23 帝国情報網
「そういえば、2人は帝国情報網って使ってるの?」
行政課や財政課の説明後、いつもの長官室でのティータイムで、キリトはエルンとティムに聞いた。
エルンが答える。
「私はニュースや動植物関連のページを閲覧する程度ですが、ティムは詳しいはずですよ」
エルンがそう言ってティムの方を向いた。ティムが少し恥ずかしそうに答える。
「僕も大したことないですが、どんなものか簡単にご説明しましょうか?」
そう言うと、ティムは自席から2つのタブレットを持って戻ってきた。
「こちらがキリト様もお持ちの公用端末で、こちらが僕の私用端末です」
「公用端末は、キリト様もご承知のとおり、電子決裁や資料作成に使うほか、各種業務支援データを利用することができます。職員限定です」
公用端末はキリトも持っているが、電子決裁で使う程度だ。見た目や操作方法自体は、日本のタブレットと大差ない。
「次にこちらの私用端末ですが、こちらは帝国政府だけでなく、民間企業や個人が一般に公開しているデータを利用できます」
そう言うと、ティムが私用端末をキリトに見せてくれた。公用端末よりも少し小さめだ。どちらかというとスマホに近い。
ティムが私用端末を操作して、日本のネットの検索サイトのような画面を出した。
「これが帝国情報網のスタートページです。ここから検索して色々な公表データを利用できます」
「こういったスタートページは他にもあるの?」
「いえ、帝国情報局が管理しているこのページだけですね。このページを経由しなければデータを利用できないようになっています」
思ったより厳しく政府が管理しているようだ。
「例えば、ニュースですと、既存の新聞社や通信社のページが閲覧できます。ミャウミャウ共和国の新聞社や通信社のページは、今のところないですね」
「個人のものなら、例えばこんなページもあります」
ティムが「チムチムトント笑いの館」というページを開いた。
「まあ、笑える寸劇やジョークの動画が中心のページなのですが、検閲ギリギリの社会風刺とかもあって、なかなか面白いですよ。ファンとの交流もページ内で行っています」
動画のひとつを見せてもらった。赤いトンガリ帽子を被り、かわいいキツネのお面を着けたチムチムトントという若者が漫談をしていた。なかなか面白い。
ただ、この声はどこかで聞いたような気が……
ページ内の「交流部屋」では、日本のネット掲示板のように、チムチムトントとファンが相互に書き込み雑談をしていた。
「以前ワタルさんが言っていたようなゲームが出来るページがあれば最高なのですが、まだそこまでは許可されてないんですよね。帝国情報局はホント石頭なんですよ」
そう言って、ティムが怒った顔をした。
「こういうページは許可制なの?」
「はい、帝国情報局に申請して許可を貰えば誰でもページを作ることができます」
日本のネットと違って、様々な制限があるようだが、上手く使えば情報発信が出来るかもしれない。
「なるほど、ありがとう! 勉強になったよ」
「お役に立てて何よりです!」
そう言ってティムが私用端末を片付けようとしたとき、端末の裏に赤いトンガリ帽子を被ったかわいいキツネのキャラクターのシールが貼ってあるのに気づいた。
「あ、そのシールはさっきの動画のお面のキャラクターだね。確かチムチムトントだったっけ」
「はい、ファンから貰ったもので……じゃなかった、僕はチムチムトントの大ファンでして、キャラクターのシールを作ったので貼ってみたんです」
そう言うと、ティムは慌てて端末を片付けに行った。
エルンが笑いを堪えながら、キリトに顔を近づけた。
「『チムチムトント笑いの館』は、実はティムのページなんですよ。本人はひた隠しにしていますがバレバレで。帝都の若者の間では、かなり人気みたいですよ」
ティムが自席に戻っている間に、エルンがこっそり教えてくれた。
続きは明日投稿予定です。




