第1話 逃亡
新連載です。
よろしくお願いします。
――はぁはぁ
俺、大河龍二は追われていた。
一体全体何が何だか理解が追いつかない。
自宅で愛しのワンコと共にくつろいでいた俺は、突然、真っ白い空間に呼び出されたかと思うと、気が付いた時には暗い森の中にいた。
そう、世界の守護者を名乗る者に数種類のクリスタルを選ばされ……。
何を言っているのか解らないかも知れないだろうが、俺にも全く理解できなかったのだ。正直、勘弁してほしい。
そして今。まさに今。
この世界に飛ばされて、何故か分からないが変な野郎たちに追われている。
後方からは「待てッ!」だの「逃がすなッ!」だのと荒々しい声が聞こえてくる。
最初はどうして追いかけられているのか分からなかったが、すぐに自ずと現在の自分の状況を理解することができた。
さらに世界の守護者を名乗る者の言葉を思い出し、状態開示の能力を使ってみると、俺は自分が何者なのかを完全に理解した。
名前:ブレイブ(大河龍二)
レベル:2
称号:異世界人、英雄
身分:逃亡奴隷
年齢:16歳
職業:無職
能力:【創造】、【情報開示】
才能:剣の才B
装備:鉄の剣D、布の服C
今の俺は逃亡奴隷。右手には抜き身の剣をぶら下げている。そして、首には奴隷を示すかのような首輪がつけられていた。その造りは重厚で喉仏の辺りに鎖が一つついており、何者をも獄につなぎとめんとせんばかりの存在感を放っている。
(いきなり、奴隷とかひどかねぇか!?)
そう文句の一つでも言ってやりたかったが、ここはもう表世界なのである――白い空間で出会った世界の守護者の言葉を信じるならば――
俺が暮らしていた世界の方が裏だったなんてこと自体信じがたいが、守護者にとって大切なのはこっちの通称表世界なのだろう。
そう考えながら走っていると、槍を持ち鎧を着た兵士風の男が一人、いきなり目の前に現れた。その顔は暗くてよく見えないがどんな表情をしているかは想像できる。
(ちぃッ! 先回りされたかッ!)
小さく舌打ちをすると腰を落として身構える。
仕方ないので迎え討つ覚悟を決める。
「待てッ! 逃亡奴隷は何をされても文句は言えねぇ! 死にたくなけりゃあ大人しく捕まるんだなッ!」
逃亡も何も、気が付いたらこんな状況なのだ。
文句の一つも言いたくなる。
俺には今、選択肢が二つあった。
一つは、大人しく捕まってただの奴隷に戻ること。
戻ったら折檻でもされて、いずれどこかに売られていくのだろう。
もう一つは、このまま逃げ続けて自由を勝ち取ることだ。
日本で悠々自適で自堕落な生活を送ってきた俺にとって、不自由などもっての外だ。
とても奴隷などと言う生活には耐えられないだろう。
幸か不幸か、ここら辺は森の中でも少し開けた場所になっていた。
深い闇の中、空からは月明かりが射している。
選択 ⇒ たたかう
そう決めた俺は手に持っていた抜き身の剣を振り上げると、立ちふさがっていた男に思いっきり振り下ろした。
「オラァ!」
知らない間に大声が出ていたようだ。
気合一発、振るった剣は、男の持つ槍の柄で受け止められていた。
(柄も鉄製か!? それとも剣がなまくらなのか!?)
剣が受け止められたと分かるや否や、槍の柄の上を剣をスライドさせ、男の指を削ぎ落す。
「痛てぇッ!」
指をやられて怯んだ隙に、追撃をかける。
片手持ちになった槍の穂先を足で踏んで抑え込むと、男の首を狙って横薙ぎの一閃を放つ。
――鈍い感触。
妄想世界で夢見たように、スパーッと綺麗に斬れるなんてことはなかった。
これは斬ったとは言わない。首を叩き折ったと言う感じだ。
そう感じた通り、男の首はまだ胴体と別れを告げてはいなかった。
首が変な方向に曲がっている。
やはり首の骨でも折れたと言うところか。
心臓がバクバク激しく脈動している。
(殺した!? 俺が人を殺したのか!?)
とっさにやったこととは言え、人を殺してしまったのかも知れないと動揺する。
しかし状況は動揺している暇など与えてくれなかった。
後方から何人かの足音が近づいてくる。
速く逃げなきゃ速く逃げなきゃと言う焦りも手伝って、心臓は休む間もなく動き続ける。
(いや、休んじまったら死ぬってことなんだけど……)
動揺が収まらないうちに、背後から声がかけられる。
「観念しろッ! もう逃げられんぞッ!」
「なッ!? てめぇ、ロイドを殺しやがったなぁぁぁぁ!!」
俺の傍で首を有り得ない方向に曲げたまま沈黙している男を見て逆上する男。
その男は、そう叫ぶや否や、俺に向かって飛び掛かり剣撃を浴びせてきた。
その速い一閃をどうにかこうにか、剣で受け止める。
(剣なんて扱ったことねぇから分かんねぇよッ!)
もう一人の男はロイドと呼ばれた男と同じく、槍を持っているようで、鍔迫り合いをやっているところを横から突いてくる。
何とか剣を思いっきり押し込んで剣の男を突き放すと、突かれた槍から身をかわそうとした。しかし体は思ったように反応せず、槍が脇腹に突き刺さってしまう。
(痛てぇぇぇ!)
「よしッ! 殺ったッ!」
「死んで……たまるかぁぁぁぁぁぁ!」
剣を横薙ぎに振るうも槍のリーチは長い。とても男まで剣は届かなかった。
先程鍔迫り合いをしていた男も槍で貫かれて動きの止まった俺を上段から斬りつけてくる。
とっさに剣で受け止めるも、思いっきり体重を乗せられて押し込まれていく。
脇腹が痛くて力も入らず、押し負けそうになる。
そこでとっさに剣から左手を離すと、死にもの狂いで男の目を指で突いた。
やらなきゃやられる!
たぶん俺は必死の形相をしているに違いなかった。
「目がぁあぁ! 目がぁぁぁ!」
狙い通り剣から手を離して目を押さえ、転げまわる男。
槍の男は一旦、体から槍を抜くと、目を突かれた男に飛びかかろうとしていた俺にもう一度槍を振るってきた。
狙いは首だ。今度は突きではなく払いで首を薙ぎ斬るつもりのようだ。
その一撃に対して直感的に前に出て槍兵の懐に入ると、槍の柄は俺の体に当たって止まる。刃の部分が当たらなければどうということはない。痛いのには変わりないが斬られるよりマシである。
動きの止まった槍兵の首を目がけて持っていた剣で突きを放つ。
槍が止められている、その男は為す術もなく首を剣に貫かれて絶命した。
残るは目を傷めた男だけだ。未だ転げまわっているその男に馬乗りになると、首筋に剣をあて一気に圧し斬ろうと力を込める。
しかし男も凄まじい力で素手で剣を止め押し返してくる。
火事場のクソ力だろう。
剣に全体重を預けると、左手を剣から離して、再び男のもう一つの目を突く。
何度も何度も避ける男に対して何度も突きを繰り返す。
攻防はどれ位続いただろうか?
男の目を突くことに失敗し、俺の指は男に噛み千切られて、最早、左手の指が数本になってしまっていた。
その手で男の脇腹にパンチを繰り出しつつ、剣には体重をかける。
こちらも生死がかかっている。火事場のクソ力対、火事場のクソ力だ。
力比べを続けること、いくばくか。
「キャンキャン!」
突如として繁みから犬の鳴き声が聞こえた。
すると繁みから一つの影が飛び出すと、争っていた男に飛び掛かる。
その噛み付き攻撃に怯んだのか、男の力がふっと抜けた。
その瞬間を逃す俺ではない。
何とか男の首を圧し斬ると、その場に崩れ落ちるように倒れ込んだのであった。
そんな疲労困憊の俺の耳に聞こえてきたのは、機械音のような電子音声であった。
『レベルが5にアップしました』
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名前:ブレイブ(大河龍二)
レベル:5
称号:異世界人、英雄
身分:逃亡奴隷
年齢:16歳
職業:無職
能力:【創造】、【情報開示】
才能:剣の才B
装備:鉄の剣D、布の服C
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