25 犯罪者予備軍?
変化したスケルトンを前に剣を出して構える。
「強くなったって事だよね?」
何の前触れも無く間合いを詰めて斬りかかって来た。距離が有ったから咄嗟に躱して弱点の胸の光を突くと盾で防がれたから、一歩下がって様子を見る。
スケルトンは様子を見るって事はしないのか?体勢を立て直すと剣を俺に向けて突っ込んできた。
骨剣に当てる様にして剣を滑らせて避けながら、位置的に胸が狙えないから頭に一撃入れて離れる。
「弱くは無いけど、強いって程でも無いな。」叩かれた頭はしっかりとダメージが入っているみたいで、体勢を立て直すのに時間が掛かっている。
チャンスなので一歩踏み込んで攻撃しようとしたら弱点はキッチリと盾で守っているので、足に一撃入れると倒れた。
勢いのまま盾の上から踏みつけるとスケルトンは動かなくなった。
「元の奴とも一度も戦って無いし、どの位強くなったのか分からないな。」そんな独り言を言っている内に次のスケルトンが来た。
近くまで来ると明らかに動きが遅い、さらに胸の弱点を突かなくても一撃でバラバラになってしまう。意味不明なのは足を叩いても腕を叩いても、全身がバラバラになって終わるところだな。
その後は特に変わった事も無く休み休み8層まで行ったけど、特に強い敵も変わったモンスターも出て来なかった。
出口石で外に出ると昼時だろうか?明るかった。
「なんでダンジョンに入っていたんだ。」入る時に居た身長に対して横にでかい男が事務所みたいな建物から走って来て、イキナリなんか言って来る。
「なんでって、行けって言われたからだけど?」しかも、あんたに言われたと思うんだけど。
「行けって言われた?何言ってんだお前。」
「隊長。もしかして出て来ていないって言われていた、学院の生徒じゃ無いですか?」警官みたいな制服を着た人が来て横にでかい人と話をしてくれる。
「何日前だと思ってんだ。そんな訳無いだろ。」
「しかし、パーティーメンバーの方も、8層まで行ってから帰って来ると思うって言ってましたよ。」
「一応身分証を出してみろ。」
「これで良い?」冒険者のカードを渡すと、横にでかい顔を歪めて苦しそうだ。
「勝手に何日もダンジョンに入ってんじゃねえよ。こっちは魔物が溢れるかもって、気を張っている時に何やってんだよ。」
「そんな事があったんだ?」
「そうなんですよ。数日前に子供達がヒヨコの大群に襲われたらしくて、その時には通りかかった学院の生徒が助けてくれたらしいんですけど、確認の為に現在は閉鎖しているんですよ。」
「え?」なんか身に覚えが・・・・
「8層まで行かれたんですよね?変わった事は有りましたか?」
「べ 別に思い当たる事は無いかな?」手の平に変な汗が出て来るぞ。言いたいけど言ったら大事になりそうな気がするし、リグやシアンに相談してからにしたい。
「そうですか。体を洗ってから学院に戻られた方が良いですよ。」
「う うん。じゃあ。」そう言って急いでその場を後にした。
寮の風呂に入ってゆっくりしていたら、リグが学院から帰って来たのか風呂場に現れた。
「リグ。ちょっと良いか?」
「ああ。兄貴お帰り。8層まで行ったんでしょ?どうだった。」
「それがさ。一階層はヒヨコだったじゃん。」
「もしかして兄貴が何かしたの?子供達が大群に襲われたって話。」なんて察しが良い子だろう。
「そうなんだよ。倒すの躊躇って引き連れてたらね・・・・」
「一人で居た生徒ってやっぱり兄貴だったのね。この話はこのまま放置して置いた方が良いね。どうせダンジョンの異変に対する調査何てすぐに終わるだろうしね。」
「良かった。変な事を言わないで、言ってたらやっぱり不味かったよね?」
「故意にモンスターを集めて他の冒険者にぶつける行為は犯罪だからね。今回の場合はぶつけたモンスターがヒヨコだし、自分で対処した事も考えると重い刑罰にはならないだろうけどね。」
「以後気を付けます。」
「僕達の方はまだ2層に入ったばっかりなのに、兄貴はすでに8層まで行ってるのか。」
「2層って言えばスケルトンだよね?」
「違うよ。ボーンだよ。スケルトンは剣と盾を持ったモンスターで中層のモンスターの事だよ。」
「なるほど。ボーンがスケルトンにランクアップしたって事なのか。」
「ランクアップ?何かやったの。」
「それがさ。ヒヨコを引き連れて2層に行ったんだよ。そうしたら・・・どうしたの?」頭でも痛いのだろうか?
「兄貴。それは完全な犯罪行為だよ。ヒヨコがボーン殺されてボーン強くなったんでしょ。」
「犯罪なの?」
「それはそうなるでしょ。強くなって進化すると新たに来るモンスターを倒してさらに強くなっていくんだよ。そうしたら浅い階層なのに深層のモンスターが居る事になるでしょ。」
「そうなの?中層になると複数のモンスターが出て来るって言ってたじゃん。」
「普通は強いモンスターが作られたとしても、誰も入らない時間が続くと魔力に変えられて消えるって話だけど、浅い階層って人の出入りが多いでしょ。そうするといつまでも残り続ける事が出来るんだよ。」
「つまり中層だと強くなっても時間経過で消えてしまうけど、浅い階層だとドンドン強くなっちゃうって事?」
「そういう事。それに中層に行ける冒険者だったら、その辺の事は気を付けているからね。」
「倒したから大丈夫だよね?」なんか不安になってきた。
「もうやっちゃダメだよ。」
「はい。」一人で居ると俺は牢屋に入りそうな気がして来た。
「ずいぶんと懐かしい顔だな。ダンジョンで行方不明になったって聞いたぞ。」
「8層まで行って良いって聞いたから8層まで行ったら時間が掛かってね。」
「一人で一気に8層まで行くのは、神経を疑うレベルだな。君は《睡眠時警戒》のスキルを持って居るんだろうけれど、それでも普通はやらない。」
「《睡眠時警戒》ってスキルが有るんだ。」
「持っている人が少ないから一般的には知られていないスキルだが、ブライス翁も持って居るしバトルジャンキーの一部は持っているからな。お喋りはこの位にして、ダンジョンに入っていて遅れた分を取り戻さないとな。」
「ダンジョンの方が楽だった気がする。」文字の読み書きは6年間の英語の授業で、苦手なのを実証済みなんだよな。
「そう言えばユメカ先生って日本人なのになんでピンクの髪なの?」しばらく単語の書き取りをしていたら、気になったので聞いてみた。
「色々とツッコミたくなるね君は・・・普通は会った時に気づく事だろう?それと今は一応は授業中だぞ。」
「ほら、ただでさえ集中力が無いのに気になる事が有るとますますって感じだよ。疑問がスッキリ氷解すると良いと思うんだよね。」
「君は35で社会人だったって話だと思ったけど、そんなんで社会人として働いていたのかい?」
「う~ん。働いている時間が長かったから集中してたかと聞かれると難しいね。集中する必要が有る時は集中していたけど、集中している時間って短かった気がするね。」
「働いている時間が長いって言っても8時間程度だろう?」
「8時間って定時じゃん。そこから最低でも4時間は有るよ。」
「君は労働基準法って知っているかい?」
「一応は知っているよ。残業代が無くなる法律の事でしょ?」
「残業代が無くなる?」
「だって仕事は終わらないのに帰れないじゃない。働かない様にって言われても終わらないから仕方ないよねって、皆で働くと結局お金が貰えないよってだけの話でしょ。」
「君は良いように使われているだけだろう?」
「そうは言ったて、じゃあ期日通りに製品が届かなくても良いって事にはならないでしょ?1週間でも2週間でも待ってくれるなら良いけどさ。」
「・・・・・僕の髪の色はこっちの世界に来て、異世界人って分からない様に変えたのだよ。」
「急に話が変わったけど、そうなんだ。」
「十分気分転換になっただろう?分かったら単語を覚える。」なんか不機嫌になったので話を切り上げて単語の書き取り作業に戻る。
「出来た。」基礎魔法の授業で手の平でもビー玉程度の大きさだけど魔力の玉が出来た。小さな進歩だが確かな進歩だろう。
「兄貴、やったね。」
「まさに努力の賜物って奴だ。リグは何やってんの?」見ると右手の上でソフトボール大の透明な玉がチラチラ見える。
「両手で出来る様になったから、次の段階の手の上で魔力を扱う練習しているんだよ。」
「こ これが才能の差って奴なのか?」
「ダンジョンが立ち入り禁止になってた間に練習する時間は有ったからね。才能と言うよりも努力の勝利かな。」
「く くそう。俺だって・・・」右手を上に上げて集中すると・・・もの凄い勢いで魔力が~。
膝がプルプルして眩暈が・・・・
「兄貴、そのまま無理すると倒れるよ。」
「なんだ?」右手の上の魔力が突然霧散した。
「そこのお前。何を勝手な事をやっている。」ピエロが怒鳴りながら走って来る。ホラー映画みたいだ。
「うお。」イキナリ胸倉をつかんで持ち上げられてしまった。
「誰が次のステップに進んで良いって言った?おい。答えろ。」
「すみません。勝手にやりました。」怖いので謝る。
「なんで勝手な真似をした。理由を答えろ。理由によっては二度と俺の授業は受けさせんぞ。」
「そ その、友人が次のステップをやっていたので悔しくなって・・・」何も考えずに迫力に押されて言ってしまった・・・・
「な~るほど。男の子にはよ~くある事ですね。こ~んかいはお~めに見ましょう。次は有りませんよ。」ピエロは俺に笑いかけると去って行った。
「ビビった。」殺されるかと思った。
「良かったね。大目に見て貰えて。基礎魔法の授業で認定貰えないと、どんなに頑張っても他の魔法の授業には参加出来ないからね。」
「俺は命が有った事に感謝したよ。」彼が映画のピエロなら俺は死んでいた事だろう。
「兄貴って度胸が有るのか無いのか分からない人だよね。」
「俺には度胸なんてものは無いぞ。そもそも、そんなものを35にもなって求めてない。」
「そういう事にしておくよ。」
それから2日間は実践訓練で可動式サンドバックからの保健室送りのコンボ、ユメカ先生の下で文字の読み書き。基礎魔法の訓練で過ぎた。
そして、ようやく再開されたダンジョンに来ている。
「暇だ。」すでに8層の目標はクリアしてしまったし。他の人達の実力の査定が遅れているから(俺のせいだけど)、結局一人でダンジョンに来ている。
今回は砂時計にしか見えない魔力時計を持たされていて、砂が落ち切ったら出口石で帰る事を約束させられている。仕方ないので2層のボーンと遊んでいるんだけど弱すぎてつまらない。
理由は入り口から近いのですぐに行ける事と、一番大きいモンスターだからってだけ。
「くらえ ドドン 波~~~~」一撃だ。普通のマジックショットでは倒せないけれど、指先で魔力をグルグル回してから撃つと威力が違う。
「くおおおお。」暇なので声を出して雰囲気を出しつつ、両掌の間で魔力の玉を作る。
「考えてみたら、この感じだと出来るんじゃない?子供達の憧れだったアレが・・・」気が付いたら試すしか無いよね。
丁度良くボーンがこっちに向ってきている。
「なんてタイミングの良い奴だ。」奴らは動きが遅いので十分に引き付ける。
「くらえ か~め~は~め。」両手の中で魔力がグルグルと今までに無いくらいに回っている・・・気がする。
「波~~~~~」俺の必殺技が当たって、ボーンは粉々にぶっ飛んで行った。
「ふ~~。」25年来の悲願を達成した。
「すげ~~。今の見たか。」
「え?」誰も居ないと思って居たけど、誰が・・・・声のした方を見るとこの前のガキ共が5人そろって俺を見ていた。顔から火が出そうだ。
「また会いましたね。」子供達が尊敬の眼差しを向けて来る事が辛い。
「ああ。」子供達の目を見る事が出来ない。
「今の奴って何ですか?」
「すげえよな。こうやって「波~~」ってやって。」みんなでワイワイ喜んでいる。
「これは俺の世界で伝わる必殺技でな。他の人には秘密だぞ。」
「師匠。教えて下さい。」
「い いや。それは・・・・」
「「師匠」」
「わ 分かった。無理はするんじゃ無いぞ。」




