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21 農地改革

 キリト達がニャムニャと会った日の翌週初日、長官室に農林水産局の農政課長が農地改革について説明に来た。農政課長の後ろには、ミャウ族の女性と思われる職員が控えていた。


「地方局経由でご指示のありました第36区の農地改革について、素案をお持ちしました」


 農政課長は、概要ペーパーで説明を始めた。


「地主が所有する田畑のうち一定面積以上を第36区が強制的に買収し、小作人に売り渡します。特に、自ら耕作をせず田畑の所在地から離れて都市部に住むなどしている地主については、全ての田畑を買収します」


「買収は、現金ではなく第36区債券の発行により長期償還を行うこととし、売り渡しについても、長期の分割払いを許容します」


 骨格は日本の戦後の農地改革に似ているようだ。キリトは気になった点を聞いた。


「一定面積というのはどの程度になるのかな?」


「そこは今後の詰めになりますが、各地域の平均年収の2倍程度は確保できるように配慮したいと考えています」


「売渡面積については、下限を定めるのかな?」


「はい。安定的な農業経営が可能な面積以上にしたいと思います。そのため、一定数の零細小作人が残ると思われますが、それについては、小作料の現金払化、小作料率の上限設定等で対応したいと考えています」


「具体的な事業の実施は、各市にお願いするの? 」


「はい、具体的な買収・売渡事業や各種調整等については、各市に委任して対応してもらうことを考えています。これが司政官令の案です」


 そういうと、農政課長が「農地整理令」という司政官令の案を出してきた。休日を入れてもわずか3日でここまで立案するとは。


「こんな短時間でよくここまで作ったね」


「実は、これらの案については、旧ミャウミャウ共和国政府でも検討していたようでして。ね、ミャフさん」


 農政課長が後ろに控えるミャウ族に声を掛けた。ミャフと呼ばれたミャウ族が話し始めた。


「はい、農地改革は旧共和国農務省の、戦死した夫の悲願でした。議会における地主の力が強く、法案提出にまでは至りませんでしたが……幸い夫が当時の検討資料を残してくれていましたので、それをベースに突貫で案を作成させていただきました」


「ミャフ特別企画職は、ご主人とともに旧共和国農務省の元職員でして、今は農政課の臨時職員です。今回農地改革を検討するに当たり休日返上で頑張ってくれました」


 なるほど、すでに改革の基礎があったということか。この点も日本と似ているようだ。旧共和国政府の職員が考えたのであれば、比較的スムーズに実施できるかもしれない。


「ミャフさん、そして農政課の皆さん、しっかりした案を至急まとめてくれてありがとう。それに、ミャフさんの亡くなられたご主人に感謝を。これで可能な限り早く司政官令を公布、施行できるよう進めて欲しい」


「今後の円滑な実施のためにも、ミャフさんをはじめとした旧共和国農務省職員を採用して活用してもいいかもね」


「そのようなお言葉をいただき感謝いたします。今回の農地改革については、どうしてもミャウ族の農村慣行に詳しい職員が必要不可欠でして……」


「優秀な旧共和国農務省職員を臨時採用し、第36区庁舎での企画立案の援助の他、各市へ派遣するなどの対応を検討したいと思います」


 農政課長が喜んで答えた。後で会計課長から予算が逼迫していると苦言を呈されてしまうかもしれない。


 まあ予算の範囲で何とかしてもらうか、と思い直し、キリトはもう一つ気になっていたことを聞いた。


「あと、今回の農地改革で小作農の多くが自作農に転換するけど、そういった農家を支援する施策って何かあるのかな?」


「今のところは、各市の農政担当が巡回して指導に当たることを考えています」


「なかなか各市も手が回らないだろうし、地域ごとに農家の協同組合を設置して、営農指導のほか、農産物の販売や農機具等の購買なんかを共同で実施してもらうという手もあるんじゃないかな」


 そういえば日本には農協があったなあ、という程度の知識だったが、キリトは農政課長に提案してみた。


「なるほど、平行して検討いたします」


 農政課長は検討を快諾してくれた。

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