28 報道
「おはようございます、キリト様。報道状況をまとめた資料をお持ちしました」
週明け初日の長官室。エルンが朝一で資料を届けてくれた。
今日は、農地改革の「農地整理令」、財閥解体の「自由経済確保応急措置令」、各市の地方所得税の累進税率を急勾配にする税制改正令の公布日だ。
農地整理令と税制改正令は新年初日に施行、自由経済確保応急措置令は本日施行だ。
農地改革と税制改正については、先週末に農林水産局農政課と地方局行政課がそれぞれ事前記者レクを実施済みだ。
財閥解体については、株式の名義変更等を防ぐ必要があったため、本日午前零時ちょうどに、財閥一族に対して株式の名義変更等の禁止を命ずると同時に、経済局の政策課から担当記者に連絡したそうだ。
いずれも報道解禁は今朝の朝刊から、テレビは今朝の日の出以後のニュースからだ。幸い、事前のスクープはなかった。
「各紙、各放送局ともに、トップニュース扱いですね」
エルンが手元の資料を見ながら言った。
第36区管内の新聞社は3社。ミャウミャウ新聞、ニャト新聞及び南北新報だ。
名前のとおり、ミャウミャウ新聞はミャウミャウ財閥、ニャト新聞はニャト財閥の傘下にある。南北新報は、大衆紙的な位置づけだ。
そしてテレビ局も3社。いずれも新聞社に対応していて、ミャウミャウ財閥傘下のミャウミャウ放送、ニャト財閥傘下のニャト放送、そして娯楽番組に強い南北テレビだ。これとは別に帝国放送という国営放送がある。
いずれも、占領以後併合前は、軍による厳しい事前・事後の検閲があったが、併合以後は、特に問題ある場合に第36区警保局が事後検閲で差し止めすることになっている。
「やはり財閥系は否定的か。南北新報、南北テレビは肯定的なんだね」
キリトは資料を見ながら言った。
ミャウミャウ新聞・ミャウミャウ放送とニャト新聞・ニャト放送は、農地改革、財閥解体、税制改正についていずれも批判している。
特に財閥解体については「司政官は再考を」などと、検閲ギリギリの批判をしている。財閥の意向が反映されているのだろう。
一方、南北新報・南北テレビは「大改革の予感」「小作人、庶民への恩恵は?」など、どちらかと言うと今後の期待感をにじませる論調となっていた。
「はい、おっしゃるとおりです。ただ、新聞以外ではこういうビラが撒かれておりまして」
エルンはそういうと、何枚かのビラをキリトに差し出した。
「冷酷な司政官を許すな」「司政官は前任地の住民を見殺しにした極悪人」「司政官は庶民の預金を奪うつもりだ」などと書かれている。
「警保局によると、作成者は不明ですが、ニャト市の中心部で配布されていたようです。おそらく財閥の仕業かと」
「司政官の評判については、否定しきれないのが辛いところだよね」
そう言ってキリトは苦笑した。魂が入れ替わる前のキリトは、前任地で相当過酷な統治を行っていたようだ。
キリトがビラを見ながらエルンに言う。
「司政官を狙い撃ちにしているところを見ると、このビラの作成者は、今回の各種施策が司政官の発案であるということを知っているようだね。あと、預金の話は心配だね。すでに預金封鎖の噂が流れているのか」
「担当課は各市を含め保秘を徹底しているようですが、どうしても漏れる部分はあるのでしょう。特に預金封鎖や通貨切り替えは、新紙幣の用紙発注等もあり関係者が多くなる分、保秘の徹底は難しいのかもしれません」
そう言ってエルンはため息をついた。軍に比べると、行政官署の保秘は不十分に感じるのだろう。
「どうしましょう。何か対処をいたしますか?」
エルンが聞いた。キリトは少し考えてから言った。
「ミャウ族の不安を取り除くには、何か声明を発表したり、記者会見を行ったりした方がいいんだろうけど、今回は、一定の社会不安を起こす必要もある点が難しいんだよね」
キリトは、ビラの一枚を手に取った。
「冷酷な司政官像に乗っかって、何も声明等を出さずに淡々と進めてみようか。後は状況次第かな」
そう言うと、キリトはビラをエルンに返し、決裁業務に取りかかった。
誤字を修正しました。




