第8話 馬車の中で
「まぁ……ではタイガ様はこの大陸より東の島国からいらしたのですね!」
何処から来たかなどと聞かれて素直に答えた結果がこれである。
大抵の場合、東の島国のニホンと言う国から来ましたと答えるのが定番だろう。
だがこんなことならノックスに語ったように言葉を濁しておけば良かったと後悔してしまう。
クナイト領があるゲルニーク王国は中央大陸の南東にあるモナート大陸の東側に位置するらしく、そこよりも東に国があると言うノヴァの言にアンリエッタは興味を惹かれたようだ。図らずもこの世界での無知をさらけ出した俺は思わず頭を抱えた。
「ええ、なので旅をしていると言ってもまだ始めたばかりで地方の情勢などに疎くて……」
「あら、でも使い魔がいるからと言って一人旅ができるなんて腕が立つのですね? 世界はクロスヴァイツ帝國の崩壊で国家の興亡が激しく治安も悪い時代に入りましたのに……」
「(クロスヴァイツ帝國か……ヘルプくんも言ってたな)やっぱり治安も悪い感じですか?」
「そうですわね……盗賊の跋扈や異種族との確執が表面化して問題は山積しておりますわ」
それで先程の襲撃だったのだろう。
先程は豹族の襲撃だったが、別の獣人とも敵対しているのだろうか?
「あの豹のような獣人とも敵対しているんですか?」
「ええ、ですが種族が違うからと言って対立する……殺し合うなんて間違っています! 私はこの問題を何とかしたいと考えております」
「(何とかね……どれだけ根深い問題なんだか)何とかって具体的にどうするのでしょう?」
「……とにかく話し合いで友誼を結べないかと考えているのですが……私には力がありません……」
「そもそも何故対立しているんです?」
「それは……彼らは長い間、クロスヴァイツ帝國の奴隷政策によって人間に服従を強いられてきました。帝國が崩壊し今まで抑圧されてきた奴隷や獣人たちが立ち上がったのです。現在このモナート大陸のみならずニーストリア大陸……中央大陸でも群雄が割拠し、争いが絶えないと聞きます」
「(群雄割拠の戦乱の時代か……それなら奴隷の俺でも何とかなる……か?)」
下を向いて考え込む姿に何かを感じたのかアンリエッタが重々しい口を開く。
「都合の良い絵空事だとは分かっております。しかしこのまま殺し合いを続けるなんて……悲し過ぎます」
そう言って黙り込んでしまったアンリエッタの膝の上にさくらが飛び乗る。
そして彼女の手の甲をぺろぺろと舐めた。
「ふふ……うちのさくらも貴方のそんな顔なんて見たくないようですよ? もふもふしてやってください」
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。
「ふふふ……」
「ほら笑顔の方がお似合いですよ。さくらもそう言ってます」
「わふっ!」
ちなみにこの場にヘルプくんはいない。
ヘルプくんには消えてもらっている。
空気が読めない、いや読む気がないのでこの場の雰囲気をぶち壊しかねないからだ。
その後も色々なことを話した。
クロスヴァイツ帝國にはまだ皇帝が君臨しているようだが、各地の諸侯たちが独立したり反抗したりと全く言うことを聞かないらしい。
中には皇家を敬う奇特な諸侯もいるにはいるようなのだが、その存在は稀であるそうだ。
通貨は変わっていないと言う。
そりゃそうだ。崩壊したからと言っていきなり世界中で流通しているクロス通貨に代わるものが出て来る訳がない。これから悪貨が出て来る可能性は高いだろうが。
ちなみにクロス金貨1枚はクロス銀貨10枚になりクロス銀貨1枚はクロス銅貨10枚、クロス銅貨1枚はクロス鉄貨10枚らしい。
アンリエッタは銅貨や鉄貨を見たことがないらしいのでどれだけだよと思わず心の中で突っ込んだのは秘密である。
ゲルニーク王国のあるモナート大陸についても聞いた。
王国の西にあるのがナルシス王国、更に西にあるのがリーマス自由諸侯連合、南にあるのがミルネウス王国である。
これらの国々もクロスヴァイツ帝國の崩壊と共に独立したそうだ。
ちなみに大陸南西部は匪賊や馬賊が跋扈する戦乱地帯だと言う。
取り敢えず、これからどうするかが問題だ。
首輪を外す方法については何とかなるような気がする。
このままクナイト伯爵邸にて歓迎される流れは変えられないだろう。
その後どうするかだが、俺はどこかに国家を建設するのも悪くないと考えていた。
群雄割拠時代に突入したこの時代、新興勢力が大陸の覇権を握るのも面白い。
【創造】の能力があればそれも可能な気がした。
だがそのためには……。
「タイガ様? どうなされました?」
黙ってしまった俺のことを不審に思ったのか、アンリエッタが心配な様子で聞いてくる。その表情はとても演技をしているようには見えない。
やっぱりこの人は人間として大事なものを持っているのだろう。
「いえ、少し考え事を……」
俺はたはは……と笑いながら頭を掻いた。
「ふふふ……変なタイガ様……」
俺にはその笑顔があまりにも屈託ない無垢なものに感じられた。
「そう言えば、さっき獣人との対立を無くしたいとおっしゃっていましたよね。思ったんですが国を作ってそこに人間と獣人を引き入れて相互理解を深められたらと。これって無謀な考えですかね?」
「難しいでしょうが、上に立つ者次第だと思います。ふふ……でもその前に国を作るのが大変ですね」
「そうですよね。簡単になれれば苦労はしませんよね……」
やはり領主や王になるには称号のクリスタルが必要かも知れない。
そんなことを考えているとアンリエッタが何か思いついたように明るい表情になった。
「そうですわ! リーマス自由諸侯連合の近くになら国を作って連合に加盟することは可能かも知れませんわ」
「なるほど……それなら希望はありますね!(まずは都市国家を作ることなら【創造】の能力でできるだろう。それならできるかも!)」
だが、正直言ってそれでもかなり無謀な話だ。
国を作ってもそこに住む人がいなければ何の意味もない。
如何に人間や獣人を引っ張って来れるかが問題である。
取り敢えず、アンリエッタの言った案か、誰かに仕えてまずは出世して領主になる案くらいだろうか。
とにかく俺には【創造】と言う大きな武器がある。
それを生かして何とか生き延びていく。
俺はそう固く心に誓ったのであった。
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