13 能無しのダンジョン6
先頭のネズミの後ろを少し右側にずれて二匹のネズミが走って来る。リグとシアンから少し離れたから立ち止まって待ち構える。これで二人が考える時間が確保できたかな?
近くまで来たのでマジックショットで牽制する。
「マジか。」先頭のネズミは軽く左に動いて避けた、今までの敵で避けた奴は居なかった。これが中層って事か。
思ったよりも早い。振り下ろしても突いても避けられそうだから横薙ぎに剣を振ると、先頭のネズミを左側に吹っ飛ばせた。
「ゲ」後ろのネズミがすでに目の前だ。体勢的にタイミング的にも避けられないから力を入れて衝撃に備え・・・・
マジか。飛んでるんですけど。
「ガフッ」思いっきり床に叩き付けられた。体に力が入らないけど、このまま寝ていたら奴らに殺られる。
気合いで転がってうつ伏せになって、腕で無理やり体を持ち上げて膝立ちになった。
「あれ?」二体とも倒れてる。
「ダーリン。」シアンが走って来た。
「兄貴大丈夫?早くとうせんぼうエリアに逃げるよ。」リグに肩を貸して貰って何とか歩いていく。
少し休んだら体が動くようになった。
「激しく吹っ飛ばされたから、車に跳ねられた位のダメージだと思ったけど大した事無かったのかな?」
「ダンジョンには魔力が満ちているから回復も早いって言うの。後ろから見てても凄い飛んでたから軽いダメージでは無いと思うよ。」シアンが心配して付き添ってくれている。
リグは・・・・倒したカニの解体作業に勤しんでる。あっ!目が合ったらこっちに来た。
「兄貴どうする。僕としては撤退した方が良いと思うけど。」
「ダメだ。此処で戻ると次にアイツに会った時に不利になる。」サッカーでも激しいプレイでダメージ貰うと怖くなる。それを放置すると次から必要な時に突っ込めなくなる。
ガキの時に親父にそう言われてやらされた時には鬼だと思ったけど、実際に一緒にやってた奴も怖くなってダメになった奴は居た。
「でも、大丈夫なの?」
「体は動くから平気だよ。」精神的には大丈夫じゃ無いけど、シアンに言ったら止められると思うから言わない。
「でも、どうする。」
「それよりもあいつ等をどうやって倒したんだ?」
「兄貴が切った奴は倒れた所を僕がパチンコで弱点を撃って倒して。」
「ダーリンに突っ込んで動きが止まった所を私がマジックアローで倒したわ。」
「なるほど。弱点を突けば一撃で倒せる程度の奴らって事か。」
「そうだね。むしろ当てさえすれば弱点じゃ無くてもダメージは通りそうだね。」
「しかし、強いなさすが中層のモンスター。」
「中層のモンスターじゃ無いよ。5層~15層で出るって言われているから、浅い階層と中層の間のモンスターだよ。」
「そんなのもアリかよ。中層のモンスターってどんだけ強いんだ。」
「別に中層のモンスターだから全部が強いんじゃないのよ。むしろ中層ってモンスターの数が多くなるから危険になるのよ。まあ明らかに強い一匹で出て来るモンスターも居るけど、ほとんどは複数で出て来るから危険性が増すの。」
「もしかして俺って分かってない?」
「もっと先になると思ってたから、ギルドの人にでももっと詳しく一緒に聞こうと思ってたからさ。僕が知っている範囲だと浅い階層は例外は有るけど、一体づつ出て来る比較的弱いモンスターが多い。」
「とうせんぼうが来たから私が倒して来るね。」
「中層になると一度に出て来る数が増える。下に行けば行くほど増えて来る。一体で強力なモンスターも居るけど、その場合は一度に出て来る数が減るって話だよ。」
「中層になると数が増えるのか。」
「その中でも異質な存在が中間に居るモンスターなんだよ。いくつか居るらしいけど僕はツインラットしか知らない。と言うかツインラット以外の中間に居るモンスターほとんどの人は知らない。なんでと思う?」
「ネズミ好き?」あっちの世界でも夢の国のネズミは有名だし。頑張ってひねり出した。
「はあ~~~。」コイツ溜息吐きやがった。それも、俺にも分かるようにワザと。
「ツインラットで死ぬ冒険者が多いからだよ。他の中間に居るモンスターは居るみたいだけど、死人が出る話は少ないから知らないだけ。中層のモンスターになるとヤバイ奴以外は名前何て知らないよ。」
「話は終わった?」シアンが帰って来た。
「ヨシ。気合を入れて行こう。」ツインラット攻略戦だ。作戦は情報不足って事で、前回の戦い方を踏襲してもう一回試すことにした。
「ダーリン。気を付けてね。」
「分かっていれば、ダメージも少ないハズだから大丈夫。」前回と同じって事は、そうもう一回吹っ飛ばされるって事だ。でも、今回はイメトレをしっかりやったし平気だ。たぶん?
とうせんぼうエリアから少し出た所でツインラットが来るのを待つ。進んで連続で来られたらアウトだからね。
「兄貴。来たよ。」緊張が走る。
「ヨシ。行くぞ。」俺が先頭に立って待ち構える。
さっきと同じように先頭を走るネズミの少し後ろを右側にずれて二匹で走って来る。
「てや。」先頭のネズミを横薙ぎに切る。(むしろ叩く?)
次の瞬間・・・やっぱり避けたり出来そうに無い。
「ブホッ」前回と違って間抜けな声が出た。
飛んでいる時ってなんでか痛みは無いんだよね。
「おうっ」一応受け身らしきものを取ってみるけど、痛い。
気合いを入れてさっきと同じように転がって膝立ちになると、二人が上手くやってくれたみたいでツインラットが倒れている。
「どうだった?」とうせんぼうエリアに戻ったらリグが聞いて来た。
「やっぱり分かってた分だけ前よりはマシだけど、連続で戦うのは厳しいな。」
「どうする?」
「あれ?後ろの奴の進行方向側に先に来たネズミを飛ばせば時間稼げるんじゃね?」
「どうだろう?」
「まあ一度試してみようか。」
そんな訳で三回目のトライ。上手く行くんじゃないかな?
「とりゃ」三度目にもなれば慣れたもので、今までと反対側に吹っ飛ばす。
「マジ」すぐ後ろに隠れてた。またしても弾き飛ばされて飛んでいく。
「ぐは。」今回は腹から着地して息が止まった。無理やり起き上がると二人が倒してくれた後だ。
「考えたんだけど俺に突っ込む寸前に、リグが攻撃すれば避けて後ろの奴を俺が剣で吹き飛ばせば良いんじゃね?」
「本当に懲りないね。さすがと言うかなんというか。」
「二人して生暖かい目を向けないでくれ、俺がアホな事しているみたいじゃ無いか。」
「良いから行くよ。」流されるのが一番傷付くと言うのに・・・・
4度目の正直で倒してやる。
俺に向って突っ込んで来る直前にリグがパチンコを撃つと・・・突進を止めてにらみ合う形に・・・どうする。こんな展開は考えてなかったぞ。お前ら突っ込むだけがプライドじゃ無いのか?
動いた瞬間に対応できるように剣を構える。あっちも俺が攻撃してきたら、その隙に攻撃されなかった方が仕掛けて来る気なのだ見え見えだ。
動けないまま時間が過ぎる。これってまずくない?確か時間と共に増えるって話だった様な。
「リグ。右側の奴を撃ってくれ。」そう怒鳴ると、瞬時に右側の奴が避ける。俺は左側の奴を突くが避けられた。
リグに攻撃された奴が立て直して来るのが分かったので、振り向きながら横薙ぎに吹き飛ばす。直後にシアンの魔法が俺の吹き飛ばした奴に当った。
「勝った?」見ると二匹とも動かなくなっている。
「兄貴、次が来たよ。」
「え?マジ。」遠くから走ってくる奴らが居る。
「さっきと同じようにやってくれ。」そう叫んで迎え撃つ。
俺の手前まで来て・・・避けずに、なんで飛んでるんだ俺?
「グハ」またしても背中から叩き付けられる。無理やり膝立ちになって起き上がると、リグとシアンの攻撃を器用に一匹になったネズミが避けている。
「二人とも攻撃を止めて。」
「で でも」
「このまま時間を稼がれたら次が来るぞ。」二人が攻撃を止めた瞬間に俺の方に突っ込んできた。
合わせる様にして突きを入れるけど、右に避けられた。俺の突きを引き付けて避けたから勢いは無い代わりに噛みつきに来た。
反射的に右手をネズミの口の中に突っ込んだ。痛みが走った瞬間に床に叩き付けようとしたら膝立ちでバランスを崩したためボディープレスになった。
「兄貴、大丈夫?」
「大丈夫だ。痛いけど。」這う這うの体でとうせんぼうエリアに逃げ帰った。
「魔石は手に入ったけど、さすがに厳しくないかな?今回はヒヤッとしたよ。」
「一回うまく行って調子に乗って無警戒だったな。一匹目の奴はどうやって倒したんだ?」
「ダーリンにタックルして止まっているところを私が倒したわ。」
「タックル?」
「そうよ。ぶつかる時に一気に伸びあがるのよ。それで動きが止まるの。」
「俺がギリギリで躱せればリグとシアンで狙い撃ちじゃね?」
「躱せる?あれを。」
「リグ。俺は天才サッカー少年(自称)と呼ばれた男だぜ。誰が出来なくても俺になら出来る。」ディフェンダー二人躱してゴールするだけ、何度もやった事は有る。
満を持して5回目のトライだ、今回は楽勝だろう。躱すだけとは言え剣は一応持って置く。
ここだ。ギリギリで躱す、次が・・・クソ思いの外近い。
俺が抜けないだと・・・・「かふ」倒してくれていると思うけど、気合で起き上がる。仕留めそこなっているとピンチになるから。
「倒してくれたか。」
「兄貴。次はどうするの?」
「次は躱すよ二匹のネズミを。」
「さすがに厳しくないかな?」
「男には厳しくてもやらねばならない時があるんだ。」
「ボロボロで寝ながら言うセリフじゃ無くない?」
「くそ~またしてもやられた。」すでにツインラット華麗に躱そう作戦が開始されてから、何回トライしたか分からない位トライしたのに毎回飛ばされている。
「なんか初めの頃よりも飛ぶ距離が短くなったと思うわ。回復も早くなったし。」
「確かにそうだね。このまま続けて行けば、いずれ受け止められるようになるんじゃない?」
「全然嬉しくないぞ。」躱したいのであって、当たってもビクともしないお相撲さんを目指している訳では無い。
「そもそもの話で、あの二匹の攻撃を躱す事自体が今の俺には無理が有ったのかもしれない。」
「やっと分かった。普通の人は2・3回やれば分かるよ。」
「イヤ。出来ないと言っている訳じゃ無いんだ。ただ、躱しきれない可能性も考慮すべきだと思ってね。むしろ成功しなかったのは良かったのかもしれない、成功していたら敵陣の真ん中で食らって危険な状況になっていたかも知れないからね。」
「成功したら止める予定だったよ。」
「一回の失敗で全滅は厳しい選択よダーリン。」
「何?どういう事?二人とも分かっていてやらせてたって事なの?」
「人が飛ばされて行く所なんてなかなか見れるもんじゃ無いし、兄貴なら死にそうに無かったからさ。躱せるなら躱して欲しいと思ってたよ。」
「私もダーリンが楽しそうにしているから、止める気になれなくて。」
「俺は楽しくなかったぞ。むしろ痛かった。」
「傍から見ると楽しそうに見えたよ。」
「だよね。」
二人の目はどうなっているんだろうか?吹っ飛ばされて、床に叩き付けられている人を見て楽しそうって・・・・。
「まあ良いや。さて次回はどういった作戦で行くか?」確かに回復が早くなっている気がするな。もっと寝ころんでうだうだやっていた気がする。
「作戦って言うほどの事じゃ無いけど、今までは相手が来るのを待って居たけどこっちが近づいていけば出方を変えて来るんじゃない?」
「でも、危険じゃない?敵陣に足を踏み入れる事になる訳だし、ダーリンを連れて来る距離が長くなるのよ。」
「引き付けてから走り出せば何とかなるか?」
そう言う訳でリグ案を採用してネズミエリアに来た。すでに何度目の挑戦か分からないが、今度こそ決めたい。
「兄貴もう少し検討する時間が必要じゃない?」
「覚悟を決めろ。大丈夫だ。もうネズミは見つけたし試してダメなら・・・・空を飛ぶだけだ。俺が。」
「じゃあ。よろしく。」