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 社会局の援護課長からの説明を受けた後は、怒濤の訪問者対応が待っていた。

 各市幹部、経済団体、農業団体、帝都から視察に来た議員や高級官吏等々……


 その中には、財閥関連の団体や、農地の大地主の団体もいた。


 これらの団体からは、性急な制度変更について再考を求める抗議文を受け取ったが、「話としては承るが、今回の一連の制度改革は、長期的な第36区の発展に不可欠なものです。ご容赦、ご協力いただきたい」と笑顔で答えた。


 団体メンバーと握手した際、憎しみを込めた強い力で手を握られた。ちょっと怖かった。


 各市幹部のうち、ニャト市長とニャモリ市長が一緒に挨拶に来た。


 両市長からも、性急な制度変更について疑念を呈する書面を受け取った。その内容は、先ほどの団体から受け取った抗議文とそっくりだ。これには少々面食らった。


 先日ニャムニャが言っていた財閥や大地主の企ての一つだろうか。


「司政官がミャウ族のことを考えて種々ご尽力されていることは良く分かりますが、いささか性急のきらいがあるのではないでしょうか。改革のスピードを緩め、もう少し現状を尊重した施策に変更していただくのがよろしいかと」


「このままでは、住民の間に軋轢(あつれき)が生じるおそれがありますし、市役所職員が疲弊してしまいます。どうか改革のスピードを緩やかにしていただければありがたい。このままだと協力したくても出来ませんな」


 ニャト市長とニャモリ市長がそれぞれ言った。適度の軋轢、混乱を生じさせるのが目的です、とは流石(さすが)に言えなかったので、キリトは笑顔で釈明した。


「ご心配、ご負担をおかけして申し訳ない。ですが、第36区の長期的な発展を見据えると、今この時点で社会変革を急ピッチで行い、早期の復興を目指す必要があると考えています」


「特に、貧富の差の是正、公正かつ自由な経済活動の確保、そして社会保障制度の確立は、待ったなしの状況だと考えています。緩やかな改革では、経済発展は望めませんし、助かる命も助かりません」


「ちなみに、いただいた文書を拝見しますと、どこかで読んだ気がしますね。財閥関係者や大地主の陳情を受けたものですか?」


 ニャト市長もニャモリ市長も、苦笑いするだけで何も言わなかった。キリトは少し高圧的な態度で釘を刺しておくことにした。


「そういえば、今年は各市長統一選挙ですね。ご存じのとおり、併合以後、各市長は公選制に戻りましたが、その最終的な任免は司政官が行うことになっています」


「な?!」


「横暴ですぞ!」


 両市長が驚いた声を上げる。キリトは笑顔のまま話す。


「何を驚かれているのですか? 私は一般論として、現行制度をご説明しただけです。民意を踏まえた公正な行政運営がなされる限り、司政官が市長の任命を拒否したり、解任したりすることはありませんよ」


「何が民意であり、何が公正であるか。そして、何が真にミャウ族のためになるか。賢明なお二人であれば、()()()()()に立つべきか、おのずとお分かりになるのではないかと思います」


 キリトは、驚いたままの両市長に歩みより、それぞれの手を取った。


「すでに内々の打診があったかもしれませんが、皆様には、第36区・ミャウミャウ復興計画の実施にご助言いただきたいと考えています」


「どうか、そんな後ろ向きな対応ではなく、ミャウ族の未来のため、ご助力をお願いいたします」


「市職員の皆様には種々ご負担をおかけして申し訳ありませんが、第36区の未来を決める大事な時期です。なにとぞ、今しばらくご尽力ご協力いただければ幸いです」


 両市長は、それ以上何も言わずに長官室を出て行った。



† † †



「キリト様、種々のご対応ありがとうございます。次で最後の訪問者です」


 夕方、珍しく疲れ顔のエルンが言った。これだけの訪問者の調整で、エルンも大変だったろう。キリトは笑顔で言った。


「エルンさんこそ、今日は色々調整してくれて本当にありがとう。さて、最後はどういう人達かな?」


「帝国大学の地方行政法ゼミのワイズ准教授とゼミ生だそうです。ではお通しします」


 エルンがティムに目配せすると、ティムが控え室から一行を連れて長官室に入って来た。


 ワイズ准教授は、如何にも学者という風体の中年男性だった。その後ろに10名程度の若い男女が控えている。

 ワイズ准教授が入室するなりキリトに話しかけた。


「司政官、お忙しいところ申し訳ありません。急な予定変更でこの地域にフィールドワークに来ていたところ、教育局から是非司政官にご挨拶をという話を受けまして。私も元役人ですし、司政官のお忙しさは十分承知しておりますので何度もご遠慮したのですが……」


 どうも教育局による親切の押し売りだったようだ。キリトが笑いながら答える。


「いえいえ、お気になさらず。私は優秀な部下のお陰で楽をさせてもらっておりますので。当区が学生の皆さんのフィールドワークに少しでもお役に立てればいいのですが……ん? ふ、フレッド?!」


 キリトは、学生の顔を一人一人見ながら話していると学生の一番後ろに隠れるように立っていた若者に気づき、驚愕した。少し照れた表情の弟、フレッドだった。

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