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45 準備

 朝食後、エルンは、第36区の人事課に、司政官が急病で1日休むことと、エルンとティムは終日公邸で勤務することを伝えた。


 その後、エルンは、広報を担当している長官官房総務課と、地方局、経済局、社会局、建設局の各局に、週明けの預金封鎖等と各種施策の発表は予定どおりに実施するよう伝えた。

 司政官の体調や、週明けの登庁の可否については、あえて明言を避けた。


 キリトは、フレッドやティムに手伝ってもらって立ち上がり、何とかシャワーや着替えなどを済ませると、再びベッドに横たわり、警護で公邸に詰めているニャリスを私室に呼んだ。


「ど、どうしたんですか? 司政官!」


「ああ、驚かせてゴメン。ギックリ腰になっちゃってね」


 驚くニャリスに、キリトはそう言って笑った。


「昨晩、私室に医師が入ったのはそう言うことですか。何か体調を崩されたのかと心配しましたよ」


 そう言ってニャリスも笑った。キリトが真面目な顔でニャリスにお願いする。


「実は、ニャリス君にお願いがあってね。理由は言えないんだけど、私が公の場に出るまで、私とここにいる弟のフレッドが仮に死んだときの対応をしつつ、それを隠すかのように行動してくれないかな」


「や、ややこしいですね。要はお二人が死んだのを隠すフリをすればいいってことですか?」


「うん、ごめんね。変なことをお願いして」


「いえいえ、お任せください! 私は学生時代に演劇部に入っていましたし、そう言うのは得意です。何かだワクワクしてきましたよ」


 ニャリスはそう言って悪戯(いたずら)っぽく笑うと、ニャリスの後ろに立っているエルンに振り向いて聞いた。 


「それじゃ、とりあえずドライアイスと納体袋を2人分、こそこそ調達しましょうか?」


「ありがとうございます。費用は長官報償費から出しますので、遠慮なく言ってください」


「了解です! それじゃ深刻な顔をしながら、こそこそ動いておきます」


 そう言うと、ニャリスは公邸内の詰所に戻って行った。


 次にキリトは、エルンにお願いして、警保局の警備課長に来てもらった。


 エルンとも相談したが、シニャクの騒動のときの言動を踏まえ、警備課長は信頼できると判断したのだ。


 機密性の高い内容でも警備課長が話しやすいよう、ティムとフレッドには別室で待機してもらい、キリトとエルンの2人で私室で会うことにした。


「ど、どうされたのですか? 司政官」


「ああ、ギックリ腰になっちゃってね」


 ニャリスと同じようなやり取りをした後、キリトは警備課長にベッド脇の椅子に座ってもらうと、笑顔で質問した。


「第36区のレジスタンスの動きはどう?」


「は、はい。詳細は分かりませんが、近々大きなデモを行う可能性がありまして、警戒しています」


 流石(さすが)、警保局。ある程度レジスタンスの動向を掴んでるいるようだ。


 この情報を司政官に言ったということは、少なくとも自分とレジスタンスとの関係にはまだ気づいていないようだ。

 知った上で問題ない範囲の情報を話したのかもしれないが。


 キリトは真面目な顔で警備課長に言う。


「これは私の推測も含んだ情報だけど、週明けの頭に第36区が発表する各種施策をきっかけに、レジスタンスはデモを起こす」


「レジスタンスは、自治権拡大運動を展開するけど、大した騒ぎを起こすつもりはない。だけど、問題は、皇帝がこのデモを利用して第36区で内戦を引き起こそうとしている可能性があるんだ」


「な、何ですって?」


 警備課長が驚いた。キリトは続ける。


「おそらく、南方第3軍も動く。警察や軍をデモ隊と衝突させる工作をするかもしれない」


「レジスタンスのデモを抑え込みましょうか?」


 警備課長が聞いた。キリトは頭を横に振る。


「いや、レジスタンスのデモを止めても、おそらく皇帝は『園丁』を使って騒動を引き起こすはずだ。レジスタンスにはむしろデモで人を集めさせて、ある程度コントロール可能な集団を作っておいた方が安心だと思う」


「承知しました。いただいた情報を踏まえて、至急警備計画を策定します」


「ありがとう。おそらく皇帝は、あらゆる手段で軍や警察と民衆を衝突させようとしてくるはずだ」


 キリトは、ベッドから手を伸ばすと、警備課長の手を取った。


「どうか、皇帝の挑発に乗らないよう、冷静な対応をお願いしたい。あと、もしレジスタンスや民衆が軍と衝突しそうになったら、軍ではなく、レジスタンスや民衆の側に付いて守ってあげて欲しい」


「ご安心ください。我々は第36区の、ミャウ族のための警察です」


 警備課長が力強くキリトの手を握り返した。


「ありがとう。本当にありがとう!」


 キリトはお礼を言うと、忘れていた事を警備課長に伝えた。


「あ、あと最後に、私と会ったことは秘密にして欲しいんだ」


「実は昨晩、皇帝に脅迫されて刺客にさせられた弟が公邸に来てね。幸い2人とも無事なんだけど、取りあえず私も弟も死んだことにしてるんだ」


「司政官の弟君を脅迫して刺客に? 何と非道な……承知しました。副官のエルン様と打ち合わせをしたことにいたします」


「ありがとう、よろしく頼む」


「お任せください」


 警備課長は敬礼すると、足早に私室を出て行った。

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