第5話 表世界
あれから何度もボディにいいのをもらいながらもノヴァはヘルプくんを黙らせた。
とは言え、この表世界のことを聞き出さねばならない。
いつまでも機嫌を損ねておく訳にもいかないので、ヘルプくんの好物であるらしきカレーを創造して飲ませてやった。買収したとも言う。
「で、この世界のことを聞きたい訳だが」
『仕方ないのデス。カレーの前には誰も抗えないのデス』
ヘルプくんは口の周りに付いていたカレーを手で拭いつつ神妙な顔付きになる。
『この世界は以前までクロスヴァイツ帝國と言う超巨大国家が支配していたのデス。存在する五大陸を全て制覇したのは帝國が初めてだったのデス。そして繁栄はいつまでも続くかと思われた……のデス。が……熟しすぎた果実が腐って落ちてしまうようにクロスヴァイツ帝國もまた崩壊してしまったのデス』
「そういや表世界の理が崩壊したとか言ってたな。それのことか?」
『お前たちのいた裏世界と表世界は表裏一体なのデス。お前たちは運が良いのデス。これから裏世界にも何か大変なことが起こるはずなのデス……って裏世界のことなどどうでもいいのデス!』
「最近のヘルプはノリツッコミまでするんだな」
『その顎をかち割ってやろうかなのデス』
まったく一見可愛らしい姿をしたこのヘルプくんは口が悪すぎる。
何か不穏なことを言っているのだが一切気にせず、この表世界のことを尋ねた。
『クロスヴァイツ帝國の通貨はクロス。世界制覇した際に通貨や言語も統一されたのデス。言語は訛りがあるデスが、お前ら異世界人でもちゃんと通じるのデス。』
「そうなのか。すごい国だったんだな。じゃあ今の世界にはどんな国があるんだ?」
『今は国家の興亡が激しいのデス。全部を説明するのは面倒くさいのでヤなのデス』
やさぐれたおっさんのようなことを言いつつ、チッと舌打ちまでするヘルプくんに俺は底冷えするかのような声色で言う。
「どうやら死にたいらしいな」
『ちょっやめるのデス! 口が滑ったのデス! ついなのデス! うっかりなのデス!』
ヘルプくんの首に伸ばしかけていた手を降ろすと、安心したかのようにホッとする。
仕方がないので許してやるが、確かに一度に聞いても覚えられるか分からない。
取り敢えず基本的なこの世の理から聞いてみることにした。
例えば人間に限らず魔物(やはり魔物はいた!)などは死ぬとクリスタルに変化するらしい。クリスタルは何種類か存在し、虹色、金色、銀色、赤色、緑色、紫色、青色、黄色などの色がついていると言う。
これはあの白い空間で選ばされたクリスタルの色とリンクしているようだ。
(そういや、最初の方に選んでた……と言うか奪い合ってた人たちは同じ色のカードを争奪している奴もいたな。今頃どうしてんだろなぁ……)
その点、俺を始め暴動を止めた者たちは奴らより良いカードを引くことができたのだ。中には【創造】のようなレア能力を得た者もいることだろう。
(俺はヘルプくんがいるからいいけど、他の人たちは難儀してるだろうな)
クリスタルの色の意味だが、緑色は称号を、紫色は才能を、赤色は身分を、青色は能力を、黄色は装備や素材を引き継ぐことができる。
他にも金銀銅のクリスタルもあり、金は全部、銀は4つ、銅は3つの項目を引き継げると言うことだ。
「んー気になったんだけど身分を引き継いだらどうなるんだ? 例えば貴族なんかだとどうなんだ? いきなり貴族になるなんてことはないよな?」
『そこら辺は世界の強制力が働くのデス。貴族になれてしまうようなラッキーイベントが発生するのでそれをクリアすればいいのデース』
いきなり身分が変わることはないようである。
流石にそんなに理不尽なことは魔法の世界とは言えできないのだろう。
「後は……そうだ。称号とか?」
俺は自分のステータスを見ながらヘルプくんに尋ねた。
『称号はこの世界における異名のようなものなのデス。例えばドラゴンスレイヤーとかがありますデス。称号によってバフ、デバフが掛かるなどの恩恵や呪いがあるのデス』
(ふうん……一応意味があるんだな。ってドラゴンもこの世界にいるのか……)
俺は自分と同じく緑色のクリスタルを選んだ者たちのことを思い出していた。
冷静だった者はまだ良い。
しかしあの場には千人以上の人間がいたように思う。
となれば当然分かり合えない人間もいる訳で、どこで再会して敵対するか分からないことに戦慄する。
(いや、冷静だった人だって大きな力を手にすれば変わる場合だってある。気を付けるにこしたことはない。俺と同じように現地人と成り代わった人はともかく転移して元の世界の名前を名乗る者には注意しないとな……)
俺は後ろで何やらわちゃわちゃ言っているヘルプくんを華麗にスルーしながら異世界での今後に思いを馳せるのであった。
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