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第七話 冒険者らしく剣を振れ

「よし出発だ」




 お決まりの瞬間移動で異世界に移動する。誰もスマホを持っていない、服ではなく鎧を着ている人もいる典型的な異世界に飛んできてしまった。女神さまの話だと世界の滅亡が近いらしいがそんなことを感じさせないくらい街には活気が溢れている。




 「まず言っておくが今回の目的はこの世界を救うことではない、君の作品をより良いものにすることだ」


 「そんな片手間みたいな…」


 「実際道草みたいなものだよ、なにより大事なのはここで体験するすべてを作品に活かすこと」




 簡単に異世界転移したものだから軽い気持ちでいたがこれは修業の一環、作家として上にいくため気合を入れて臨まなくては。




 「さて、質問だ、異世界と言えばなんだい?」


 「え…モンスターとか冒険者協会とかですかね…」


 「九重君はそう思うんだね、ではいこう」


 「ちょっ…説明を…」




 次は人のいない綺麗な草原に移動する、辺りを見回すとスライムにゴブリンなどアニメでよく見るモンスターがうじゃうじゃとそこら中を歩いている。




 「そこのスライム三体を倒してみたまえ」


 「いや、無理に決まってるでしょ!一般人なんですよ俺!」


 「しかもいきなり討伐クエストとか…最初は薬草集めから始めるのがお約束でしょ!」




 あーだこーだ言っているが自分でも分かっている、俺が何を言おうがこの人が聞く耳を持つはずがないと。




 「黙れ、私がやれと言ったらやるしかないんだよ」


 「最低限の戦い方は教えてやろう」


 「本当ですか!?早く教えてください」


 「ほれ、これを持ってみろ」




 いかにも初期装備のような剣を渡されたので大人しく握ってみる。




 「…?あっ…」




 どのような仕組みなのかは分からないが体の動かし方、剣の振り方、この世界で生き抜くために必要な知識がまるでもとから知っていたかのように体に馴染む。運動不足のはずの体もなんだか軽い。




 「なにをしたんですか…?」


 「Eランク冒険者相当の技能を君に授けただけだよ」


 「万が一死ぬことがあっても何度でも蘇生できるからね恐れず戦うといい」




 相変わらず無茶苦茶なことをしている気もするがもっとすごいことを見てきているのでいまさらあまり驚かない。それに自分の体が別人のようで力が漲ってくる、今ならスライム三体くらい余裕で倒せそうだ。




 「くらえ!雑魚スライムごときが!」




 思い切り剣を振り下ろす、会心の一撃が決まったと思っていたが手ごたえはない。ぴょんぴょんと素早く動き回るスライムを捉えることが出来ていなかった。




 「この…くそ…」




 なんど繰り返してもかすりさえしない、おかしい相手は序盤で出会う経験値稼ぎの専用の雑魚敵、一方俺は引きこもりじゃない体や知識を手に入れたはず、なのに全く攻撃が当たらない。




 「落ち着け…俺のほうが頭はいいはずだ…」




 大きく深呼吸をして思考を切り替える。大振りの一撃で葬り去るのではなく素早い攻撃を数回当てて徐々に倒すんだ。しっかりと目で追いかけて移動した先に攻撃を置いておくイメージで軽く剣を振る。




 「ここだ!」




 ――グシャ――




 スライムに攻撃が当たり真っ二つになったスライムの死体が転がる。血こそ出ていないが意外とグロテスクな光景に少し驚く。俺以上に残された二匹のスライムのほうが驚いたようでプルプル震えている。動きが止まったこのチャンスを逃がすまいと今度は大振りでスライムを狙う。




 ――カキン――




 「なっ…!」




 さっきは軽めの一撃で一刀両断できたはずが力を目一杯こめた今回の一撃が何故か弾かれた。スライムを見ると水色から憎悪に満ちた黒に変色している。




 「仲間が殺された怒りでパワーアップしたのか!?」




 これまでは攻撃を避けてしかいなかったスライムが攻勢に転じて体当たりをしてくる。




 ――ドン――




 「うぎゃ!!!!」




 剣を弾く強度を持ったスライムの敵意丸出しの攻撃は大型トラックとでも衝突したのかと錯覚するほどの威力、当たった瞬間に俺は死を悟る。




 「(俺の冒険始まって10分くらいしか経ってないんだけどな…)」




 なんとも情けない遺言を残しそのまま意識が飛び俺は死んだ。


 と思ったら意識が回復した、空が透き通っている。どうやら蘇生されたみたいだ、申し訳なさそうに師匠を見上げると呆れて顔をしているのがよく見える。




 「スライム相手にこのざまか…」


 「いや、なんか強くないですかあのスライム!」


 「うむ、戦争が続いているこの地に適応するために進化を遂げたのだろう」


 「最初にちょこまかとしていたのはアレだ、要は舐めプだな」


 「俺、スライムに舐められてたの…」




 この感じで世界に平和をもたらすことなんてできるのだろうか、スライム相手に負ける話なんて小説でも使えそうもないな。




 「Eランクでは相手にならないな、Dランクの力を渡すからもう一度戦ってみろ」


 「わかりました…」




 一度殺されているので恐怖がないわけではない、しかし俺はすでに殺される経験をしている、それもちょっと強いスライムなんて比較にならないほど恐ろしい存在に。そう思うと敗北を喫したというのに俺の方が強いと思えてきてしまった。




 「うおりゃ!」




 EからDにランクアップした影響なのか攻撃のスピード、威力ともに上がった一撃にスライムは反応すら許されずに死んでいった。その勢いのままラスト一匹も倒し記念すべき異世界での初陣をギリギリ白星で飾ることが出来た。




 「その勢いのままあそこのゴブリン二匹を殺してこい」


 「言い方!!!」




 片方のゴブリンは素手だがもう片方のゴブリンは倒した冒険者から奪ったのか剣と楯を装備している。スライムよりも手ごわそうだ、今回は死にたくないので腰が引ける。




 「見ろ、攻撃と防御を分業にすればいいものを片方は素手だ、みっともないな知能が足りていない」




 それはゴブリンなんだからバカなのは定番だろう、それよりなんでこの人はこんなに性格が悪いんだ?この世界の四人目の魔王がこの人なのではないか?




 「今失礼なことを考えていたな?」


 「そ、それは…」


 「うおりゃー!くらえー!」




 その場で会話を続けていたら間違いなく死んでいた、ゴブリンより師匠の方が怖い。


 素手のゴブリンをサクッと倒し武器持ちの方に攻撃を仕掛ける、剣と楯の使い方を理解していないのか剣を防御に使っていたので難なく倒すことに成功した。




 「うむ、この程度の相手ならそれくらいしてもらわないとな」


 「簡単にいいますね…」


 「そうだ、さっきの無礼の罰がまだだったな」


 「あ…」




 ――ゴキ――




 お決まりの首が謎の曲がり方で本日二度目の死をプレゼントしていただいた、師匠はなんて素晴らしいお方なのだろう。




 九重龍通算死亡回数三回



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