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16 出発

 聖女が馬車に乗り込んでから慌ただしく馬車の一団が進み始めた。店のオッサンの馬車にシアンだけ乗せて俺達は歩きらしい。馬車には荷物が満載で座るどころか乗れる場所が無かった。


 シアンは大量の荷物を収納に入れているので、店のオッサンの隣の席に座って俺達はその隣を歩いている。


 「このチョコボってどこで捕まえられるんだ?」暇なのでリグに話を振る。


 「チョコボ?兄貴の世界でダットの事をチョコボって言うの?」


 「むしろダチョウかな?」チョコボだったら良いなと思って言っただけだったけど、ダットって言うらしい。チョコボにしたいな。


 「チョコボって名前は可愛い。私もチョコボって呼ぼうかな。」シアンが御者の隣からこっちを見て話しに加わって来る。


 「そう言えば、リグって貴族だったんだな。」


 「あれ?言ってなかったっけ。自己紹介でリグニール・ガストンって言わなかった?」


 「どうだったかな?」正直よく覚えてない。


 「ダーリンに嘘を吐かないの、リグは意図的に隠してたでしょ。まあ、分からないでは無いけど。」


 「どういう事?」


 「弱小貴族の子供ってのも別に珍しくは無いけど、貴族を良く思ってない冒険者も多いから信用できるまでは黙って置くものね。」


 「そのつもりだったんだけど、僕も元貴族って思い出すのが嫌だったって言うか・・・」


 「5年だっけ?別に奴隷からの解放なんていつしても良いんじゃ無いのか?」奴隷が嫌なら解放すれば済む話な気がするのは俺だけ?


 「そうもいかないんだ。元冒険者や元平民なら問題無いけど、実績も無いのに冒険者に温情を貰ったってなっちゃうんだよ。」


 「貴族としては致命的なのね。少なくともハミラちゃんとの結婚は出来ないわね。」


 「そう言うものなの?」二人とも首を縦に振って肯定する。


 「その場合はどうすれば良いの?」


 「そりゃ。誰が見ても分かる功績を上げて奴隷から解放されるとかだ。」突然商人のオッサンが話に入って来た。


 「そういう事だよ。」


 「俺としてはお前さんが貴族に戻る事を考えて仲良くして置きたいってところだな。」


 「家は貧しいから商人の目から見ても旨味は無いと思うよ。」


 「それでも伝手は作って置いて損はねえってな。」





 広い所に出た所で馬車を道の端に止めてみんな出て来て集まり出した。


 「今日は此処で泊まるから準備するぞ。」そう言ってテキパキとオッサンが手際よくテントを組み立てていく。テントは馬車の中じゃ無くて収納に入れてあったみたいだ。


 リグと二人で俺達のテントを組み立てるけど、手際が悪くて時間が掛かていると見るに見かねてオッサンも手伝ってくれた。


 「出来た。小学生の時以来だなテント張ったの。あっちの世界のテントはもっと簡単だった気がするけど。」


 「ダーリンは真ん中だよ。」シアンが寝床づくりでテントで動いているのを見ると、子供が遊んでいる様にしか見えない。


 「それで、夜警の持ち回りだけどよ。男がやる事になっているから3人で交代する事になるからな。」


 「どこで見張るの?」


 「俺達は後方の部隊だからあそこだな。今日は俺が行くから明日と明後日はそっちで決めてくれ。」





 次の日も昨日と同様にただ歩くだけだった。今日の夜警は俺なので焚火の所に来たけど、まだ誰も来ていなかった。


 「おいおい。寝てたら夜警にならないじゃねえか。」突然知らないオッサンが現れた。


 「起きてるよ。」


 「なんだよ。寝たふりだったか。もう一人は?」


 「俺一人だけど。」


 「おー。悪い悪い遅れた。」若い男が走って来た。


 「冒険者二人なら安心だ。」


 「安心されても困るよ。まだ8層までしか潜ってないし、時間稼ぎ位しか出来ないよ。」若い兄ちゃんがオッサンと話してくれるので任せる。


 「それでも、普段から戦いに身を置いているんだから立派なもんだ。お前さん達は【アイリス】は初めてか?」


 「ああ。」若い兄ちゃんも首を縦に振って肯定している。


 「【魔導国アイリス】は魔法が発展しているからエルフが居るんだ。聞いた事は有るだろう?」


 「もしかして、あの噂って本当なのか?」オッサンが悪い笑顔になった。


 「ああ、エルフの女はスゲーぞ。まさにエロフって言われるだけの事はある。エルフは性欲が強いって言うのは聞いた事が有るだろう。一晩中何度も求められるんだぞ、男だったら一度はエルフの女に相手をして貰った方が良いぞ。」


 「ほうほう。」良い事を聞いたぞ。絶倫エルフで童貞を捨てるの悪くない。


 「なあ、山向こうの町にも色町って有るのか?」若い兄ちゃんもノリノリである。俺も一緒に情報収集だ。


 「残念だが色町は【アイリス】まで行かないと無いが、もしもエルフが居たら声を掛けてみた方が良いぞ。運が良ければ相手してくれる、なんせ一晩に3人の男を相手にするって話だからな。」


 「な 本当に?」俺の心の声を代弁してくれる兄ちゃん。まさに以心伝心だ。


 「あっちが乗り気じゃ無いとダメだろうが、人族の女よりもずっと話が早いって言うぞ。」なんて言う素晴らしい情報なんだ。胸が・・イヤ股間が高鳴るぞ。


 「そういや、お前さん達必要な物は無いか?これでも俺は商人なんだ、買いたいものが有れば言ってくれよ。」そこからは商売の話や愚痴が多くなったので、兄ちゃんと一緒でテンションが下がってしまった。





 「昨晩は前の方ではゴブリンの襲撃が有ったらしいぞ。」商人のオッサンが朝の集まりの後でそう言ってきた。


 「そうなの?俺達は呼ばれもしなかったし、大きな騒ぎのもなってなかったと思うけど。」


 「数匹のゴブリンですぐに討伐したらしいからな。ただ・・・」


 「何か問題があったんだ。」リグが声を上げる。


 「それがな。今回は聖女様が同行しているから、貴族たちが護衛の質を落としたらしい。」


 「どういう事?」普通は逆じゃ無いの?


 「例年だとお抱えの冒険者を護衛に付けるんだが、今回は浅い階層の冒険者がほとんどで中層に潜った事が有るのが一部って話だ。詳しい事は俺には分からんがそんな感じらしい。」


 「聖女様の護衛の騎士は強いんだろうけど、数で攻めて来られたらヤバいんじゃないの?」


 「運搬って事で依頼は出したが貴族の子息たちにも戦って貰う事になるかも知れんから、お前さん達も戦う事になると思っていてくれ。」


 「もしかしたら今代の聖女様って貴族たちに嫌われているのかもね?」


 「シアンどういう事?」


 「シミターが言ってたんだけど、今代の聖女様って婚約されてないのよ。」商人のオッサンとリグは分かったみたいだけど俺には全く分からない。シミターって誰?


 「どうして婚約してないと貴族に嫌われるの?」


 「そういやお前さんは異世界人だったな。【アイリーン王国】じゃ、聖女様と結婚した男が王を指名するんだ。つまり聖女様が【クジャタ学院】に入るのに婚約してないって事は、誰が王に指名されるのか分からないって事だ。」


 「なんか凄い制度だね。」聖女が選んだ男が変なのだったら国が崩壊しそうだ。


 「聖女様は神の代弁者だから強制は出来ないから、周りに置く人間をコントロールできる内に選んでもらうのが通例らしいわ。学院に行くとそうも言ってられないから貴族の一部から邪魔に思われているのかもね。」


 「シアンって何者なの?」


 「え・・・ダーリン。そんな・・・他の人の前では恥ずかしいよ。」赤い顔して俯いてしまったけど、恥ずかしい話だったか?


 「兄貴。シアンは王族か有力な貴族の関係者の娘なんだよ。」


 「お前さんは知らずに魔族と一緒に居たのか?」知る訳無いだろと言いたい。


 「魔族は高い魔力と絶対に裏切らない性質から、特に魔族の男は王族や有力な貴族の娘に囲まれて育つんだよ。将来の護衛を期待されてね。」


 「ふんふん。」どう繋がるのかさっぱりわからん。


 「それで護衛相手と子供成すから貴族や王族の事をよく知っているんだよ。」


 「護衛相手の女子と結婚するからって事なのね。」なんで護衛って扱いになるのかは分からんけど、結婚するって言われれば分かる。魔族の血を絶やさない為とかなんとか。


 「いや、結婚はしないよ。普通は他の貴族や王族と婚姻を結ぶから。」


 「え?どういう事?結婚はしないけど、子供は作っちゃうの?」ヤバイ。頭がショートしそうなんだけど。


 「魔族との間の子供は魔族しか生まれないから問題無いじゃない。」


 「そういう問題では無いでしょ。普通にNTRだよそれって。」


 「NTRって意味が分からないけど、魔族ってそういう存在なのさ。」なんて荒んだ世界なんだろうか?貴族や王族は気にしないのだろうか?


 「その場合、仮にシアンが結婚した場合ってどうなるの?」


 「私がダーリンの子供を身ごもったら、お屋敷に戻って産んでからどうするか相談する事になるの。丈夫な子を産むから安心して。」シアンさんがトリップしている様に見えるのは俺だけだろうか?


 「兄貴との子供はどうなるの?」何故俺の子?


 「子供が成人するまでの期間の事を相談するのよ。ダーリンが冒険者だから私達に会いに来てもらう形になるかな?」


 「だそうだよ。お父さん。」


 「なんかカルチャーショックで頭が痛い。」





 何事も無く野営地まで来たのだが、大勢が集まってガヤガヤしている声から、もめ事の予感だ。


 「ちょっと行ってみて来るから馬車を頼むな。」そう言ってオッサンが大勢集まっている所へ走って行った。


 「なんだろう?」リグの方を見る。


 「たぶんさっき言ってた冒険者の質の問題で揉めているんだと思うよ。」


 「貴族の子供も居るみたいだし、まとまらないんじゃない?」


 「おい。ちょっと良いか?」そんな話をしているとオッサンが戻って来た。身振りで来いってやるので三人で付いていく。


 俺達が人だかりについた時に、少し高台になった所でハリウッドの俳優みたいな金髪のイケメンが何か言うらしくてみんな静かになっていた。


 「まず言って置くが、俺は聖女様の護衛であって全員を守るつもりも無ければ、守れる訳も無い。

 最善は尽くすつもりだが、自分の身は自分で守って貰わないとならないのは理解してくれ。」


 「僕達は貴族としての将来が有る。我々の優先的な保護を要求する。」


 「なあ。あれって・・・」


 「サイゼリエールは何言ってんだか。」リグの必殺呆れ顔である。


 「貴族でも男は自分の身は自分で守って頂く。我々が守るのは聖女と女子に限られる。商人の方たちは出来るだけ近くによって守れる位置に居て欲しい。」


 「そんな事が通る・・・くっ」金髪イケメンが再度何かを言おうとした、サイゼリエールを睨んで黙らせた。


 「出来るだけ小さくまとまって野営してくれ。必要に応じて手助けはする。以上だ。」カリスマが有るんだろうか?これ以上は揉めずに解散した。





 「魔族の嬢ちゃんは聖女様達の近くで待機しててくれねえか?」


 「私も冒険者の一員なんだけど。」


 「嬢ちゃんに預かって貰っている荷物を弟のジャクソンに必ず渡してもらいてえんだ。頼まれちゃくれねえか?」


 「私の魔力が強いの分かってて言ってるんだよね?」


 「この通りだ。頼む。」オッサンが頭を下げたせいで少し薄くなっている頂点が見える。


 「シアン。聖女の近くに行きな。ヤバくなったらリグを行かせるから、そうしたら騎士でも連れて助けに来てくれれば良いよ。」


 「ダーリンはゴブリンが来た事を軽く考えているでしょ。」


 「いや。そんな事は・・・」重くも軽くも出たって事しか俺には分からないからな。


 「兄貴。ゴブリンは始めに偵察を寄越すんだよ。弱い群れだったら、この人数を相手に偵察しても強襲したりしないんだ。簡単に言うと俺達の戦力を見る為に攻撃してきたんだ。」


 「それって。絶対にこれから攻撃が来るって事だよな。」


 「そういう事。戦っている所も確認されているだろうから、移動しながら戦う事になるだろうね。」


 「撤退って選択肢は無いの?」


 「町にゴブリン達を連れていく訳にはいかねえからな。【ストックライト】には戦力が配備されているからそっちに連れて行くしかない。」


 「【ストックライト】って山向こうの町の事?」なんでかみんな山向こうの町って言うから、町の名前を始めて聞いた。


 「そうだ。行った先に戦力を用意するのが習わしだ。どうしたって魔物を引き連れて行っちまうからな。」


 「ダーリン分かった?私も必要で え あ ちょ。」しゃがんで目線を合わせてからギュッと抱きしめる。


 「大事な人が安全な所に居ないと気になって俺が全力をだせないだろ。だから、行ってくれないか?」滅茶苦茶恥ずかしいけど、こうすればたぶん行ってくれると思う。


 「ダ ダーリン・・・分かった。何か有ったらリグを見捨ててでも生きて帰って来てね。」抱いてた手を離すとシアンの顔も赤くなってた。


 「死ぬ気は無いから大丈夫だよ。人脈を作って置いてよ。」自分で言ってて何言っているか分からん。


 一生懸命手を振ってから馬車の集まりの中心に消えていった。


 「兄貴やるねえ。」


 「仕方ないだろ。こうでもしないと此処に居たぞ。」


 「気を使ってもらって悪いな。」


 「別に何も起きないかもしれないじゃん。」


 「・・・・」二人とも何も言ってくれなかった。

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