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第2話 転生のルール

 同じ時代、同じ場所で生きた者たちが死んで生まれ変わり、そのときの記憶を持ちながら次の人生でも共に生きる。それを池端悠はよしとしなかった。今回の人生が薄くなるからだ。


「池端〜、まだ早いし、寄り道してから帰ろうぜ〜?」


「オッケー。じゃあ駅前で何か食べていくか」


 部活が終わって帰り道、親友の邦恵とゆっくり歩く。邦恵は悠より少しだけ背が低いが、足はかなり短い。悠が彼女のスピードに合わせていた。



 この4月に17歳になった悠は、前世からの因縁を断つために必要な知識と最善な対処法をこれまで多く学んできた。その中でも重要なことがいくつかある。


 まず一つ目に、前世の記憶がある人間は必ず『大きな事柄を成し遂げて転生した』。村や国、世界全体など規模はそれぞれ異なっても大勢の命を救う活躍をしたり、歴史に残る発明をしたり、何百年経っても残る物語を書き上げたりといった例がある。その経験やコツを思い出し、現代の技術と融合させて前回の人生以上に多くの功績を挙げられる。しかし反則気味だと本人たちも自覚しているのか、公言する者はいなかった。


 もちろん全ての偉人や勇者が前世のことを覚えているわけではない。そして大悪党や魔王と呼ばれる者たちも、悪い方向にではあっても『大きな事柄を成し遂げた』ので、そのときの記憶が残っていることがある。前回よりも狡猾で残忍な悪魔になる者もいれば、悔い改めて悪事から遠く離れた生き方を貫く者もいた。


「夕飯も近いから軽いものにするかぁ。でもいいよな。いつもあんなにたくさん食ってるのにそのスタイルをキープできてるんだから。秘訣を教えてくれ!」 


「……特別なことはしてないな。体質だろ」


「なんだそりゃあ!いいか池端、そのセリフは私の前だけにしておけ。相手次第じゃ喧嘩が始まる」


 邦恵には前世の記憶が今のところない。本人に聞いて確かめたわけではないが、悠にはそれを持つ人間がわかる特殊な力が生まれつきあった。邦恵からはその気配を感じることはなく、今後思い出す可能性もなさそうだ。もし目覚めたとしても、悠と全く関わりがない別世界の人間であればまるで問題がない。



 二つ目に、ある程度の年齢までに記憶を取り戻すきっかけがなければ、その機会は完全に失われる。だいたい30歳前後だろう。よって校長が前世を思い出すことはもうない。それだけ生きれば『上書き』は完了したというわけだ。


「校長が自己破産なんかしたりヤバい金に手を出して捕まったりしたら予想部も終わりだろうな」


「それはないと信じてるよ」


 すでに自分の前世を知っている人間に加え、その見込みがある人間も悠ならわかる。どちらのタイプも数は多くないが、30代以上だと極端に少ないことからこの法則に気がついた。もちろん見た目だけでは正確な年齢はわからないし、例外がいるかもしれない。



 三つ目に、前回の生涯で関係が深かった者同士は出会いやすい。悠は8歳まで静岡の西伊豆で暮らしていたが、周りはほとんど自分と同じ世界から来た転生者たちだった。幸いにも悠以外は記憶を取り戻していなかったので、その前に家族で東京都下に引っ越したことで望まない展開を避けられた。ちなみにその引っ越しは偶然だった。


 悠の家族は両親と妹が一人。全員前世の記憶を持たず、妹が将来そうなる可能性も感じない。家族仲は素晴らしく良好で、このことも悠がいまの命を大切にしたい理由だ。自分は池端悠で、それ以外の何者にもなりたくないと。


「今年の夏は海にでも行くか!どこがいいかな……伊豆のほうなんか穴場だと思うんだが、どうかな」


「いや、夏はどこも混んでるだろ。それに私の家は家族旅行に行くからな……お前と遠出する暇はないかもな。八王子や立川で遊ぶんじゃだめなのか?」


「なんだよ冷てーな。そんなのいつでもできるだろーがよ。夏休みに忘れられない思い出を作りたいんだよ!」


 海、特に伊豆から遠ざかるべきだ。どうしても行かなければならない場合は注意して行動すればいいが、自分から向かうことはない。厄介な出会いとトラブルを避けるために。



 そして四つ目は、知らないふりをすればどうにかなるということだ。誰かがやってきて、遠い昔に会ったことがないか、私を覚えていないかと迫られても、困惑した顔でわからないと繰り返せば確証がないので引き下がる。相手も変なやつだと思われたくないからか、前世だの魔法だの王国だのという言葉を使って話しかけられたことはこれまでない。仮にいたとしても、「ゲームの話ですか?」と言ってしまえばいいだけだ。


「石山、お前はいつも目的が不純なんだよ。海に行って何がしたいか……聞くまでもないな」


「いやいや!誤解だ、池端!池端は誰にでもモテる、そのそばにいれば私にもおこぼれが……なんてこれっぽっちも考えてない!私を信じろ!」


「………まあいい。信じるよ、とりあえず」


 人気がある悠のもとには大勢の人間が集まる。前世絡みのものではないことのほうが圧倒的に多く、実は危ない場面などほとんどない。無警戒ではまずいが、神経質になる必要はない。


「プロレスも行きたいけどチケット高いからなぁ。ネット中継で我慢するしかないな」


「会場までの交通費だけでかなり持っていかれる。部費でなんとかならないか交渉してみるか……」




 そして悠もまだ知らない転生の秘密がいくつか存在する。そのうちの一つは、前世でとても大きな心残りがあったまま生涯を終えたので生まれ変わっても記憶がある、または思い出す見込みがあるということだ。まだ足りない、次はこうしたい、このまま死ねない……そんな欲求、後悔、執念が記憶を引き継がせ、人生をやり直させようとする。


 加えてその者たちは全員子孫を残さなかった。養子や後継者はいても、自分の血を途絶えさせている。それ以外にも幾つか条件があることを考えると、必要な要素全てを満たして記憶を取り戻すに至る人間など何十万人に一人いるかどうか、そんな割合だ。それなのに悠が頻繁にその気配を持つ者たちとすれ違い、時には接触する機会があるのは、引き寄せられている証だ。この運命の力に抗わなければ悠の望む未来はない。

 西伊豆 『加山雄三ミュージアム』があったが、2022年6月に閉館。2024年の4月まで銀座にミニミュージアムがオープンしている。



 全25話を予定しています。すでに全話投稿予約済みです。

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