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37 情報交換

 新年2日目の夕方、キリト達はワタルの職員宿舎の部屋に集まった。ワタルが居候している部屋の主である会計課のバーコードン補佐が帝都に戻っているということで、急遽部屋を使わせてもらった。


 メンバーは前回と同じだ。ダイニングのテーブルにキリトとエルンが並んで座り、向かいにはニャムニャとワタルが並んで座った。ティムは前回同様、お誕生日席だ。


 公邸料理人が作ってくれたミャウ族の「おせち」に相当するオードブルと、同じく「お屠蘇(とそ)」に相当する果実酒で食事をしながら、キリトがこの2日間にあったことを説明した。


「……まさか皇帝・良識派が司政官の暗殺を(くわだ)てるとはなあ。とにかく無事で何よりだ」


「そんな恐ろしいことがあったなんて……本当に無事で良かったです!」


 ニャムニャとワタルがそれぞれキリトの無事に安堵した。


 キリトが2人に答える。


「ありがとう! 今回これで分かったのは、皇帝・良識派は相当焦っているということだ。ワタル君に対する密命と無関係に、あらゆる手を仕掛けてくると思う。そっちは何かあった?」


 キリトの質問に、ニャムニャが答える。


「ワタルと俺は、ニャト市郊外の俺の実家で過ごしてたけど、平和なもんだよ。周囲の話を聞くと、財閥解体、農地改革、所得再分配いずれも賛成という奴がほとんどだ」


「ただ、一部の金持ちや大地主達は、色々と仲間同士集まって何やら(たくら)んでるって噂だ。近々動きがあるかもしれん」


 ついに動き出したようだ。どのような手段に出てくるのだろう。こればっかりは受け身で対応するしかなさそうだ。


 キリトは、もはや隠し立てする必要はないと判断して、預金封鎖等について聞いてみることにした。


「来週早々にも、預金封鎖、通貨切り替え、臨時の財産課税、戦時補償債務の打ち切りを断行するとともに、捻出した財源の活用方針の概要について明らかにする予定だ。この点、何か噂等は出始めているかな?」


 ニャムニャが笑いながら言う。


「預金封鎖と通貨切り替えについては、もう皆知っているという感じだな。切り替え対象外の小銭をかき集める奴が一部で出始めているが、今のところ混乱はないね。むしろ早くインフレが落ち着いて欲しいという声の方が大きいな」


 そこまで話すと、ニャムニャは果実酒をゴクゴク飲んだ。オードブルの魚料理を取ると、一口食べて話を続ける。


「臨時課税や戦時補償債務の打ち切りについては、まだ情報通の間で噂になっている程度だ。特に銀行は戦々恐々として必死に情報を集めているらしいが、市民の多くは知らない。こちらは反対運動が出るかもな」


「なるほど……貴重な情報ありがとう!」


「はは、これくらいお安い御用だ」


 キリトがお礼を言うと、ニャムニャはニヤリと笑って果実酒のグラスを掲げた。


 2人の話を聞いていたワタルが皆に話し掛ける。


「皇帝・良識派が焦っているとすると、来週の臨時の財産課税等のタイミングで何か仕掛けてくるでしょうか」


 キリトが答える。


「その可能性はあるね。たとえば反対運動のデモを暴徒化させたり、デモに乗じてテロ攻撃を仕掛けてくるかもしれない」


「あと、司政官やその側近への攻撃もな。身の安全は大丈夫なのか?」


 ニャムニャの質問にエルンが答える。


「私やティムについては、目立たないような形で、今朝から警護が付くことになりました。公邸や職員宿舎、第36区庁舎等の警備も今朝から強化されています。ただ、キリト様については……」


 エルンが心配そうな顔でキリトを見た。キリトが苦笑いをして答える。


「私の警護は従来どおりにしてもらったよ。変に強化して、攻撃対象を変更されたら困るからね。まあ元々それなりの警護がされてるから大丈夫だよ」


「確かに一理ある。だが、十分に気をつけてくれよ。皇帝・良識派が暗殺を諦めたとは、とても思えないからな」


「ありがとう、気を付けるよ」


 ニャムニャの忠告にキリトは笑顔で答えた。



† † †



「ねえ、ニャムニャ。さっき臨時課税等について反対運動があるかもしれないって言ってたけど、いっそのこと、レジスタンスでデモを起こしてしまうのはどうかな? 僕らで『適度なデモ』をするんだよ」


 ワタルが果実酒を一口飲んだ後、隣のニャムニャに聞いた。ニャムニャが腕組みをして考えながら答える。


「なるほど、俺達でデモをコントロールするってことか。確かに、自然発生したデモを後から制御するよりは楽かもな」


「うん、しかも万が一皇帝・良識派が何か仕掛けてきても、素早く対応できるし」


 ニャムニャとワタルのやりとりを聞いていたティムが、遠慮がちに話した。


「あ、あの、もしデモをするなら、この前の食事会で話に出た帝国情報網を使った配信をやってみてはどうでしょうか。効果的に帝都にデモ状況を伝えることができるかもしれません」


「そりゃいい! だが、レジスタンスに配信ができる奴がいないんだよな……」


 ニャムニャが頭をポリポリ掻いた。ティムが少し恥ずかしがりながら言う。


「も、もしよろしければ、私が配信しましょうか。やり方などについて多少知ってますので」


 ティムがエルンとキリトの顔を見た。エルンとキリトが笑顔で(うなず)いた。


「うん、ティム君なら適任だね」


「同感です。ですが、ティム、安全には十分に気をつけてね」


「はい! 安全に十分気を付けながら頑張ります!」


 ティムがやる気に満ちた顔で答えた。


「よし、それじゃあ俺はテレビ局記者に声をかけてみようかな。自治権を拡大しろーって叫ぶところを撮ってもらおうかな」


 ニャムニャがそう言って、拳を突き上げて叫ぶ真似をした。それを見た一同が笑った。


 本当は、そんな危険なことは止めたいが、「適度な混乱」を引き起こすためにはどうしても必要だ。キリトは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

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