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第2話 奇跡

「ワフッ!」


 あおむけに倒れていた俺の頬をぺろぺろと舐める存在がいた。

 鼻腔をくすぐるその香り。そのどこか懐かしくも感じる匂いに目を開くと、そこには俺が飼っていた愛犬のさくらがちょこんとお座りをしていた。


「あれ……? さくらがなんでここに……。あー夢かーこれは夢か……」


 そんな現実逃避を始めた頃、どっぷりと分泌されていた脳内麻薬が切れ始める。そう。戦闘中に負った怪我の痛みがようやく襲ってきたのだ。


(夢じゃない……。や、やばい……。目が霞んできた……)


 今も脇腹や手からの出血が止まらない。

 体も段々と重くなってきており、動かすのも億劫になってきていた。

 俺は倒れ込んだまま、そんな霞んだ目で前方に目をやる。

 そこには、今までなかったものがあった。


 ”それ”は地面から数㎝の所に浮かんでいた。

 黄色の正八面体の物体で、例えるならクリスタルのように透き通った結晶体のようである。まるであの空間で選んだクリスタルそのものであった。

 その輝きにどこか神々しさを感じて、最後の力を振り絞って手を伸ばす。

 何とかそのクリスタルに触れると、頭の中が一気に鮮明になる。

 すると、とある選択肢が頭の中に示された。


 ⇒体力・魔力・心力を回復する

  装備品を継承する


(なんだ。この選択肢は?)


 こんなことは初体験だ。当然だが、俺はとてつもなく混乱した。

 体力・魔力・心力を回復するとはどういうことなのか。

 そんなゲームみたいな話があるのかと疑いつつも、俺には選択肢の余地などなかったのである。こんな訳も分からないところでいきなり死にたくなどない。

 賭けてみるしかない。


 選択 ⇒ 体力・魔力・心力を回復する


 頭の中でその選択をした途端、感覚が一変する。

 頭は鮮明になり、体の痛みやだるさは全て吹き飛んでしまった。

 体に力を入れてみると、しっかりと力を込めることができる。

 起き上がって体中を確認してみると、欠損していた指が元に戻っており、脇腹の傷も完全に回復していた。もしかしたら失った血さえ元の状態に戻ったのではないだろうかと思えるほどの調子の良さである。


 その場でぴょんぴょん飛んだり跳ねたりしてみるが、体に異常はない。

 死ななかった感動に打ち震えていると、愛犬のさくらも嬉しそうに俺の回りをくるくると走り始めた。


「それにしてもさくらもこっちにきちゃったんだな」

「ワフッ!」


 さくらを抱き上げるとそのもふもふに顔を埋める。

 さくらはポメラニアンと言う犬種で、もふもふなのだ。

 そう。もふもふなのだ。


 心に平静が戻ってきたのか、周囲が見えるようになってきた。

 余裕が出てきた証拠である。

 周囲を見渡してみると、そこには月の光を反射して光り輝く青色のクリスタルが二つ、ふよふよと浮かんでいた。


 さっき触ったクリスタルは黄色だった。

 今度は青色である。先程のものとは種類が違うのかも知れない。

 体力・魔力・心力の回復か、装備品の継承だったはずである。

 今度は一体何だろうかと若干、緊張しながら青色のクリスタルにそっと触れてみる。すると、再び選択肢が頭に浮かんできた。


 ⇒体力・魔力・心力を回復する

  能力を継承する


 先程とは選択肢が違っていた。

 今度のクリスタルは能力を継承できるらしい。

 継承の意味がよく解らないが、倒した男の持っていた能力を引き継げると言うことだろうか?


 もしもの時のために、このクリスタルを持って行けないか考える。

 しかし、持ち上げようと試みるも地面から数㎝より上に持ち上げることができなかった。

 移動させることもできない。つまり、このクリスタルはこの場限りのものであり、放っておくと消えるものなのかも知れない。

 ならば取っておくに越したことはないと俺は考えクリスタルに手を触れた。


 選択 ⇒ 能力を継承する


 『能力は【槍術D】です。継承しますか?』


 迷わず頭の中でYESと選択する。


 『【槍術D】を継承しました』


 頭の中に槍術の能力を獲得したと通知が来る。

 槍術と言う位だから槍を上手に扱えるのだろう。

 ランクはDなので、普通より少し下の使い手のレベルなのかも知れない。


 クリスタルはもう一つある。

 こちらも青色のクリスタルだ。こちらも能力の継承なのだろうか。

 クリスタルに触れると先程と同じ選択肢が頭の中に通知された。

 これで青色は能力継承で間違いない。

 確認できたのは青色と黄色のクリスタルだ。これから違う色のクリスタルを見る機会もあるかも知れない。選択は慎重にしなければという思いを強くし、最後のクリスタルも能力を継承するを選択した。


 『【守護防陣D】を継承しました』


 今度はおそらく防御に関する能力だろう。

 今はまだどんな能力か分からない。戦闘になるのは嫌だったが、戦闘になればどういう能力なのかも分かるようになるに違いない。


 しかし、……現在持っている武器が鉄の剣だったので、槍術よりも剣術の能力が欲しかった。

 追手の男たちが持っていた武器は全て消え去ってしまっている。

 死んだら、その者に関するものは全てクリスタルになってしまうのだろう。

 槍をゲットすることも不可能になっているし、この世界は摩訶不思議である。


 これで現在持っている能力は四つになった。

 その四つとは、最初から持っていた【創造】、【情報開示ステータス】、そして今ゲットした【槍術D】、【守護防陣D】である。

 この【創造】と言う能力も今はまだ未知数なのだが、名前からしてきっと良い能力なのだろう。


 少し冷静さを取り戻し始めた俺は、情報開示ステータスの能力を使用した。

 発動すると、目の前にタブレットのようなものが現れた。

 傍から見れば目の前にディスプレイが浮かんでいるように見える。

 ステータスは逃げている途中に少し確認しただけなので、ここらでしっかり確認しておいた方がいいだろう。

 どれどれとステータスに目をやると、自分の名前が表示されて……いない。


(なんだよ。ブレイドって!! 名前違うやんけ! 異世界転移じゃなかったんかい!)


 更に身分、称号、職業、能力、才能、装備などの項目がある。

 ちなみに、ステータスと言っても能力が数値化されている訳ではないようだ。

 いっそ数値化されていた方が分かりやすかったかも知れないと思ったがこればかりはしょうがない。ただレベルの概念がある。表世界ではこれが普通なのだろう。

 ただ、ランクがあるようで、今持っている鉄の剣はランクD、着ている布の服はランクCと表示されていた。


 辺りに不穏な気配は感じられない。

 聞こえてくるのは虫の鳴き声のみで物音一つしない。

 本当なら一刻も早くこの場から離れたいところなのだが、生憎ここら辺に文明の光がない。下手に動くよりもここで一夜を明かした方が良いかも知れない。


 俺は地面にどっかと座り込んで能力の確認を行うことにした。

 自分が何をできるのか理解しておかないと、この右も左も分からない世界で今後、生き抜くことが難しいように思ったからだ。


 これからどう生き残るかが肝心だ。

 異世界転生や転移の小説や漫画のことを思い出す。

 この世界にはそれらに出てくるような魔物がいるかも知れない。

 どんな世界かも分からないのだ。最悪の想定をして動かねばならない。

 しかも身分は逃亡奴隷である。お金もなければ食糧もない。

 一刻も早く能力の確認をすべきだと思ったのは、もしかしたら【創造】の能力でそれらを創り出せる可能性があると思ったからだ。


 龍虎は、早速、【創造】の能力を発動した。

 すると情報開示ステータスの時のように 目の前にあのタブレットようなものが現れる。周囲は真っ暗闇なので、タブレットの光がまぶしく感じられる。


 『創造するものを選択してください』


 聞こえた音声と同じ文字がディスプレイの上にも表示されている。

 能力を消すように頭の中で思考するとディスプレイが消失する。

 能力の発動と停止の感覚を、覚えておくために何度か発動と停止を繰り返す。

 感覚は大体つかめたので、何か創造してみることにした。


 タブレットを、前世界のスマホのようにタップやスワイプして操作してみる。

 操作方法はそれであっていたようで、画面が次々と切り替わていく。


 色々とタブレットを操作してみると、『武器』、『防具』、『生活』など、色んなジャンルのボタンが画面に配置されていた。

 俺は喉の渇きを覚えて、水を創造してみることに決める。

 タップして画面を切り替えていくと、飲料の項目に水と言う名前があった。

 ネットの通販で買い物をするような感覚で、立山たてやまの天然水と言うものをタップしてみる。


 すると、体が光に包まれたかと思うと、わずかな脱力感と虚無感と引き換えに、目の前にペットボトルに入った水が出現したのである。


「マジか……」


 知らず知らずのうちに思ったことが口から漏れる。

 早速、キャップを開けて口をつけると勢いよくペットボトルを傾ける。


 うまい。


 感想は言葉にならなかった。

 水がこれほど美味しいと思ったことは初めてである。


「【創造】か……これぶっ壊れ能力スキルじゃね?」


 水を飲みつつ、引き続きタブレットを操作していく。

 せっかくなので、腹ごしらえもしておくことにした。


 創造したのは牛丼だ。

 プラスチックの容器に入っている。

 同様に創造した割り箸で牛丼をかき込む。

 うまくて涙が出そうだった。

 

 満腹になったところでそのまま眠ってしまいたかったが、まだまだやることは多い。


 まだまだ追手がかかることもあるかも知れない。

 武器や防具などの装備面も充実させておきたいところだ。 

 俺は持っていた鉄の剣をまじまじと見つめた。

 武器を見るだけでは、その詳細を知ることはできないようだ。

 何とか武器の性能を知る方法はないかと考える。

 おそらく、道具を鑑定する能力もあるのではないかと想像できたが、持っていないものは仕方ない。


 取り敢えず、何か創造してみることにした。

 武器の項目を一覧表示させると、数えきれないほどの武器がディスプレイに表示される。

 一つ一つ確認していくとどうやら、武器の強さが数値化されているようだ。

 剣の強さでソートしてみて、目についた剣を創造してみることにした。

 ディスプレイに質問と選択肢が表示される。


 『王者の剣を創造しますか?』


 ⇒無から創造する

  素材を使って創造する

  資金を使って創造する


 素材はともかく資金?

 そういや牛丼の時にも表示されてたな。

 気になって資金の項目を確認してみるととんでもない数字が表示されていた。


 資金:1000億円。


「は? 1000億……?」


 創造できる項目には生活用品から住宅などまで用意されていた。

 心力を消費しなくても資金で購入できるということだろうか?


「でも武器に資金を使うのももったいない気がするな……」


 俺は資金を使うのをやめて心力を使うことにした。


 『心力が足りません!』


「あーあれか。王者の剣て強いんだな……」


 強いものは消費する心力が大きいようである。

 流石に最初から強い武器を手に入れようとするのは甘い考えだったようだ。


 色々考えた末、そこそこの強さのあるルーンゴヴァと言う剣を創造した。

 防具は、鎖帷子くさりかたびら、ビフ皮のブーツなど無難なものを選んでおいた。鎖帷子のお陰で首にはめられた奴隷の首輪を隠すこともできる。


 この時点で、俺はとてつもない疲労感に襲われていた。

 これは心力を使い過ぎた結果であった。

 どうやらレベル5程度では大した心力もないのだろう。 


 俺は木々の繁みに移動すると、寝袋を創造して中に入る。

 意識が朦朧としてきたが、もう少し調べものをしたいところであった。


 横になりながらタブレットを確認する。

 どんな体勢でもちゃんと見やすいように移動してくれるのでありがたい。


 もう目蓋がこんにちは状態で、寝落ちしてもおかしくない状態だ。

 そんな状態で、どんな項目があるか確認していると思わぬ項目を発見した。


「な、なんだってーーーーーー!?」


 思わず叫んでしまった。

 夜の森に俺の声が木霊した。

お読み頂きありがとうございます!

今後も頑張って参りますのでブックマークや評価★5をよろしくお願いします。

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モチベーションも上がりますので是非!

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