38 仕事始め
仕事始め。第36区庁舎に登庁したキリトは、多忙を極めた。
登庁後、長官室で局長等の新年の挨拶を受けた後、キリトは講堂で課長補佐以上に年頭の講話を行った。何となく全校集会を思い出す。
エルンにお願いして、原稿には、第36区の復興の礎を築きたいこと、どのような施策にせよ、長い目で見てミャウ族のためになるかどうかを考えて実施して欲しいことなどを盛り込んでもらった。
その原稿を元に、心を込めて職員に語りかけた。教室もそうだが、壇上からは意外に皆の顔が見えるものだ。つまらなさそうに聞いている職員もいたが、自分が人の講話を聞くときも同じような顔をしていたなと思い、思わず苦笑しそうになった。
キリトが講堂から長官室に戻って大量の決裁を処理していると、建設局の総務課長と道路課長が説明に来た。
「主要道路の応急復旧は、急ピッチで進んでおります。今月中には、重大な危険箇所は概ね修復完了予定です」
「次に第36区復興計画の素案の概要ですが、経済局の『復興基金』構想なども踏まえまして、北部の海岸に散在する工場群を集約し、港湾整備と平行して大規模な工業地帯を設けるとともに、その他の海岸の環境修復、景観整備を行うこととしています」
「南部については、農業振興を図りつつ、美しい海や森の魅力を最大限に活かす街づくりを行うこととしています」
「そして、北部のニャト市と南部のニャモリ市を『二大都市』と位置づけ、歴史的な景観を活かしつつ大規模な土地区画整理を行い、都市機能を重点的に整備します。二大都市間には基幹交通網を整備し、二大都市から各地方都市への交通網を順次拡げていくこととしています」
「なお、この第36区復興計画及び今後の具体的な実施計画については、司政官から経済局にあったご示唆を踏まえて、ニャト市長やニャモリ市長等のミャウ族の関係代表者を加えた協議会でまとめることを考えております」
年末に経済局にお願いしたことも反映されているようだ。キリトは笑顔で総務課長と道路課長を労った。
「ありがとう。良くまとめてくれた。内容について私から言うことはないよ。もし可能であれば、構想だけでもいいので、来週頭に戦後復興特別税と同時に発表できないかな」
「はい、現時点の素案程度であれば可能です」
「よろしく。あと、計画名なんだけど、『第36区復興計画』を『ミャウミャウ復興計画』とかにできないかな?」
「旧国名ですが、よろしいですか?」
総務課長が心配そうに聞いた。キリトが笑いながら言う。
「『共和国』が入っていないから大丈夫だよ。ミャウ族にしても、自分たちの民族や土地を表す名称が入っていた方が、復興への意欲が湧くと思うんだよね」
「承知しました。例えば『第36区・ミャウミャウ復興計画』などとするのはいかがでしょうか」
総務課長が提案した。確かにこれであれば批判を躱せそうだ。
「なるほど、いいね。それでよろしく。道路復旧に復興計画の立案、本当にありがとう。皆さんは、まさにこの第36区のカタチを固めたと言っていいと思うよ」
「光栄です。引き続き頑張ります!」
総務課長と道路課長が、笑顔で答えた。
続きは明日投稿予定です。




