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25 経済対策

 新紙幣に頭を悩ませた日の午後、経済局の政策課長と産業課長が財閥解体と財源活用案について長官室に説明に来た。社会局の援護課長も来ている。


 政策課長が説明を始めた。


「まず、財閥解体ですが、第36区には2つの大財閥があります。ミャウミャウ財閥と、ニャト財閥です」


「ミャウミャウ財閥は、元々農作物の輸出で財を成したニョイル家が、旧ミャウミャウ共和国から依頼を受けて製鉄所を作ったのがスタートです」


「ニャト財閥は、ニャト市の金融業で財を成したマオルル家が、ニャト市を中心に勢力を広げていったものです」


「両財閥は、それぞれ一族が持株会社を通じて傘下の企業を支配しています。また、多くの傘下企業の役員になるとともに、個人で多数の株式を保有しており、強固に管理、支配しています」


「そのため、両財閥の一族及び持株会社から株式を強制的に買い取り、傘下企業の従業員や市場へ売り渡します。買い取りの支払は第36区債券により長期償還を行います」


「また、当該一族については、当面の間、会社役員の就任を許可制にすることとし、当該持株会社は解散させます」


「これらを実施するため『自由経済確保応急措置令』を公布、施行し、併せて今後財閥形成に結び付く動きを禁止する仕組みを検討したいと考えております」


 概ね日本の財閥解体、独占禁止法の制定過程と似ているようだが、こうして聞くと強烈だ。財閥はどう反応するのだろう。キリトは政策課長に聞いてみた。


「財閥は力を持っているようだけど、どう反応しそうかな」


「まだ分かりませんが、有形無形の抵抗があると思います。時間をかけると色々と対策をされると思いますので、スピード勝負で年内にも司政官令を公布、施行したいと考えております」


「それでよろしく。ちなみに、帝国内ではこういった取り組みはしているの?」


「いえ。財閥解体の声は学者や庶民から出ているのですが、その……」


 政策課長が言葉を濁した。ああ、そうか。貴族が財閥を形成しているので対応ができないのか。そういう話は帝国ではあまり言いにくいのだろう。


「まあ、第36区の取り組みが帝国内の施策検討の役に立てばいいね。短時間でしっかりした施策を作ってくれて本当にありがとう」


 キリトは取りあえずそう言って、気まずそうな政策課長をフォローした。



† † †



 続いて、財源活用について、産業課長が説明を始めた。


「今回の戦後復興特別税により、各市の財政はかなり楽になります。そこで、各市と第36区から拠出した資金で『復興基金』を造成し、今後政策的に育成したい産業分野に低利の融資をしたいと考えております」


「具体的には、第36区が鉱物資源の豊富な南方大陸と機械産業が進んでいる帝国中心地域の中間地点という要衝となっておりますので、港湾や鉄道網の整備、あと鉱物資源を活用した工業分野に重点的に融資したいと考えています。建設局が中心となって検討中の復興計画にも反映予定です」


 確かに、農業だけでは経済発展は難しい。工業育成は重要だろう。南方侵攻の有無にかかわらず、ミャウミャウ共和国の立地は発展の余地がありそうだ。


 一方、ミャウミャウ共和国は、隠れた観光資源があるので、そこを育てるのもいいのではないか。


 あと、重点分野については、ミャウ族の意見をしっかり取り入れた方がいいだろう。そのような組織を作り、その組織が力をつければ、後のミャウ族の自治権拡大運動で上手く動いてくれるかもしれない。


 キリトは産業課長にお礼と要望を伝えることにした。


「良い案だと思う。短時間での立案、本当にありがとう。その方向で進めて欲しい」


「この前の視察で、この第36区には隠れた観光資源があると感じたんだ。思いつきで申し訳ないけど、観光分野の育成の可能性もできれば検討して欲しいな」


「あと、こういう話は、ミャウ族自身が関与することで復興への意欲向上につながると思う。小規模でいいので、何か協議会のようなものを作ってミャウ族から意見を聞くようにできないかな」


「いずれにせよ、大まかな方針だけでも戦後復興特別税と同時に発表できれば、住民の不安を少しでも軽減できるかもしれないと思うんだ」


「なるほど、承知しました。対応いたします」


 産業課長が答えた。後ろに控える職員のうち、ミャウ族の一人が嬉しそうな顔をしていた。

12/8 誤字を修正しました。

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