17 ゴブリンとの戦い1
今回は少し短いです。
「なんか凄い不自然な地形が続くんだな。」
片側は切り立った崖で高さは3階か4階位だと思うけど、ずっと先まで続いている。高さは場所によってマチマチなんだと思う。
「古代の魔導士が魔物の襲撃を考えて地形を変えたって話だぞ。」
「なるほど。」言われてみれば、崖の反対側も緩やかな下りで山の稜線でも無いのに不自然な感じになって居るかも?
「兄貴。なんか来たよ。」先頭の方の人達だと思うけど、ガラの悪そうな集団がこっちに向かって歩いて来る。
「後方の冒険者を集めてくれ。」集団の先頭を歩いていた、身長が高くて茶髪の長い髪を一つにまとめた山賊風のワイルドなイケメンが話しかけて来た。
「ちょっと待っててくれ。」商人のオッサンがそう言うと走って行ってしまった。
山賊集団に絡まれたくないので目を合わせない様にしてリグを見る。
「夜警の変更とかそんな感じ?何にしても碌な事じゃ無さそうだ。」迷惑そうな雰囲気を隠そうともせずに190は有るだろう男に堂々と話しかけやがった。いくらリグが攻撃的なハムスターだからって相手を見て話して欲しい。
165の俺と160前後のリグだと1対2でも負けるんじゃないか?
「まあ集まったら話すが、想像通りに碌な話じゃないぞ。」イメージと違って口調が優しげだった。リグのハムスター的な部分に絆されたのだろうか?
しばらくすると集まって来た。思った以上に冒険者がいっぱい居て30人位は居そうだぞ。この前の夜警の時のエロフの話で盛り上がった兄ちゃんも居る。
「俺の名はサカイだ。後方の防衛を任されて来た。まあ、正確に言うと押し付けられたんだが、主力は前方で聖騎士達もこっちには来ない。」
「やっぱりね。」リグが小声で呟いた。
「こっちはダンジョンの浅い階層で活動している者がほとんどだと思うが、もしも中層で活動しているパーティーが居るなら名乗り出て欲しい。」そう言ってサカイさんが見回すけど誰も何も言わない。
「一応は半々に分けて夜警班と休憩班で交代制にするが、恐らく全員で当たらないとかなり厳しい戦いになると思う。厳しいが理解して貰わないとならない。」
「聖騎士達を二つに分けるべきだろうが、納得いかないぞ。」誰かが口火を切ったら大騒ぎだ。俺はヤジを飛ばすとバレるタイプなので黙って置く。リグは・・・なんでか呆れ顔をしてる。
「サカイさんは同じことをあっちで言ったから、こっちに行かされたんだ。文句が有るなら自分で貴族に行って来い。」サカイさんの後ろから生徒会長でもやって居そうな、黒髪の真面目って感じの男の子が怒鳴った。
リグと同じくらいの年だと思うけど、大衆に向ってしっかり意見が言えるなんて立派だな。俺は一言も話をせずに空気に徹していると言うのに。
「分かったか?」生徒会長の一言でみんなが黙ったタイミングでサカイさんが言った。
「じゃあ、班分けをするからパーティーのリーダーは集まってくれ。」すぐにリグに目配せをして行かせる。(やれやれ)って態度だったけど行ってくれた。
リグはコミニケーション能力が高いから上手くやってくれるだろう。
「兄貴。僕達が先攻だよ。」リグが戻って来た。
「先行って前半起きてて後半寝るって事だよね?」後攻の方が良いんじゃ無いのか?
「兄貴は先攻の方が好きでしょ。」
「それはサッカーとかゲームの話な。」
「勝負事なんだから同じようなものだよ。」命が掛かっているんだけどな。そんな話をしていたら、サカイさんがこっちに歩いて来るんだけど?
「リグニール。さっきの話だけど、本当に大丈夫なのか?」何の話?
「椅子だけ用意してね。どうせ信じられないだろうから、自分の目で確認すると良いよ。」
「分かった。他に良い手が有る訳じゃ無いしな。椅子を持ってくるから待っててくれ。」リグがなんか奇策を思いついたんだろうか?俺には何も教えてくれないけど。それよりも気になる事が・・・
「なあリグ。」
「何?」
「あの人が俺の事をチラチラ見てたんだけど、そっち系の人って事無いよな?」
「どうだろうね。後で聞いてみたら?」
「怖くて聞けねえよ。」
「これで良いのか?」しばらくしてサカイさんが生徒会長を引き連れて来た。椅子を一つだけ持って。
「どういう事?」リグにコソコソと聞いてみる。
「兄貴が立ち上がりやすい様にと思ってさ。」
「立ち上がりやすい?地面に座るよりは椅子の方が立ち上がりやすいけど、どういう事なの?」リグの言っている事が全く分からない。
「兄貴は敵が来たら「敵襲」って叫んでから戦ってね。」
「俺が言わなくても他の人が気付くんじゃないの?」ダンジョンでは、いつもリグの方が先に気付いていると思うんだけど?
「兄貴は敵を見つけるのが上手いから一番手になりやすいと思うんだ。もしも、僕の方が先に気が付いても「敵襲」って叫ぶからさ。まあ、みんな言うと思うけどね。」他の二人も頷く。
「見付けたら「敵襲」って言えば良いのね。でも、みんな椅子が無いのに俺だけ座っているのって居心地悪いんだけど。」
「兄貴。もう僕達の見張りの番なんだよ。無駄口は良いから、しっかり見張ってくれる。」リグの目がマジなので何も言わずに誰も居ない森を・・・・あれ?
森の中で何かが動いている気配がする。リグニ教えようとリグが居た方を見ると・・・ローブに包まって寝てる。いつの間に寝たんだ?ついさっきまで話をしてたと思うんだけど?
まあそんな事を考えて時間を無駄にする訳にはいかない。なんせ敵は来ている。
敵に気づかれない様にリグを起こそうと立ち上がる。
「何か有ったのか?」リグと反対の方向から声がしたので振り返ると、サカイさんと生徒会長が揃って立っている。周りを見るとリグ意外に寝てる奴は居ない。
「分からない様に見て。此処から右側に視線を動かして行くと不自然に揺れている草が有るでしょ?」ヒソヒソと伝えると首を縦に振った。
「こっちが気が付いている事をたぶん気が付いて無いと思うんだ。だから、引き付けて攻撃すれば不意打ちになるかな?と思ってさ。」
「了解した。カイ、全員に伝えろ。」そう言うと生徒会長が何だか手をパタパタ動かす。冒険者の中で伝わる手信号か何かだと思うけど、俺は知らないぞ。
「あ 兄貴どうしたの?」リグには無言で敵の方向を示す。俺の体が邪魔になってあっちからは見えないと思う。
少しすると気配がドンドン増えていくんだけど、大丈夫なのこれ?
ガサガサって音と共に一匹目の緑色の子供みたいなのが飛び出すと、一斉に飛び出して来た。
手に木の棒を握りしめて肌が緑の子供位の大きさの奴がギギャギャギャとか言いながらコッチに向って走って来る。
森から俺達の所まで5mも無いからあっという間辿り着くけど、分かっていたから先頭の奴の顔面をヤクザキックで後ろの奴の進路に蹴り飛ばす。
突撃の勢いが無くなった所を狙って胸に有る弱点を剣で貫く。人型だから少しだけ躊躇ったけど、暗いし弱点も光って見えているし割り切って刺した。手の感触はウサギよりも軽い感じかな?
こっちの人数も多いからか?ほんのちょっとの時間で終わった。
「楽勝だったね。ゴブリンってこんなもんなの?」
「そりゃ。機先を制してパニックになっているのに、一気に畳みかけられたら楽勝でしょ。」
「そんなもんか。もしかして俺ってお手柄じゃね?」
「本当にお手柄ですよ。これだけ打撃を与えたから今晩の襲撃はもう無いかも知れませんね。私はサカイと言います。気軽にサカイと呼んでください。こちらはカイと言います。」生徒会長改めカイ君が俺に頭を下げて来る。
「俺はタイラ ダンです。よろしくお願いします。」見た目は悪そうなのに良い人だった。怖い人だと思ったから避けてたけど、人は見た目に寄らないって言うしね。
「ほら兄貴。自己紹介終わったら椅子に座りなよ。一応は見張りなんだし。」
「そうだな。まだ仕事中だったな。」そう言って椅子に座る。
あれ?夜が明けた。俺は椅子に座っているし、リグは横でローブに包まって寝てる。他の人達も数人だけしか起きてない。
「どういう事?後半組は来なかったの?」