16 茶話会
「……と言うわけで、ここにいるエルンさんとティム君も、私の手助けをしてくれることになった。事後報告で申し訳ない」
「いえいえ、お二人に仲間になっていただくのは心強いです。よろしくお願いします!」
行政課長や財政課長に検討をお願いした日の午後、キリトは長官室でのティータイムにワタルも呼び、エルンとティムが『第三の道』の手助けをしてくれる旨を伝えた。
事後報告だったのでワタルの反応が心配だったが、幸いワタルは喜んでくれた。
「それにしても、午前中のキリト様の矢継ぎ早のご提案には驚きました。よくあんな施策を思い付かれましたね」
ティーカップをローテーブルに置くと、エルンがキリトに話しかけた。キリトは笑いながら答える。
「ああ、あれは日本の敗戦直後の対応を真似ただけだよ。当時の日本においては、様々な混乱もありながら、一定の改善効果もあったからね」
皆にお茶のおかわりを注いでいたティムが驚いてキリトに聞く。
「キリト様やワタルさんがいた日本も、ミャウミャウ共和国のような状況だったのですか?」
キリトが苦笑しながら答える。
「うん。私やワタル君が生まれるずっと前だけどね。大きな戦争があって、日本の多くの都市は焼け野原になったんだ。結局、無条件降伏をして占領されたよ。後に主権は回復したけどね」
「戦争による被害や食糧の欠乏は、日本の方が酷かったかもしれないね。ミャウミャウ共和国の場合は、北部の一部地域の被害は酷いけれど、南部はほとんど被害を受けていないようだしね」
「ただ、日本の場合は、占領後も政府が残っていたから、その政府が色々考えて占領軍と折衝しながら復興を進めることができたけど、こちらの場合は、政府が消滅してるからね。我々がその分頑張らないといけないね」
キリトの話を聞いて、エルンが尋ねる。
「先日お聞きした話ですと、日本という国はかなり豊かな国のようでしたが、どうしてそこまで復興できたのでしょうか」
キリトは悩みながら答えた。
「難しいね……当然、国民一人一人の努力があったことは間違いないけど、要因の一つとしては、近隣国で勃発した戦争による特需があるね」
「そうすると、帝国による南方侵攻があった方が、ミャウミャウ共和国にとっては利益になる可能性があるのですね……」
エルンが暗い顔をして呟いた。
「うん、その可能性は否定できない」
キリトはそう言って腕組みをした。
「でも、帝国の領土拡大政策がこのまま続き、この世界が私やワタル君がいた世界と同じ轍を踏むことは避けたい」
「キリト様やワタルさんの世界では、一体何があったのですか?」
ティムが聞いた。キリトが答える。
「2度にわたる世界大戦だよ。数千万人の命が奪われた」
ティムは言葉を失った。キリトは続ける。
「そのような事態にならないよう、ここで食い止めつつ、ミャウミャウ共和国が少しでも復興する道を探すしかないと思うんだ」
帝国のため、ミャウミャウ共和国のため、世界のため。誰かの利益になれば誰かの損になる。ギリギリ許容できる着地点を見極めていくしかないのだろう。
何となく沈んだ雰囲気になる中、ワタルがおそるおそる皆に聞いた。
「あの……皆さん、ミャウ族のレジスタンスのリーダーに会ってみませんか?」
「えっ!?」
キリト達は思わず声を上げてしまった。




