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第7話 領主の娘

  中から出てきたのは黄金色こがねいろに輝くさらさらの長髪が美しい姫であった。

 その美姫の登場に騎士たちが慌てて敬礼をする。

 彼女はそんな彼らを手で制し、凛とした声色で指示を出した。


「よいのです。怪我人の処置をなさい」


 そして俺の方に向き直ると深々とお辞儀をした。

 周囲がざわめく。

 令嬢とは言え、貴族が平民に頭を下げることなど有り得ないのだ。


「貴方のご活躍、見せて頂きました。ご助力感謝の念に堪えません。我が父クナイトに代わりお礼申し上げます」

「い、いえ、偶然ご縁があった。それだけですよ」

「そんな……相手は身体能力に優れた獣人です。数で有利とは言え油断はできません」

「獣人とは敵対しているんですか?」

「ええ……こんなこと、私の望むところではないのですが……」


 何か事情があるようだ。

 麗しの姫君――アンリエッタがやるせない表情をしている。

 困り顔も様になっているので領内ではさぞ人気があることだろう。


「貴方は探究者ハンターなのですか? お名前を伺っても?」

「いえ、しがない旅人ですよ。名前は……あータイガと言います」

「そうでしたか。タイガ様、是非、おもてなしさせてください。父を紹介致しますわ」

「(やべ、名前タイガって言ってしまった……)いえいえいえ! 私のような者が畏れ多い……」


 俺としてもこんなところで領主に目を付けられるのは御免被りたい。

 なにせ奴隷の首輪をしているのだ。

 厄介事になるのは目に見えている。

 二人がしばらく押し問答をしていると、焦れたのだろう俺の隣に浮かんでいたヘルプくんが口を挟んできた。


『いつまでウダウダ言っているのデス。さっさとこいつを連行して美味いもん食わせるのデス!』

「おまっ――」

「まぁ! なんて可愛らしい使い魔でしょう! うふふふふ……」


 そう喰い気味に言うとアンリエッタはヘルプくんの顔を撫で始める。

 いや、撫でると言うよりこねくり回している感じがする。

 心なしか目が笑っていないような気がするが気のせいだろう。


『あだだだだ。止めるのデス……はぅ! や……め……』


 その口から泡を吹き始めるヘルプくん。

 辛うじてアンリエッタの腕をタップしている。

 意識は既に途切れ途切れのようだ。


「アンリエッタさん、ギブギブ! そんなのはほっといてこっちホラさくらおいで!」

「わふっ!」


 律儀にも俺の足下でお座りをしていたさくらがアンリエッタの周りをくるくると回り始めた。


「こちらはなんて愛くるしいのかしら。こちらも使い魔なのですか?」


 アンリエッタもこのもふもふには勝てなかったようだ。

 さくらをもっふもふにしている。


「まぁそんな感じです。と言うより家族のような存在ですよ。さくらと言います」

「ではこちらの方は……?」


 アンリエッタがヘルプくんを汚物を見るような目で見る。


「こいつのことは気にしないでください……」


 どこか遠い目でそう言うと流石に何か察したのかアンリエッタはそれ以上突っ込んでは聞いてこなかった。

 二人と二匹(?)がキャッキャウフフと戯れていると事後処理を終えた騎士団の一人がアンリエッタに告げた。

 報告に来たのは副団長のノックスだ。


「姫殿下! 怪我人に応急処置を施し荷馬車に乗せました。戦死者は1名。遺体の収容も終わりました」

「戦死!? 誰なのですか!?」


 アンリエッタの顔が悲痛なものに変わる。

 先程の戦いで戦死者が出ていたとは夢にも思わなかったのだろう。

 それは俺も同じことだが。


「オルナスです」

「オルナスが!? なんてこと……」


 アンリエッタはそう言うが速いかすぐに荷馬車の方へ向かう。

 そしてまるで眠っているかのようなオルナスの遺体に祈りを捧げ始めた。

 その閉じられた双眸からは光る一筋の涙が零れ落ちている。


 俺も茫然とその様子を眺めていたが、ノックスが不意に口を開いた。

 知らぬ間に隣に来ていたようだ。


「姫殿下はどんな者に対しても気軽に接してくださいます。騎士団の一団員であっても名前さえも憶えていてくださるのです」


 貴族令嬢なんてものは居丈高で気位が高い人種だと思っていたが、どうやら彼女は違ったようだ。

 祈りを捧げ終えたアンリエッタはすっくと立ち上がる。

 そのまなこにはもう涙は残っていなかった。

 強い女性のようだ。


「姫殿下、まもなく領都です。急ぎましょう」

「ええ、お願いしますわ」

「では私はこれで」


 急ぐようなので俺はぺこりと頭を下げると彼らから離れようとする。

 すると慌てたのはアンリエッタだ。


「そんな! 助けて頂いたのにお礼もしないと言うのはクナイト家の名折れですわ。私の馬車に乗って同道くださいませ!」


 貴族令嬢にここまで言わせて断るのも男が廃るような気がする。

 しかし領主に奴隷の首輪を見られるのは避けたいところではあった。


「この小憎たらしいのが一緒でも大丈夫でしょうか?」

「さくらちゃんなら大歓迎ですわ! それに旅のことも伺いたいですし」


 ヘルプくんの存在は華麗にスルーされたようだ。

 どんよりと曇った顔でやさぐれている。


 結局、アンリエッタの乗る馬車に押し込まれ領都クヌートまで行くことになるのであった。

お読み頂きありがとうございます!

今後も頑張って参りますのでブックマークや評価★5をよろしくお願いします。

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モチベーションも上がりますので是非!

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