18 食事会①
エルンが部屋の呼び鈴を鳴らし、ほどなくすると、ワタルが出迎えてくれた。
ワタルは、燕尾服のような任期付召喚職員の服の上着を脱いだだけの格好だ。
ダイニングに入ると、4人掛けのテーブルにグレーの毛並みのミャウ族が一人座って待っていた。ワイシャツの上にベストを着て、ズボンを履いている。
すでにお酒を飲んでいたようで、リラックスしている様子だ。尻尾が左右にゆっくりと揺れている。
ワタルがそのミャウ族に話しかける。
「お待たせ、ニャムニャ。僕の同僚だよ。キリトさんにエルンさん、あとティムさんだ」
「ああ、さっき話していた『仲間』か。バーコードンやセミロン以外にも奇特な人がいたもんだ」
そう言って笑うと、ニャムニャと呼ばれたミャウ族が立ち上がり、自己紹介した。
「初めまして。ニャムニャム商会のニャムニャです」
キリト達はニャムニャとそれぞれ握手した。
ニャムニャが言ったバーコードンは、確かこの前、長官室に説明に来た会計課の庶務担当の課長補佐だ。バーコード頭でバーコドンという名前だったので印象に残っている。
ワタルが居候しているこの部屋の主ということになる。
セミロンは、ワタルと一緒に後方の席に座っていた女性だろうか。
キリトが考えていると、ワタルが申し訳なさそうに皆に言った。
「すみません、椅子が足りなかったので、僕の自室の丸椅子を一つ持ってきました。ちょっと高さが合わないかもしれませんが」
「俺がそっちへ移動しようか?」
「あ、ご心配なく。私が座ります」
ニャムニャがワタルに席の移動を提案したが、ティムがそう言って丸椅子に座ることになった。
テーブルには、ワタルとニャムニャが向かい合って座り、ワタルの隣にキリトが、ニャムニャの隣にエルンが座った。
ティムは、オードブルや飲み物を机に用意した後、キリトとエルンの斜め前、テーブルの短辺部分に丸椅子で座った。
「こりゃ美味しそうだ」
ニャムニャがオードブルを見て喜んだ。公邸料理人にお願いして、ミャウ族で人気だという香辛料を使った肉や魚の料理、あとイチゴのような果物を多めにしたのが功を奏したようだ。
「それじゃあ、全員揃ったので乾杯しましょう! 僕たちは少しフライングしてしまいましたが」
そう言って、ワタルが笑いながらワインのようなお酒の入ったグラスを手に取った。少年のような容姿だが、お酒は大丈夫のようだ。
キリトとエルンも同じお酒にした。ティムはジュースだ。
キリト達は乾杯した。
† † †
「……裏金で戦災孤児の支援をしたいって話を最初に聞いたときは、侵略しておいて何を言ってるんだと頭にきたんだがな」
「ワタルから命懸けのお願いをされたもんだから、ついつい片棒を担いじまった」
ニャムニャが笑いながら話した。ワタルが続く。
「日本の『お辞儀』がミャウ族の命懸けのお願いになるなんて知らなかったからね。後で知ってドキドキしたよ」
「ははは、まあ、でもあのときのワタルは本気だった。その男気に惚れたよ」
「僕こそ、ニャムニャの仲間を思う気持ちに、いつも尊敬しっぱなしだよ」
ニャムニャとワタルが楽しそうに話す。二人はかなり仲が良いようだ。
ニャムニャがグラスのお酒を一気に飲んだ。エルンがグラスにお酒を注ぐ。ニャムニャがエルンにお礼を言った後、真面目な顔になってワタルに語りかけた。
「短い付き合いではあるが、俺はワタルの性格を良く分かっているつもりだ」
「だからこそ、この前のレジスタンスの会議での発言は、本心じゃないってすぐに分かった。ワタルが誰かに危害を加えようとする訳がないからな」
ニャムニャの話を聞いて、ワタルは俯いた。ニャムニャが静かな声で聞く。
「一体何があったんだ?」
「それについては、私から話そう」
ニャムニャの問いかけに、キリトが答えた。
ニャムニャの話しぶりを聞いていると、義理人情に厚いタイプのようだ。変に隠し立てするより、ある程度正直に話す方が信頼してくれるような気がする。
そう考えたキリトは、エルンとティムの顔を見た。エルンとティムもキリトの考えを察したようで、同時に頷いた。
それを見たキリトは、ニャムニャに話し始めた。




