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第15話 方向転換

「いじめられる弟子というのは見るに堪えないからね」


 投げ捨てられ土に塗れた俺を見下しながら思ってもないことをスラスラと吐き捨てる。


 「けどクラスメイトを倒す理由がなくなっちゃいますよ」

 「問題ない、彼らは魔王の邪悪な思想に支配され嫌な奴になるからね、一週間後に再開するがその時はみーんな嫌な奴になっているよ」


 どこかに向かって歩きながら今後の話を一方的に続けられそれを一生懸命においかける、まさに奴隷のようだ。


 「そうですか…ていうか今登場したってことは師匠が勇者なんですか?」

 「もちろん」

 「ただ少し迷ってもいる」

 「どういうことですか…?」


 珍しく神妙な面持ちで語るお姉さんを見ているとこちらも緊張感を感じずにはいられない、普段はニヤニヤと軽口を叩き人を見下しているものだから新鮮でもある。


 「物語的には今から主人公が強くなる過程を描くものだが、君はそれをすでに体感しているだろ?つまりその過程は飛ばしてもいいのではないかと思ってしまったんだよ」


 実際その通り、設定上の勇者は師匠をモデルにしているので基本性能は師匠そのままだ。この間の異世界転移のときに力を借りた経験もあるのでこの工程はスキップしてもいいのかもしれない。ただそれでは現実感溢れる描写ができない気もするし、なにより主人公が壁にぶつからずに都合よく強くなってしまう。設定を少し変え性格だけを師匠に寄せ、能力はスケールダウンすることも視野に入れる必要がありそうだ、今からこの世界を変えることなんか彼女からしたら赤子の手をひねるくらい簡単なものだろうが頭を悩ませ作ったプロットをすぐに変更してもいいものか判断を下すことはできなかった。


 「あの少し考える時間貰ってもいいですか?」

 「いいだろう」


 久しぶりの自宅に帰ってベッドに飛び込む敷布団すらない環境で三日も生活したのだ考え事をする間もなく心地よさに負け瞼が閉じていきそのまま寝落ちしてしまう。結局8時間の睡眠を取り今度こそ作品のことを考える。しかしいくら考えても正解が分からない、気分転換のために陽太に電話をかける。考えを聞いて参考にするわけではなくただただ会話をしたいだけだ。ワンコールで出てくれたが声の主は陽太ではなかった。


 「どないした龍」

 「Myuiさん…?陽太は?」

 「床で死んどるわ」

 「一応聞いておくと何故です?」

 「ラフを描かせて下手くそだから総没にしてやってんねん、そしたら倒れとんねんギャハハハ!!!」


 この人は師匠と同じ人種だ、人の心をどこかに落としてしまっているタイプ。この間顔を会わせたくらいの接点しかなく性格も残虐極まりないので会話を切り上げたい気持ちもあるのだが一応陽太の様子について尋ねておく。


 「陽太は上手くなってますか…?」

 「ぼちぼち成長しとるわ、まだまだ下手くそやがな!」


 陽太は成長しているが俺はここ最近あまり進歩がない、気分転換など甘えたことを言う前に前に進まなくてはいけない。


 「そうですか、陽太が起きたら折り返すよう伝えてもらってもいいですか?」

 「ええで」

 「じゃあこれで失礼します」

 「まて龍!」

 「なんですか?」

 「新山はメチャクチャ自己中やから気をつけえや」

 「それって…」


 どういう意味ですかと聞こうとしたときには既に通話は切られていた。分からないことを深く考えているわけにもいかない、それによく考えなくてもあの人は自己中心的な人間なのは分かりきっている。きっと私より自己中だから気をつけろということなのだろう。とにかく手を動かさなければいけないと思い机に向き合うが、やる気だけではなにかを成し遂げることはできない、そう言い聞かせ今度は頭も使いながら手を動かす。


 「んー、勇者に拾われるまではいいんだけどそのあとの展開が迷うな…」


 主人公が力を手に入れるのに十分な理由が思いつかない、勇者が師匠並みのチート野郎だとすると主人公の出る幕があまりにも少ない、なんなら全くないだろう。普通の勇者だとスキル奴隷の主人公を成長させれる気がしない、なんで奴隷なんだ…?勝手に決めたなあの人…


 「なんかムカついてきたな」


 俺の作品の中でなら師匠をぶっ飛ばすこともできるのではないか?けど勇者を倒す必要はない…なら勇者を敵にし魔王を倒した後の最後の裏ボスということにしてしまう。序盤でクラスメイトたちに殺されたふりをし能力を主人公に託し姿を消す、その後唯一対等に戦える主人公と最後のバトルを望む戦闘狂のイメージだ。最初から主人公に力を渡して戦えばいいのではないか、死んだフリをして姿を消す必要はないという疑問点がある。それらは勇者は根っからの極悪人で人の絶望した顔が見ることが大好きな設定で主人公が勇者と対面したときの悲しみを楽しみにこれまで生きていたというこにすればいい。


 「だいぶ話が変わった気がするけど一番の問題は…」


 師匠が作品の中であったとしても俺という主人公に負けることを許してくれるかだ。ただ作品を書くだけではなくその作中世界に飛び込んで作り上げる性質上師匠は確実に負ける運命なのだが果たして許可は下りるのだろうか、プライドの塊であろうあの人のことだきっと許してくれないだろう。


 「許可しよう」


 音もなく俺の部屋に現れた師匠に驚き椅子から倒れ落ちる俺をクスクスと嘲笑う、世話になっている人を創作物の中とはいえ殺すのはどうかと一瞬でも考えた俺がバカだった、これで心置きなく殺せるというものだ。


 「一つ条件を付け加えよう」

 「なんですか…」


 きっととんでもなく厳しい条件が提示されるはず、体が微かに震えるのが分かった。


 「その話で受賞を逃したらキツイ罰を与える」

 「え?それってどういうことですか…?」

 「当たり前だろ?この私が九重君の作品のなかとはいえ敗北してあげるのだからそれで受賞できませんでしたなんてことを言わせるわけがないだろう?」


 既に死を数回経験しているのにそれ以上に厳しい罰というのは一体どんなことなのだろう。脳みそを改造され感情のない奴隷にされるのだろうか、少し考えただけではとても想像がつかない。それでもやる以外の選択肢は存在しない、この話を完璧に仕上げれば俺もアニメ化作家の仲間入りを果たせるはずだ。


 「そしてこれはアドバイスだが、私をモデルにするのはいいが弱体化をしたほうがいい」

 「はい…?それじゃ意味ないような…」

 「私をそのまま登場させるのはよくないということだ」

 「私は文字通り何でもできる、全人類を今殺すことも地球を爆破することもできる、それこそ攻撃も当たらずもし死に至ったとしても自己蘇生も制限なしに出来る」


 まさに怪物、いや言葉で形容することは不可能な生命体だ。


 「ずるでしょ…」

 「その通りだから程よく弱らせる必要がある」

 「つまり君じゃ私に勝つことは不可能ということだ!」


 これ作中で死ぬのかなり根に持ってるな…

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