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12 第三の道

 翌朝、キリトは、ティムが私室のドアをノックする音で目を覚ました。


「おはようございます、司政官。昨日は遅くまで起きていらしたのですか? 寝不足のお顔ですよ」


 ティムが笑いながら朝のお茶をベッドサイドのテーブルに置いた。キリトが苦笑しながら答える。


「ああ、ワタル君の話を思い出して、なかなか寝付けなかったよ」


「異世界の話ですか? ほんと面白かったですね。『お餅』が気になって、夜中にお腹が空いてしまいました」


 そういってティムが笑った。赴任初日は怖がってほとんど話をしてくれなかったが、最近はこのようにティムから話しかけてくれるようになった。ちょっと嬉しい。キリトも笑った。


 キリトは、お茶を頂いた後、ティムが用意してくれた軍服に着替え、食事室へ向かった。

 公邸料理人が作ってくれた朝食を取った後、これまたティムが用意してくれた司政官の法服のようなガウンを羽織り、官用車で登庁した。

 至れり尽くせりで、何だか申し訳ない気分だ。



† † †



「昨晩は色々お話を聞いていただきありがとうございました」


「こちらこそ、私を信じて色々と話してくれてありがとう」


 登庁後、長官室で各局長に昨日の懇親会のお礼を伝えた後、キリトはワタルにもお礼を伝えたいということで、ワタルを長官室に呼んだ。

 長官室のソファーに向かい合って座り、キリトがワタルに小声で話し始めた。


「昨日の話なんだけど、第三の道はないかなって考えてる」


「第三の道、ですか」


「うん、皇帝陛下の密命の目的は、南方侵攻の阻止だ。そうであれば、復興を進めつつ、かつ、内戦は起こさずにその目的を達成することはできるんじゃないかなと思ってね」


 キリトは腕組みをした。話を続ける。


「ミャウ族のためにはなるけど、反発も受けるであろう復興策を急ピッチで進め、それによってミャウ族の不満を高めるんだ」


「その後、ミャウ族による武装蜂起ではなく、自治権拡大運動につなげていく。軍が手を出しにくい環境を作り出しつつ、あらゆる手を使って帝国内の厭戦(えんせん)感情を高め、南方侵攻計画を政治的に断念させるんだ」


 そこまで話してから、キリトは苦笑した。


「まあ、あくまで理想であって、具体的にどうするかは何も決まってないけどね」


「も、もしそれができれば、ミャウ族の被害を食い止めつつ、皇帝陛下の密命に応えることができます」


 ワタルが目を輝かせた。絶望していた未来に、一筋の光明を見い出したようだ。


 ミャウ族に一定の犠牲は出るであろうことを明確に伝えなかったキリトは、胸が苦しくなった。だが、ワタルに今必要なのは希望だ。キリトは自分にそう言い聞かせた。


 キリトは続けた。


「ただ、この理想を実現するには時間がかかるし、『内戦を引き起こせ』という皇帝陛下の密命には直接応じないことになる」


「それがバレれば、皇帝陛下をはじめとした良識派は、我々を切り捨てて、もっと過激なことをするかもしれない。慎重に進めよう」


 キリトの話を聞いて、ワタルが腕組みをして考え込んだ。しばらくして、ワタルがキリトに言った。


「近々、レジスタンスの会合があります。僕が内戦を引き起こす工作をするフリをしてみましょうか」


 ワタルが言った。キリトが心配して聞く。


「大丈夫かい? 君の真意に反することを言うことになるし、レジスタンスでの君の立場が悪くならない?」


 ワタルが暗い顔で答える。


「皆に嘘をつくのは辛いです……ですが、レジスタンスの中には僕以外にも良識派とやりとりをしている者がいるはずです。僕が何も動いていないことが良識派に伝わってしまうと……」


 確かにその可能性は否定できない。優しく誠実なワタルとしては、断腸の思いだろう。


「決して無理はしないでね」


「ありがとうございます。成功するか分かりませんが、やるだけやってみます」


 キリトの言葉にワタルは笑顔で答えた。カラ元気のように感じた。

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