。」
「剣の世界にカッコイイもカッコ悪いも無い。何を言おうともお前は免許皆伝だ。」
「来なくて良いなら来ないけどさ・・・」散々やられたからせめて一撃食らわせてやりたかったけど・・・!このまま襲い掛かって何度かやれば一撃入れられるんじゃ?
「吾輩に文句が有るようだな。文句が有るなら掛かってくればいい。」不敵な笑みを浮かべて手招きしてくる。
「剣を交えないって言わなかったっけ?」速攻で前言撤回か?
「吾輩は手を出さん。好きなだけ打つと良い。」
「じゃあ。お言葉に甘えて。」最速で間合いを詰めて木刀を全力で頭目掛けて振り下ろ・・・・
「どうした?打たないのか。」ギリギリで寸止めした木刀には目もくれずに俺を見る。
「打ったら負けた気がするから良いや。お邪魔しました。」そう言って道場を後にした。
「はあ~~~。ダンジョンもダメ 道場もダメ 女の子の道場は行き辛いし・・・魔法の授業を受ける為にはユメカ先生に文字の読み書きを教わらないとだし・・・・」
「そうだ。魔石の換金に行って来よう。」解決にならないのは分かっているけど、机に座って文字の読み書きを習う時間を少しでも遅らせたいんだ。子供の時も同じ事をしていた気がするけど気にしたら負けだ。
「あら、また持って来てくれたの。」明るい赤い髪のお姉さんが対応してくれる。居るだけで場が明るくなる雰囲気のあるお姉さんで、仕事も出来そうな雰囲気を醸し出している。
「ちょっと待っててね。」そう言って魔石を検量する箱を取りに走って行ってしまった。
休み明けにリグと魔石を持ち込んだ時もこんな感じだった。
三回目ともなれば一人で売りに来るのも少しの気合で来れるもんだ。まあ、暇じゃ無かったら絶対に一人では来なかったけど。
「いつになったら鱗粉を持ってくるんだ。私は首を長くして待って居ると言うのに。」奥の方から男の怒鳴り声が響く。
「あんたの注文量が異常なんだよ。足りないかもしれないけど、持って来ているだろ。」女の人の声が怒鳴り返す。
「頼んだ分の一割でも持ってくるなら言い分も分かるが、1%にも満たない量じゃ文句を言われても仕方ないと思わないか。」
「思わないね。文句が有るならギルドに依頼して集めれば良いだろ。」
「すでにギルドに依頼は出している。いつまで経っても集まらないから君に直接依頼したんだ。」
「私だって金に困ってなきゃ、こんな依頼受けなかったさ。」
「なんだと。受ける時には切り札が有るとか乗り気だったじゃないか。」
「前衛が足りないからって断られたんだよ。前衛はみんなサンデルム行っちまって集まらなかったんだよ。あんたが前衛を用意したなら10日で集めてやるよ。」
「言ったな。男に二言は無いな。」
「私は女だけど二言は無いよ。」
「すぐに見つけて来るから待って居たまえ。」その言葉と共に奥の部屋からピンクの髪の相撲取りの様な横幅の、メガネのオッサンが飛び出して俺の居る部屋を横切って出て行った。
「待たせてゴメンね~。」明るい赤い髪のお姉さんが検量の箱を持って来てくれた。
「何か有ったの?」箱に魔石を入れながらお姉さんに聞いてみる。
「所長が素材集めで冒険者の方と揉めてるだけよ。良く有る事だから気にしなくて良いよ。」
「ふ~ん」
「君だ。君は前衛だよな。」部屋から出て行ったと思ったオッサンが、突然戻って来て話しかけて来た。
「う うん。前衛だけど・・・・」ものすごい勢いで迫って来るお相撲さんに、後ろに下がりながら答える。
「他にも前衛の知り合いは居ないか?この通りだ。助けてくれ。」迫って来てからの突然の土下座。
「あ あの。どうしたら・・・」お姉さんに助けを求める。
「所長。今年学院に入った生徒さんですよ。いくら何でも無茶じゃ無いですか。」
「すでに両チームともに13層には到達していると聞いている。それに、ベテランの冒険者も付いているんだ。問題は無いだろ。」
「そうなの?」お姉さんが俺を見るけど、俺には何が何だか分からない。
「ヨシ。これで前衛一人確保したな。」俺の返事は必要無いらしい。まあ、文字の読み書きよりはマシだろうから、断る理由なんて無いんだけどさ。
「まずは前衛一人目だ。」奥の部屋に入るなりメガネのオッサンが、黒髪のベリーショートのお姉さんにドヤ顔だ。
「どこのどなたさん?」やや釣り目がちの勝気な感じのお姉さんが、ハイパワーガン付けで帰りたい気持ちになって来る。
「学院の生徒だ。」
「ダンジョンに入って何年目?」上から下まで舐める様に見て来るので、お返しに俺もお姉さんを舐める様に見たらとても嫌な顔をされてしまった。
「そんな事よりも、これで本当に10日で集めて来るんだろうな。」
「私達は命を懸けてダンジョンに入ってんだ。どの程度出来るか分からない前衛を連れて入る気は無いよ。何年目の学生?」
「初年度の学生だが、持って来ている魔石で中層の冒険者で間違いない。これで十分か?」
「学生って事は学院のダンジョンに行っているんだろう?今は何階層に居るんだい?」
「13層まで・・・・」
「あんたには聞いて無いよ。本人に聞いているんだよ。」
「15層が終わったところだよ。」
「ん?13層じゃ無いのか?」オッサンが聞いてくる。
「俺は一人だから。」
「あんたがユメカの言ってたブライス翁が引っ張って来たって男か。」
「ユメカ先生の知り合いなの?」
「パーティーメンバーさ。今回は前衛不足で断られちまったけど、あんたが居るならあの子は来るね。10日後には鱗粉を耳揃えて持って来てやるよ。これで良いか?所長さんよ。」
「全く持って問題無い。魔石も有る事だし、準備して待って居るから出来るだけ早く持ってきたまえ。」
「私はスイ。あんたの噂はユメカから聞いているよ。まあ、聞いていたよりは普通なんだな。」
「俺はダン・・・・」なんて言えば良いのか分からなくて名前しか言えなかった。




