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12 能無しのダンジョン5

 「此処から先は一気に危険になるかも知れないから注意して行くよ。」リーダーリグがちゃんと指示してくれるので安心だ。


 一応はやばければ逃げるって話し合った上で見るだけ見てみようって事になって中層デビュー(かも知れない)である。


 ゆっくり歩いていくと前から土色の大きい何かが向かって来る。


 「とうせんぼう?」


 「なに?」


 「やっぱりとうせんぼうだ。と言う事は此処はまだ中層じゃない。」リグが勝手に言っているけど、何言っているのか誰か通訳してくれ。


 「カニ?」どう見てもカニだ。大きさは俺と同じくらいは有りそうなカニが、鋏を持ち上げたまま足を器用に動かして前進している。


 「シアン。倒せるかな?」


 「全然倒せるわよ。魔力が無くなったら撤退って事で良い?」


 「了解。」


 近くまで来たカニの前で右手を高く掲げてから「刃よ」って言葉と共に振り下ろした。次の瞬間にカニが真っ二つになって前のめりに倒れた。


 「さすがシアン。」


 「コイツって強いの?」


 「とおせんぼうは初心者殺しの代表みたいなモンスターだよ。こいつ等は固くってダメージが通らないんだ、それで手間取っていると次のとおせんぼうがってなって逃げれなくなるからね。」


 「どういう事?今の話だと浅い階層では1体以上は出て来ないって話と矛盾しない?」


 「出て来るのは1体づつだよ。倒すのに時間が掛かり過ぎると2体目が出て来るだけで。」


 「でも、浅い階層では悪くても大けがって言ってなかった?」


 「だから、初心者殺しって言われるの。初心者殺しって言われるモンスターは浅い階層でも殺される可能性が有るモンスターの事だよ。一つのダンジョンで2種類出て来るのは珍しいけど10階層だから中層の範囲って言えば普通なのかな?」


 「次が来たみたいよ。」シアンが前に出て行く。カニがシアンよりもだいぶ大きいので大丈夫と分かっていても心配になるな。


 今回もシアンにカニは真っ二つにされた。なんか、胸に弱点が見えたんだけど、アレを突いても倒せないのかな?


 「カニの弱点も攻撃が通らないのかな?」


 「カニ?ああ、とうせんぼうの事ね。弱点が分かるなら倒せるんじゃない?中層に行く冒険者は正面から倒すって言うしね。」


 「じゃあ、一回やってみても良いかな?」


 「またスタンドプレーするつもりなのダン。」


 「もしも倒せるなら倒した方が良いだろ。シアン一人に負担掛けるよりもさ。」


 「ダーリン❤」


 「一回試してダメだったら、すぐに撤退するからね。」


 「分かったよ。ダメだったらすぐに下がるからシアンお願いね。」


 「オッケー。」


 俺が先頭に立ってカニを待ち構える。何気に前進の速度はゆっくりだから、逃げるだけなら簡単なのかも?


 俺の目の前まで来たら止まって両手の鋏を高く上げて万歳のポーズを取っている。俺と同じくらいの身長のカニに威嚇されると怖いな。


 覚悟を決めて大きく一歩踏み込んで胸の光っている場所を真っ直ぐに突く。予想外に柔らかくて剣の半分位刺さってしまった。それでも力を込めて抜いたら抜けた・・・カニはそのまま後ろに倒れた。


 「マジか。」リグが両目を見開いて異様なくらい驚いている。


 「これで俺が倒せば良いからシアンは無理しなくて良いよ。」


 「私も強くなる為に倒したいから交代交代で倒そうよ。」


 「じゃあ、次はシアンの番だね。」


 「ダンはどうやって弱点が分かるようになったの?」シアンがカニを相手にしているのにリグが聞いて来た。


 「よ~く見ると薄っすらと光って見える所が有るでしょ。そこが弱点だよ。」


 「そんなの僕には見えないよ。」


 「よ~く見てみろよ。俺も始めは光っているかどうか確信は持てない位にしか見えなかったぞ。」


 「何々。なんの話をしているの?」


 「ダンがね。弱点が光って見えるって言うんだよ。シアンは分かる?」


 「よ~く見るとだよ。」なんか俺がウソ言っているみたいに言われている気がするんですけど。


 「私はモンスターをそんなによく見た事が無いから分からないな。次が来たらよく見てみるね。」


 リグのせいで何となく嫌な感じになりながらも次の奴が来た時の為に先頭を歩く。


 「私も近くで見てても良いかな?」


 「構わないけど?」リグは信じてない感じだったけど、シアンは信じてくれているみたいだ。素直に嬉しくて涙が出そうだ。







 次の奴が来た。俺は左利きだからシアンは半歩下がった右側で見てる。


 大きく一歩踏み込んで剣で突き刺す。前回の反省から少し力加減したので、すぐに剣を引き戻して一歩下がるとカニは後ろに倒れた。やっぱり甲羅が重たいのかな?


 「ダーリン。もう一回見ても良い?もしかしたら私にも見えるかも知れない。」


 「何回でも見れば良いよ。行けると思ったら魔法を使ってみれば良いし。」


 次 次 次と4体程俺が倒して見せるとシアンは自分の手を見て考えている。


 「どうしたの?」


 「距離が有る時に私が魔法を一回使ってみても良いかな?分かったかも。」リグがシアンの後ろで首を横に振っている。ムカつくなアイツ。


 「良いよ。もしも近くに来たら俺が倒せば良いんでしょ。」


 「やってみるね。」


 同じようにシアンが俺の右手側の半歩後ろに居る。緊張しているのが伝わってきたのでグローブを外して頭を撫でる。


 「ビックリした。」ビクッとして飛び上がりそうだった。


 「緊張しているでしょ。失敗しても何度もやれば良いんだよ。」昔はサッカーの試合でよく言ってたなって言ってから思った。


 「そうだね。」シアンはニコッと笑って気合を入れ直した。


 カニから十分距離が有る状態で待ち構えると、すぐにシアンが手の平を前に向けて魔力を集め始める。


 光の矢みたいなのが作られる「槍よ」って言ったのを合図に光の矢が真っすぐに飛んでカニの弱点近くを貫いた。


 「やっぱり後ろに倒れるんだ。」何度見ても姿勢は前傾なのに後ろに倒れる姿には違和感がある。甲羅が重い説が有力だな。


 「今のってマジックアローだよね。」またしてもリグが目を見開いて驚いてる。これがリグが驚いた時の顔なんだろう。


 「そうよ。マジックショットの一個上の魔法よ。」シアンが得意気だ。俺にはリグが何を驚いているのか全く分からないけど。


 「本当なんだ。よく見れば弱点が光って見えるって。」


 「ダーリンが私に嘘を言う訳無いじゃない。」そんな事無いよ。俺もシアンに嘘を言う事が有ると思うよって言いたい。


 「兄貴。疑ってすみませんでした。適当な事を言って誤魔化そうとしているんだと思ってました。」


 「兄貴?どうしたの急に。」リグが壊れた?


 「リグがダーリンの事を認めたって事よ。男は尊敬する人を兄貴って呼ぶのよ。」変な習慣があるんだな、こっちの世界には。


 「そうです。僕は今まで兄貴はかなり頭の悪い異世界のオッサンだと思ってました。」少しじゃ無くてかなりって言ったぞコイツ。しかも、オッサン・・・15から見たら35ってオッサンか。


 「目が覚めました。《弱点看破》の獲得方法を何でもない事のようにパーティー仲間に教える様な器の大きさ。奴隷である僕に共同資金を預けるのもその器の大きさからだったんですね。」器が大きいって言われて悪い気はしないな。


 「別に気にしなくて良いよ。ちなみに《弱点看破》って何?」


 「スキルの事よ。中層に行く冒険者なら持っているって言われているわ。」


 「そうですよ。僕の兄も持って居るんですが「モンスターを倒し続けてれば分かるようになる」としか教えてくれませんでした。」


 「今まで通りに話してくれない?イキナリ言葉遣いを変えられると俺が混乱するから。」


 「兄貴呼びは変えないよ。僕の《弱点看破》を身に着ける為のトレーニングには付き合ってよね。」俺としてはリグが強くなって困る事は無いし、別に良いんだけど兄貴呼びはどうにか出来ないだろうか?


 「やっとリグにもダーリンの魅力が分かったのね。」






 リグとシアンと交互に《弱点看破》のトレーニングをしてる。


 「シアンは問題無いね。」マジックアローって奴で普通に倒している。始めの内は数回しくじったけど、その後は連続で成功させている。


 「そうね。リグが2回やったら私が1回って感じでも良いけど、どうする?」


 「助かるよ。」リグもマジックアローが使えるらしくて、パチンコじゃ無くて魔法でやっているけど一撃で倒せるのは3割くらいだ。


 「なんかシアンだと少し外れてても倒せるのに、同じくらい外れててもリグじゃ倒せないのって理由は有るの?」


 「純粋に魔力の差だよ。この中じゃ僕が一番魔力が弱いからね。」


 「そうなの?俺はそのマジックアローが使えないぞ。」何回か練習したけど、光の矢が出来ないで魔力がバラバラになっちゃうんだよね。


 「練習量の問題よ。そもそもダンジョンの中で魔法の練習はしないの、肝心な時に魔力切れになったら困るから。」そう言う理由で時間を置いてたまに練習しているけど、成果は全くだ。


 「さすがに下位の魔法くらいなら僕でも使えるよ。実戦で使える魔法じゃ無いから使わないだけで。」


 「そうなの?」


 「僕みたいに体格に恵まれてない奴はみんな一度は魔法を試すからね。体格に恵まれた奴はマジックショットしか使えない奴も居ると思うけど。」


 「じゃあ、カニを真っ二つにしてた魔法って何級なの?」


 「あれは下位と中位の間位かな。下位は魔法に温度か物質化の属性を付与出来たのを言うの、それに対して中位はイメージの具現化が含まれるのよ。」


 「なるほど。」全く分からないな。質問してもあさっての方向の質問になる未来しか見えない。


 「シアンはどんな中位魔法使えるの?」リグが良い質問をしてくれた。そうやって聞けば良いのか。


 「私は温度を操作する方向の魔法が得意だから炎とか冷気の具現化させた魔法が使えるよ。中位は私には使えるだけって感じで、コントロールがしっかりできないんだよね。」


 「ふむふむ。」炎と冷気の具現化って言われてもな。あれ?ファイアとかヒャドって言われても分からないじゃん。どう言われたら俺って魔法の事が分かるんだ?


 「兄貴。新手が来たからお願い。」仕方ないのでリグのサポートに着く。


 少し遠くからやると3回位マジックアローを撃つとカニは倒れる。






 トレーニングをしながらだから、進みはゆっくりで二人の休憩も二回目だ。


 二人が寝ている間のカニフィーバーも終わっていつも通りナッツを食べていると、ふと思った。このカニ食えるんじゃないか?


 まだ消えてなかったカニの足を一本切って、ウサギ肉と同じ要領で温める。


 「何しているの?」


 「リグ。起きたんだ。」そろそろ焼けそうなタイミングで起きやがった。


 「手に持ってるのって・・・・」


 「俺の世界では普通に食べるんだよ。だから、食べれるかなって実験しているんだ。」折って中身を引っ張り出すと身は少ない。


 「あっちの世界の方が美味いな。」不味くは無いんだけど、味が薄い。


 「僕も一本貰っていい?」


 「気持ち悪そうな顔してなかったか?」


 「なんか兄貴が食ってるの見たら美味しそうに見えたからさ。」


 「どうしたの?二人で?」シアンも起きたらしい。


 「兄貴がねとうせんぼうを食べてたんだよ。」


 「シアン。女の子がそんな顔を見せちゃダメだよ。」シアンが気持ち悪さを顔全体を使って表していたので注意した。一応は俺に好意を持ってるんだよね?だよね?


 「ごめんなさい。ダーリン。余りの事に驚きが隠せなくて。」


 「兄貴焼いてみてよ。」いつの間にか新しいカニが来ている。





 「じゃあ。焼くぞ。」二人してなんかワクワクしているみたいだ。あれ?シアンも食べるんだっけ?


 「本当に赤くなってく。」


 「でしょ。兄貴が食べてたのは赤かったから熱すると赤くなるんだ。」


 「赤くなると食べれそうな気がするわ。」土色のまま食べるのは俺でも抵抗あるもんな。


 「ほら焼けたぞ。」一人一本づつ焼けたカニ足を手渡す。


 「美味しい。あの見た目でこの味って凄いギャップ。」


 「私も好きかも。」


 「喜んでもらえて良かったよ。」


 「今度はコイツを宿屋に持ち込んでみようよ。コイツなら上の奴らは倒せないと思うから。」


 「見た目が見た目だから売れないと思うよ私は。」


 「リグが試したいなら試せば良いよ。倒した奴の足を多めに確保して置けば良いでしょ。」





 「次の階層に行くけど、大丈夫?」リグが確認をしてくる。カニ足は一体から8本取れるから数はすぐに集まったので、次に行くらしい。


 「もしもの時にはプランBで行くんだよな。」二人とも頷く。


 「じゃあ行くよ。」先頭は俺でリグ・シアンと続いて進む。


 「なんか来たよ。」俺よりも目が良いリグが警告する。


 「なんだ?」今までの奴よりも動きが明らかに早い。それに二体居ないか?


 「ツインラットだ。」


 「コイツはどうなの?ヤバイ奴なのか、そうじゃないのか?」


 「シアン、どう思う?」


 「どうかな。」そんな事を言っている内に近くなってしまった。


 「行くぞ。」そう言って俺は二匹の大型犬くらいのネズミ向かって駆け出した。

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