第6話 トラブルの予感
澄んだ音が聞こえる。
それも複数。
さながら剣をぶつけ合っているような、争っているような音である。
胸騒ぎを覚えて歩く足を速める。
先を行っているはずのクナイト伯爵の騎士団がそこにはいるはずだからだ。歩みは早足となり、次第と小走りになる。そして俺はいつの間にか全力で走っていた。
そこで見たもの。
それは馬車を襲っている獣のような集団とそれを護る騎士団の面々であった。
(あれは魔物……!? いや獣人か?)
獣人と言っても完全に獣の顔つきをしている訳ではなく、人間をベースにところどころもふもふがある感じの風体をしている。
『あれは獣人なのデス。そう……豹族デス』
図らずも俺の予想は当たっていたようでヘルプくんが肯定する。
馬車の周囲で剣を交えているが、奇襲されたのか人間側が劣勢のようだ。
倒れ伏している者がチラホラと見受けられる。
そんな中、必死に立ち回っているのはノックスだ。
俺の中で二つの相反した感情が渦巻いていた。
一つは騎士団を助けなきゃと言う使命感。
そしてもう一つは戦うなどとんでもない。殺すのも殺されるのも御免だと言う恐れであった。
(くそッこれはどっちが正しい!? 人間を助けるのが普通なのか!?)
逡巡している隙に小さな影が動く。
愛犬のさくらだ。
一気に街道にいる人々を抜き去って襲われている馬車に駆けつけると、ノックスに斬りかからんとしていた獣人に飛び掛かる。
(ふッ……そうか……そうだよな。ここは人助けだッ!)
厳密に言えば獣人も人なのだが、そのことに気付けぬまま俺もさくらの後を追いかける。その顔は吹っ切れたような顔をしていた。
(剣の才がBランクなんだ。何とかなるか? いや何とかしてみせる!)
更に加速する。
こんなに全力で走ったのはいつぶりだと思いつつも、随分とよく体が動く。
ひとえにこの”ブレイド”と言う青年の運動神経の良さなのだろう。
俺は佩いていたルーンゴヴァを抜剣すると、戸惑いながらもさくらに攻撃しようとしていた獣人に大上段から斬りつける。その鋭い一撃に獣人から思わず声が漏れた。
「うおッ」
剣撃は寸でのところで止められたが、体重を掛けて一気に押し込む。
狙うのは武器だ。表世界に来て既に数人を殺しているとは言え、まだ人間を殺すと言うことに慣れていない。と言うか慣れたくないと思っている。
どうやら剣の才Bは伊達ではないようで、体がまるで剣を長年使いこなしているかのように動く。そしてあれよあれよと言う内に獣人の剣を刎ね飛ばした。剣は大きく放物線を描いて大地に突き刺さる。
すぐさま尻もちをついた獣人に剣先を突きつけると、そいつは悔しそうな表情を見せる。
「死にたくなければ大人しくしていろッ!」
そう言い捨てて、次の目標へと視線を移す。
すぐ隣では若い獣人が騎士二人を相手に翻弄していた。
人間にすれば十代と言ったところか。
額に十文字の傷があるのが特徴的だ。
その動きは俊敏で騎士たちを圧倒していた。
獣人は人間に比べて身体能力面で秀でているのだ。
俺はすぐさまその戦いに乱入すると剣を横薙ぎに払った。
突然の闖入者の存在をものともせず、その獣人は簡単にその攻撃をひらりとかわす。
「おい、人間。オレァこいつらに用事があるんだ。関係ないのはすっこんでろ!」
「悪いな。俺も少しばかり縁ができちまったからな。そう言う訳にもいかないんだ」
その獣人はニヤリと笑みを浮かべると一直線に駆けてくる。
――速い
剣と剣が火花を散らし、剣による殴り合いが始まった。
速い剣撃ではあるが、対応できないほどではない。
剣の才Bでも何とかなる程度だがその実力は伯仲していた。
「チッ……テメェは強ぇなぁ」
「お前もなッ!」
さくらはさくらで戦闘力などないと思っていたのだが、口から熱線のようなものを吐いて周囲を薙ぎ払っている。ゴ○ラみたいに。
「うちのわんこが強すぎる件……」
思わぬ助っ人たちの登場に騎士団の士気は否応なく上がった。
さらに彼らの口からは雄叫びが上がる。
「貴様らッ! ここが踏ん張りどころだぞッ!」
ノックスの大喝の影響だ。
『うおおおおおお!!』
形勢は逆転した。
当初、圧倒的に押していた獣人たちにその勢いは見る影もない。
奇襲は時間との勝負でもある。
体勢を立て直されたらお終いなのだ。
かくして獣人たちは散り散りに離散した。
後に残るは死体か怪我をして動けない者だけだ。
さくらは倒れている獣人の傍でフンフンと鼻を鳴らした後、俺の方に駆け寄りお座りをする。その尻尾は千切れんばかりに振られていた。
「よーしよし。良い娘でちゅねー。で、いつから火を吹けるようになったの?」
「わふ!」
もちろん会話になるはずもなく。
もしかしたら謎の翻訳機能によって、俺の言葉を理解しているのかも知れないが。
さくらを問い詰めていると後方から声を掛けられる。
声の主はノックスであった。
「すまない。ご助力感謝する。このままではアンリエッタ様を護りきれないところだった」
「アンリエッタ様……?」
「ああ、クナイト伯爵のご令嬢であらせられる」
馬車に乗っていたのは伯爵本人ではなく、その令嬢だったようだ。
ノックスの指示で騎士たちの被害状況が確認されていく。
そんな中、固く閉ざされていた馬車の扉が開いた。
中から出てきたのは黄金色に輝くさらさらの長髪が美しい貴族のご令嬢であった。
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