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5 市長との懇談

 概況説明の2日後、キリト達は早速日帰りで現地視察に行くことになった。


 わずか1日ちょっとで日程調整できるなんて、エルンや第36区の職員は凄い。事前に視察ルートを決めていたのかもしれないけど。


「本日の行程は、ニャト市長と懇談、ニャト市中心部の視察、その後、昼食を挟んでニャモリ市の農村地帯をご覧いただき、最後にニャモリ市のニャミー海岸で夕食という流れになっております」


 朝イチで第36区庁舎を出発した官用車の中で、隣に座るエルンが説明してくれた。

 助手席にはティムが乗っている。視察に同行できて、心なしかワクワクしているようだ。


 ほどなくして、官用車はニャト市庁舎に着いた。プレハブ2階建ての仮設庁舎だ。


 車寄せでは、白色でふわふわした毛並みのニャト市長と、第36区の地方局行政課長が出迎えてくれた。


「司政官、この度はわざわざニャト市庁舎にお越しいただきありがとうございます」


「こちらこそ、急なお願いにも関わらずご対応いただきありがとうございます」


 キリトはニャト市長と握手した。ぷにぷにの肉球に思わず幸せな気分になる。


 ちなみに、市長は旧ミャウミャウ共和国時代に選挙で選出されている。帝国による占領以後は、一時的に選挙が停止され、司政官が任免することになったが、占領前の市長をそのまま任命したのだ。


 併合により、市長の公選制が復活することになり、来年は統一市長選が行われる予定だが、建前上は、その最終的な任免を引き続き司政官が行うことになっている。


 キリトは、市長の案内で質素な市長室へ向かった。


「市の職員は、皆さんミャウ族なのですか?」


 応接セットのソファーに座り、キリトが向かいに座る市長に聞いた。市長が答える。


「ええ、ニャト市の職員定員は約3000人ですが、そのほとんどがミャウ族です」


「戦後復興の状況はいかがですか?」


「正直なところ、税収減にインフレ、多額の戦時補償債務、ベテラン職員の戦死等が影響して、遅々として進んでおりません」


「水道や電気等の最低限のインフラは何とか応急復旧できましたが、それ以外は手つかずです。第36区におかれましては、是非とも支援をお願いしたいところです」


 市長はキリトの目を見た。怒りを押し殺しているように感じた。市長の隣に座る行政課長は、バツの悪そうな顔をしている。


 キリトは沈痛な面持ちで答える。


「市長の心中をお察しいたします。第36区もなかなか中央から十分な予算措置を受けられていない状況でありますが、復興に向けて努力いたします」


 本当は1日も早く復興させますと言いたかったが、内務省は第36区に十分な予算措置をしないようだし、復興策は現在検討中なので、キリトはこのような表現にとどめた。


 市長は、少し驚いた顔をしてキリトに話す。


「司政官にそのように言っていただけるのは初めてですな。そちらにも色々と事情がおありなのは重々承知しておりますが、何とぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。常日頃から連絡を密にして、お互い復興に尽力しましょう」


 そう言ってキリトは立ち上がり、右手を差し出した。市長も右手を出してしっかりと握手した。


 キリトは、このような対応で問題ないか心配になったが、斜め向かいの行政課長も、隣のエルンも、嬉しそうな顔をしていたので、ひとまず安堵した。

10/21 誤字修正しました

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