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1 異世界は厳しかった

 長年の願いが叶って異世界に行った男の名は平 弾(タイラ ダン)。幸運なハズの彼は不安な顔で馬車に揺られていた。


 ダンの前には一人の兵士が綺麗な姿勢で目を瞑って座っていた。彼の顔には左頬から右に向かって大きな傷跡が有った。見た目的には30代に見えるが、座っている姿には貫禄が有り話しかけるのが躊躇われた。


 行き先が分からない不安を抱えながら聞くに聞けないもどかしさにオロオロしながらすでに馬車の中で3時間以上過ごしてた。


 思えば転移の時点からダンの想像とは明らかに違っていた。


 トンネルを抜けた所に有ったのは祭壇と思しき部屋ではあったので、此処については想像の範囲と言えたのだが、着いてすぐに掛けられた言葉から想定外が始まっていた。


 「こちらに並んでください。」頭に黄色い三角の耳が着いた若い兄ちゃんに声を掛けられた。


 王様が、姫が、もしくはローブを来た魔法使い然とした男でも無く、白いローブを着た若い兄ちゃんが(こっちですよ)と分かるように手を振っている。


 訳も分からず言われるままに列に並んで後ろを振り返ると、壁から次々と人が現れていてその人達を白いローブを着たスタッフが列に並ぶように指示している所だった。

 異世界と言うよりも、テーマパークに迷い込んだ気分になるのだった。


 「よっしゃー。こんにちは異世界。さようなら地球。」大声を上げた奴を見てみると、金髪の白人さんだった。

 日本語に変換されたのか?元々日本語を話しているのか不明だが、興奮して騒いでいる言葉も日本語だった。


 「列を詰めて下さい。」と前の方から声が掛かったので、前を見ると列の先頭が見えた。


 全身が写る大きなサイズの鏡に一人一人映して、黒いローブの女が手に持った紙に何かを書きとっている。それが、終わった人は階段を上っていく様だ。


 すぐに自分の順番が来たダンが鏡に映ると、周りに何やら文字の様な黒いのが浮かび上がった。黒いローブの女は手元の紙に書き込む。


 「ちょっと誰か来て。」と黒いローブの女が言うとさっきの誘導係の兄ちゃんが来る。


 前の人は書き込みが終わると、「前の人に着いて行って。」と言っていたのに自分だけ反応が変わった。これはチート持ちに対する特別措置だと思ったダンは心の中でガッツポーズをするのだった。


 呼ばれて来た兄ちゃんはダンの横を通って先に行くと手で付いて来いとジェスチャーする、飛び跳ねる様な勢いでダンは付いていく。





 付いていった先で待って居たのは妙齢の女性で美人だった。着ている服も連れてきた兄ちゃんと同じ白いローブだが誰が見ても差が分かる位に良いものだった。


 立場有る人間なんだろうと思い、チート持ちのダンも負けない様に堂々と胸を張って立っていた。


 「私は転移戦士部門の責任者を務めているラリエアルだ。

 君には戦士として明らかな問題が有る為来てもらった。」


 「え?何?どういう事?」チート持ち(予定)のダンには何を言ったのかよく分からなかった。聞こえたのだが、言っている意味が理解できない。


 「話の前にこれを渡して置こう。この世界での身分を証明するものだ。あと、護身用にこの剣も渡して置こう。」そう言って女は空中から剣を出して、黒いローブの女が色々書いていた紙と一緒にダンに渡した。


 「この世界に来た時点で君にも収納用の空間は与えられているから、仕舞ってみたまえ。」急に渡されて困っているダンに教えてくれた。


 言われてみると収納用の袋を持ち歩いている様な感じで、第三の見えない手で袋の口を開ける様な感じで仕舞う事が出来た。


 (さすが異世界)


 「中に剣を何本くらい仕舞えそうな感じだ?」


 「4・5本位ですかね?」そう言うと女は溜息を吐いた。


 「戦士としての資質に問題が有る者には、他に使い道が有るかどうかの確認の為にいくつか質問をするが、正直に答える事を進める。」


 刀剣の鍛冶をやった事が有るかから始まり、色々な技術についての経験・中には魔術や呪い等の知識や技術について聞かれる。


 後半は農業や食肉解体業の経験についても聞かれたが、何一つまともに答える事が出来なかった。


 「以上だ。」と言うと女はダンに何も言わずに部屋を出て行った。そして、入れ替わりに顔に大きな傷の有る兵士が部屋に入って来た。


 「この国では君の様に前の世界に馴染めなかった者たちを一年で1000人ほど召喚させて貰っている。そして、君の様に年に一人か二人位ステータスは低く特別なスキルも持たない者がいる。

 そういった者達は特別な施設での訓練を行う事とになっている。」


 チート持ちだと思ったら、まさかの無能認定だった。


 「あ あの。俺は料理に自信が有ります。」真剣な目で兵士の目を見る。


 「出発する。付いて来い。」普通に無視されてしまった。


 そして、顔に傷の有る兵士と二人で馬車の旅になった。


 馬車に乗ると兵士は姿勢を正して座ると目を閉じてしまった。話しかけるなオーラが見える様な気すらしてくる。


 今後の事とか聞きたいのにダンがマゴマゴしている間に馬車は開けた所から林の中に入った。


 「じきに到着する。準備をして置け。」兵士は目を閉じたまま言った。


 「は はい。」驚いて返事をしたが、手荷物も無く本当に着の身着のままだった。一応の荷物はあっちの世界の車の中に入れたままなのだから持ち物が有る訳も無いのだが。


 時間が無い。時間が無い。と焦れば焦るほど頭の中は真っ白になってしまう。

 子供の時のサッカーの試合では、ロスタイムに入っても自分のやるべきことを見失った事は無かったな。と今はどうでも良い事しか浮かんでこなかった。



 「到着したぞ。降りろ。」到着と共に目を開けた兵士に睨まれて、仕方なく降りると・・・・


 目の前には崩れかけの物置の様な建物が見える。車一台分の車庫位の大きさだろうか?両開きの扉は片方外れて内側に倒れている。

 その外れた扉から見える物置の中は壁の一部が拳大の大きさの穴が空いていて外が見える。


 「まさかこれが特別な訓練を行う場所じゃないよね?」


 「この先に町が有る。そこで冒険者になると良い。では、武運を祈る。」後ろを見るといつの間にかUターンしてきていた馬車に乗った兵士が親指を上げていた。


 「え  あ  ちょ  ちょっと。」と言っている間に馬車は走り出して行ってしまった。


 「何これ?」一人取り残されたダンは茫然と馬車が見えなくなるんで見送るのだった。





 崩れかけの物置に置いて行かれて一時間が過ぎていたが、ダンはまだそこにいた。


 膝を抱えて不安に涙をこらえる35歳。


 (あの時の恐怖の再来じゃないか、異世界何て来なきゃよかったよ。)ダンは中学2年の時に家族の訃報を聞いた時を思い出していた。あの時は祖父が存命だったから難を逃れたが、この世界には知り合いが居る可能性は0である。


 此処が地球であるなら困難は有っても日本に帰れる可能性は有るだろうが此処は異世界、帰るためには再度異世界転移をする必要がある。


 能力の無い人間にこういった措置を行う国が、ワザワザ日本に送り返してくれる訳が無い事はダンにも薄々分かってはいた。


 (異世界人を集めて戦士にするってどうなのよ?人として間違っているよ。

 100歩譲ってそうだとしてもチートとまではいかずとも特殊な能力や、こっちの一般人よりは有用な何かが・・・・有るみたいだったな。


 この世界もそうだった。一年に一本のハズレを掴んだだけで・・・・)


 ダンは思い出していた。彼はそういった一人だけ良くない事が当たる男だったと、小学校の時の蟯虫検査でクラスでただ一人の虫使いになった事やサッカーのユニフォームでは自分の背番号だけ数字が斜体になっていたり。


 そんな事が有る度に(自分は特別なんだ)と言い聞かせていた。もっとも、家族が死んでからは気にする余裕が無く大人になると一律な事の方が少なかったから気にもならなかっただろうが。


 (そうだ。俺は特別なんだ。こんな所に居ても仕方がない。)


 「行くぞ。俺。此処から逆転するぞ。」子供の頃に戻った気分で叫んでいる。ヤケクソだが。


 勢いよく崩れかけの扉を勢いよく開けて道を進み始める。外れていた扉が吹っ飛んだが気にしない。


 しばらく歩いていると近くの街道わきの草がガサガサと揺れている。歩みを止めて警戒して距離を取ると・・・小型犬位の大きさのトカゲ?らしき生物が現れた。


 ダンは敵の大きさにホッとしたが、トカゲはダンに向かって素早く移動してきた。


 ダンも身構えるがトカゲは止まる事なくダンの脛にカプッと嚙みついた。


 「痛って~~~。」噛み千切られる様な事は無く、サイズが小型犬なら攻撃力も小型犬と同程度だったらしい。


 噛みつかれたまま足をサッカーボールを蹴る要領で振り上げると、トカゲは高く飛んでから地面に叩き付けられた。トカゲはすぐに起き上がると草の中に逃げて行った。


 「なんだったんだ?アイツは?」痛かったけれど、実質的なダメージは特に無かった。強いて言えばズボンの脛の部分に小さな穴が2つ空いたくらいだ。


 そこからしばらく歩くとまたしても草がガサガサしてトカゲが出てくる。


 足を目掛けて走ってくるトカゲの腹を横から草に向かって蹴り込んだ。


 警戒しながら歩いているせいで時間が掛かり、町が見えてもいないのに太陽は山の陰に沈もうとしていた。


 少し速足になりながら進んで行くが、トカゲの出現頻度が増えている気さえしてきている。もしもこのまま夜になって視界が奪われた後で大量のトカゲが出てきたらと思うとダンは焦るのだった。


 ちょうど足元が見えづらくなってきた時に遠くに町の明かりが見えた。その瞬間ダンの中で何かが弾けて走り出した。


 次々と現れるトカゲを器用に避けながらも素早く明かりを目指して走る姿は、敵のディフェンスを華麗に避けるサッカー選手のようでも有った。





 ダンが目指していた町は人口が300人程度の小さな村と言っても良いくらいの町だった。王都が近いので人口の割には店も有り栄えていた。


 村に限りなく近い町「ガイム」の門番は迫りくる何かを見ていた。


 右に行ったと思えば左に行ったり、時にはジャンプしたりターンしたりしながら走ってくる何かに門番は始めこそ警戒したが、近づいてくるのが人間の男だと気が付いて警戒を解いた。


 門番からはトカゲの存在は小さくて見えなかった為、ダンの行動は頭のおかしい奴のそれだった。


 門番は動き回る男を自分の間合いギリギリまで引き付けて、殺傷能力の無い魔法を男に向かって放った。


 「へぶわ~。」と言った声と共に、男は門番が思った以上に激しく吹っ飛んで行った。

 少しでも続きが気になったら高評価して貰えるとやる気に・・・なるのか?分からんけど、応援して貰えたら嬉しい。

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