第八話 vs四天王
九重龍通算死亡回数三回
「はっ…!また殺したんですか俺のこと!」
「死を作品の糧にできないようではまだまだ甘いな」
あまりにも無理のある理論のような気もしないが体験するすべてを血肉にすることで作家としてのレベルがあがりそうなので大人しく受け入れる。
「ひと段落ついたことだ、一度帰るとしよう」
「わかりました」
街に戻ったところで娯楽のないこの世界ではとくにすることがない、長い道のりに億劫になりつつも宿を探しそこの看板娘と恋に落ちるなんていう異世界でのテンプレを妄想少し胸を躍らせてしまう。目をつぶり移動が終わるのを待つ。
「いつまでそうしているつもりだ、帰ってきたぞ」
「はいはい、えぁ?」
目を開けると現実世界の自宅ベランダに移動していた、さっきまでのモンスター溢れる草原の光景が瞼の裏にこびりついているのに目の前には見慣れた景色が入ってきて脳がショート寸前だ。
「これから次の作品のプロット、企画を作ってもらう」
「いや、それはありがたいけど向こうの世界を救わなくてもいいんですか…?」
「私たちがこっちにいるうちはあっちの世界の時間は止まっているから問題ないよ、逆もまた然りだ」
まさに世界の中心はこの人なのだと痛感する。ついでにこの世界の発展具合にもありがたさを感じる、異形のものと戦う経験ができるのはいいがそれ以外の時間はゲームや執筆が出来る現実世界に軍配が上がる。様々な思考を巡らせている間に次の試練を提示される。
「九重君にはU22ラノベ大賞に応募してもらう」
「U22ラノベ大賞ってコミカライズ確定の若手作家の登竜門的なあれですか」
「そうだ、そこで受賞し、コミカライズした勢いのままアニメ化という算段だ」
「そんなうまくことが運びますかね…」
当たり前の疑問は一蹴される。
「そのための特訓だ、私の納得するプロットが出来るまで本文を書くことは禁止だ」
「ついでにアルデカーナも救ってから執筆開始だ」
「んな無茶な!!!」
「無茶をしないと凡才な君が受賞をすることはない、根性をみせてみろ」
売れっ子作家とは思えない論理的思考のないゴリゴリの精神論を投げつけられる。
「一日やる面白い企画を作れ、では解散」
お決まりの瞬間移動でいなくなったのを確認し部屋に戻る。
「疲れた…とりあえず寝るか…」
スライム三体とゴブリン二体を倒しただけ、時間で言うと1時間も経ってない、それでも体力は底をつき疲労困憊だ。ベッドに横になり目を閉じると簡単に眠りにつくことが出来た。
「寝すぎた!!!プロット作らないと!!」
14時間の睡眠を経て飛び上がるように起床、アイデアは何一つ浮かんでいない、それでも目覚めの一服はかかせない。ベランダに出ると何故か新山さんがいた。
「やぁ、随分と余裕みたいだね」
満面の笑みを下を見ることでかわしながらタバコに火を付ける。別に悪いことをしているわけではない、約束の時間はまだ先で文句を言われるはずもない、それでも目を見るのがなんか嫌なときというのはあるものだ。
「少しは進んだのかい?」
「いやぁ…これからなんですけど…」
「そうなのか、気持ちよく寝ていたようだからもう終わりが見えているのかと思っていたよ」
やばい、なにか言わないと。
「その…この間師匠に見せたやつじゃだめなんですか…?」
「あれか…悪くはないがあれで大賞を受賞するのは難しいと思うよ?」
「いや!師匠もおもしろいと思ったんでしょ!?なら受賞くらいわけないでしょ!」
「面白いが、前も言ったように私にあれを見せてくる度胸も買ってのギリギリ合格点というところだ」
ギリギリ合格点だったのか…もっと余裕の弟子入りだと思っていた俺の想像とはかなり乖離があったようだ。
「君は異世界を体験している、その唯一無二を活かしなよ」
「いやおれ雑魚敵倒しただけなんですけど…」
「それもそうだな、なら魔王を倒しに行こう」
「また急に…まてまた瞬間移動するつもりだな!」
俺が言い終わる前にすでに移動は完了していた。めでたく二度目の異世界に到着。前回と違うのは町中への移動ではない、淀んだ空にその奥に鎮座するあまりにも大きい禍々しい建物、いかにも魔王城という雰囲気を醸し出している。
「あの…ここはどこですか?」
「?見ての通り魔王城だよ」
やっぱり、今から俺は魔王と戦うらしい。
「今回はSランク冒険者相当の力を授けよう、欲しい能力があれば言うといい、近接も魔法も好きなのを与えよう」
「え、本当ですか!!勝確じゃないですか!!」
「…………、そうだね、ほらどんな力が欲しい?」
なんだ今の間は、死んでも蘇らせればいいとか最悪私が倒せばいいとでもおもっているのだろう、慎重に能力の選択をしないとまた死ぬことになる予感がする。蘇生されるからいいという話ではない痛いものは痛いのだ。スライムに体当たりされたときの衝撃を今でも忘れられない、魔王の攻撃なんて想像を絶する痛みなのだろう。
近接戦闘はいけない気がする、ならば遠距離攻撃という選択肢になるが普通の魔法で勝てる気がしない。これまでのオタク知識を総動員して適切な能力を探す、答えをくれたのは知識ではなく師匠がプレゼントしてくれた体験。
「この間の…腕を銃にする力をください!!」
「ほう、あれかいいだろう、ついでに基礎的な魔法や剣術も使えるようにしておいた」
前回とは比にならないほど力が溢れてくる、今ならあのスライムたちも瞬殺だろう。
「では行こう」
師匠は岩でできた長い橋に向かって歩いていくので俺は黙ってついていく。橋には見張りをしているであろう大量の魔物がいる。ゴーレムやガーゴイル、オークなど見るからに強い魔物たち、それが師匠に気付き臨戦態勢に入る。俺は慌てて魔法を使おうとするが師匠が止める。
「ここは私がやろう」
そう言った途端に魔物たちが気絶したように倒れていく。空を飛んでいたガーゴイルは橋の下に落下しゴーレムはバラバラに崩れた。
「あいつら全部死んだんですか…?」
「当たり前だ、私に敵意を向けた罰を受けるべきだろう」
「あっ、そうですか」
深く追及するだけ無駄だ。
「ここからは君の出番だ」
「わ、わかりました」
大きな門を開け室内に侵入すると人に近い姿のオークが空中で座禅を組んでいた。
「侵入者か、見張りは大量に配置しておいたはずだが…」
「まぁよい、愚かな人間よ我は魔王軍四天王、辺獄のカース、かかってくるといい」
佇まいに話し方、頭からつま先まで強者のオーラが漂っている、果たして俺で勝てるのだろうか。力を手に入れたのに足が竦む。
「くそ…!やってやる!」
両腕を銃にし撃てと念じる。
――ドガン――
魔王城が跡形もなく消し飛んだ。
「はぇ~?」
「師匠これは…?」
師匠の方を向くと彼女は初めて俺から目を逸らしてから口を開く。
「すまない…出力を間違えたようだ…」
初めて見る申し訳なさそうな態度、この人も一応人間ということが確認でき少し嬉しい。
「魔王軍というのも大したことがないな!!」
あ、開き直った。
「はぁ…やりなすとしよう」
指をパチンとならすとさっきまでの光景が帰ってくる。大きな門をもう一度開け部屋に入る。
「愚かな人間よ我は魔王軍四天王、辺獄のカース、かかってくるといい」
それはさっき聞きました。気を取り直して四天王との戦闘を開始する。
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