11 能無しのダンジョン4
次の日は朝一で武器屋から洗濯して貰った装備を貰って、商店で大銅貨一枚分の調味料を買ってパーティー名を教えてギルドは朝は込むって事で次回に回して急いでダンジョンにやって来た。
「なんだ?」ダンジョンに入ってすぐに異変に気が付いた。
「他のパーティーが居る?」リグも気づいたみたいだ。
「とりあえず、急いで大兎の階層に行った方が良いんじゃない?」
「シアンの言う通りだ。急いで2階層に行こう。」リグの判断で走って2階層に向かう。
「何があったんだ?」昨日まで人っ子一人居なかったのにそこら中から人の気配がある。
「やられたね。宿屋のオッサンから情報が出回ったんだよ。ウサギ肉が取れるダンジョンが有るって。」
「どういう事?」
「朝起きて二人を待って居る時に食堂の女の子に聞いたんだよ。ウサギ肉が高いのは10層よりも上の階層ではあまり見られないらしいんだよ。そこまで潜るなら他にも金になる物は有るし、なかなか手に入らないって宿屋の主人が言っていたって。」
「でも、2階層で取れるなんて私達教えて無いよ。」
「このダンジョンに入った事が有るのは僕達だけじゃ無いでしょ。」
「どういう事?」
「ダンジョンを放置していると暴走してモンスターが外に溢れ出すの。それを防ぐために定期的に貴族が冒険者を募って討伐隊を組みのよ。」
「その討伐隊に参加した事の有る冒険者は、僕と同じで大兎は厄介なモンスターって思って居るだけで、肉が売れるって知らなかったんだよ。たぶん商人なら知っている人は多かったのかもしれないけど。」
「じゃあ、たまたま残ってた儲け話って事か。」話している最中も移動しているけどウサギが全く出て来ない。昨日と違うダンジョンみたいだ。
結構グルグル回ったけど5匹しか狩れなかった。冒険者とすれ違う事の方が圧倒的に多いし、時間が経つにつれて冒険者とすれ違う頻度が増えている。
「チッ ガキは帰って寝てろや。」すれ違う冒険者と言う名のゴロツキに言われる。
「リグ。睨まないの。ケンカになったら困るでしょ。」リグさんは見た目に似合わず好戦的な性格らしく、すれ違う冒険者を思い切り睨むので絡まれないか不安で仕方がない。
「そうは言ったって、僕達の方が先に来てたんだよ。」
「それはそうだけど、あっちの人達は大きなグループみたいじゃん。みんな同じ腕輪してたりして、何十人も集まって来たら俺達袋叩きにされちゃうよ。」
「ダンならきっと勝てるよ。」何言ってんだコイツ。
「他の冒険者と事を構えるのは良くないと思うよ。リグ。」シアンもっと言ってやれ。
「納得いかないな。」
「元々は先に進む予定だったじゃん。このまま先に向おうぜ。ほら、リグの好きなナッツでも食べながらさ。」ナッツを一掴み分リグに無理やり押し付ける。
「ナッツが好きなのはダンの方だろ。」そう言いながらもカリカリやり始めた。
「ダンジョン探索にレッツゴー。」から元気で拳を上げる。
「ゴー」シアンが乗ってくれた。
ウサギエリアから打って変って蜘蛛エリアの寂しい事。全く人の気配が無い。遠くで聞こえる小さな話し声も無ければ、移動する足音も無いし。1体づつしかモンスターは来ないからなのか、本当に静かな空間だ。
「なんかイキナリ祭りの後って感じになってるな。」
「そんなもんだよ。ほとんどの冒険者は危険が少なくて稼げる場所でしか活動しないのが普通で、英雄思想の奴だったり貴族とかじゃ無いと深い階層に危険を冒して入ろうとは思わないよ。」
「貴族はなんで入るのさ。冒険者を派遣して終わりじゃ無いの?」
「中層に潜る冒険者ってどの位居るか知ってる?」
「そもそも中層自体を知らない。」
「浅い階層って言われるのが10~15層位までね。浅い階層と中層ってモンスターの種類で区分されているの。」シアンが優しく教えてくれる。
「そうなんだ。浅い階層の方が命の危険が少ないって事で合ってる?」二人が首を縦に振って肯定してくれる。
「ちなみにどの位変わる物なの?」蜘蛛が出て来たと思ったらリグがパチンコで撃ち抜いてくれる。
「浅い階層では悪くても大けがね。中層だと普通に死ぬ位違うわ。」
「凄いギャップだな。つまり危険を冒して中層に行く冒険者は少ないって事?」
「冒険者全体の2割って言われているよ。」
「で、それと貴族がダンジョンに入るのと何の関係が有るんだ?」
「貴族にはダンジョンの管理をする義務が有るんだ。自分の領地内に有るダンジョンが暴走しない様に管理しないと処罰の対象になるんだよ。」
「ダンジョンの管理ってのが、中層のモンスターの間引きって事か。」
「そうじゃ無くて、深層まで含めたダンジョン内のモンスターの間引き。」
「ちなみに深層のモンスターの強さってどの位になるの?」
「モンスターそのものの強さは中層よりも少し強いだけらしいけど、深層のモンスターは待ち構えていて連携して襲ってくるらしいよ。」
「私が聞いた話だと数が桁違いに多くなるって聞いた事が有るわ。普通に100とか200とかって数が待ち伏せしていて一度に襲ってくるんだって。」
「そんな恐ろしいところに貴族は行かないといけないの?」沈黙で応えてくれた。良かった貴族に転生じゃなくて。
スライムエリアに到着したけど・・・慣れって奴だろうか?余裕である。
「もしかしてスライムが減って来たのかな?」
「そうだね連日倒してるから、ダンジョンの魔力も減って来たのかも知れないね。」後ろ担当のリグも余裕が有るようだ。
今回は先頭をリグに代わって貰う事なく進んでいる。進む速度も速くなった気がするし順調だ。
「もうちょっとするとスライムエリアは抜けれそうだね。」シアンは現在はマップ係兼魔石拾い係をやっている。今回はシアンの魔法は行き止まりに着いた時に使ってもらうだけになってる。
「なんか新しい奴が出て来た。」肌色の犬くらいのサイズで・・・・ナメクジだ。ニョキッて触角なのか目なのか知らないけど出してこっちに一匹で向かってきている。
「またしてもマジックショットで倒さないとだね。」リグも後ろの掃除が終わって前に来た。
「なんで?」
「アイツの粘液で装備がダメになるんだよ。パチンコで撃つには弾が勿体ないし。」
「ダーリン。【スライムの核】はどうする?」
「俺が全部貰うよ。とりあえずナメクジにぶつけてみるね。」そう言ってナメクジに【スライムの核】を投げつけたけど・・・・何も起きなかったのでマジックショットで仕留める。
「ほら、もう次が見えて来たよ。」リグが指差した方を見ると肌色の物体がえっちらおっちらこっちに向っていた。
ナメクジエリアの行き止まりで休憩中である。
いつもの様にリグとシアンはぐっすり眠っている。ナメクジエリアでも二人が寝ている時の座ると出て来るモンスターフィーバーは継続中で座ると出て来る。
しかも今回は出て来る速度が少し遅くなっただけで、フィーバーが終わらないみたいなんだけど?おかげで魔石を数えている時間が無い。
腹は減ったけど二人が起きるまで待ってからご飯になった。しかも、三人交代でナメクジ退治しながらのご飯。下がるわ~食欲下がるわ~。
それでもスライムエリアと違ってサクサク進めるおかげで次の階層に到着した。
「今度は蝙蝠か。」カラスよりも大きい蝙蝠ってもはや別の生物って感じだけど、蝙蝠が出て来た。ちなみにコイツはウサギと同じ感じのソフトエンカウントって感じで歩いている時間の方が長い。
強さはどうかって聞かれても答えられない。何故ならリグが撃ち落としてしまうので瞬殺で終わってしまうので、戦う機会が無い。
俺の感覚的には気が付いた時には打ち落とされているって感じで、リグは目が良くて勘が良いのか俺よりも早く蝙蝠を見付けて撃ち落としてしまうので、ただ歩いて魔石を拾って進むって感じだね。
「次の階層に行く前に一度休憩にしよう。」このまま進めば次の階層って所でリグが突然言い出した。
「どしたの?」
「次の階層がスライムみたいになってたら、戻らなくちゃならないでしょ。このまま進む予定なら此処で休んだ方が安全だからさ。」
「なるほど。」
「まず食事しようよ。シアン壺出して。」腹が減ったって事だったのか。
人間って慣れる生き物だよね。食事中にモンスターが来る時点でゆっくり食事で来ている訳は無いのに、ソフトエンカウントの蝙蝠は感覚的にはゆっくりに感じる。
二人が眠って蝙蝠フィーバーが終わって二人が起きたので次の階層に進むことにした。
「なにこれ?」ダンジョンに穴が空いている。
「アリ地獄だね。」
「どんなモンスターなんだろう?」とりあえず確認の為に穴に降りる。
二人が上でなんか言っているけどサラサラの砂でドンドン下に落ちている最中です。放って置くと体が沈んで行っちゃうからその場で足踏みしながら落ちていく。上るのは難しそうだな。
「これがアリ地獄か。」大きなクワガタみたいな鋏を持った奴が出て来た。大きさはこっちの世界のアリと同じくらいで首の細くなっている所に弱点の光が有ったので剣で刺し殺す。
下から持ち上げられるようにしてダンジョンの床に戻った。アリ地獄はすでに魔石になっている。
「お前はバカだろ。」リグがメチャメチャ怖い顔で睨んでる。
「ほらどんなモンスターか調べて置くのは重要じゃない?」
「ほんと穴が空いているのを見て飛び込む奴は初めて見たよ。今後はこういった軽はずみな行動するならパーティーは解散するよ。」俺が主人でリグが奴隷だよね?なんか立場が違くないか?
「今回はダーリンが悪いよ。ちゃんと謝って。」いつもは俺に甘いシアンまで怒っている。
「すみませんでした。二度としないので許してください。」大人はしっかり頭を下げて謝るものなのだ。失敗は誰にでもある。
「もうやらないでね。」俺の手を握るシアンさんの目が怖い。
穴が空いているだけで、何にもしてこないのでこの階層はタダの散歩になってしまった。まだ怒っているのか二人とも会話をしてくれない。
ただただ歩いてあっと言う間に次の階層手前まで来たので食事して休憩になった。
二人が眠って俺も座って休んでいるとモンスターが出て来ないのでやる事が無いなと思ったら、すぐに二人が起きて出発になった。モンスターが居なかったから疲れていなかったんだろう。
次に出て来たのは初めて町に行く途中に出て来た小型犬位のトカゲだった。
「8階層でチビカミか。本当に変わったダンジョンだな。」
「アイツはチビカミって言うの?」
「アリよりも弱いモンスターね。子供が一番初めに倒すモンスターの代表格よ。」
「そうそう。アイツは自分よりも弱いと思ったものしか襲わないから、すぐに襲って来なくなるんだよね。」町に行く途中で襲われたのって俺の方が弱いって思われてたって事?子供じゃ無かったよ俺。
「どうかした?」
「別に何でもない。」会った事ないって設定で行こう。俺はあんな奴と会った事は無い。
あいつ等は本当に俺達を襲って来なかった。二人が寝ている時でも俺が座ると現れて逃げていくを繰り返すだけの不思議モンスターだった。
その後の9階層はナナフシってモンスターで擬態しているんだけど・・・此処は白いダンジョンなので気の真似しても意味無いと思うって言う残念モンスターだった。
そして、ついに中層になるかも知れない10層に到達した。