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10 懇親会②

 自分は死んだ。その事実を突きつけられて、キリトは深くため息をついた。


 まったく実感がわかない。おそらく、寝ている間に病気か何かで死んだのだろう。苦しまなかっただけマシと思うしかない。


 キリトは苦笑しながらワタルに聞いた。


「それにしても、私は何も承諾した覚えはないんだけどね」


「事故で一部の記憶が失われたのかもしれません。あの時、間違いなく承諾をいただきました。承諾がなければ召喚できません」


 ワタルはそう言った。覚えていないが、少なくとも当時の自分は承諾したのだろう。すぐにあの世へ行くよりは、別の世界で何かをしてみたいと思ったのかもしれない。


「まあ、アクシデントはあったようだけど、ワタル君の後任としてこの世界に来たんだ。ワタル君の後を継いで1年間頑張るよ。何をすればいいかな?」


 キリトは笑顔で言った。それを聞いたワタルが、突然泣き出した。



† † †



「ど、どうしたの?」


 ワタルが突然泣き出したので、キリトは慌てた。中身は大人とはいえ、子どもが悲しい顔をして泣く姿を見るのは辛い。


「ぼ、僕はもう、どうしたらいいのか分からなくて……」


 ワタルは相当悩んでいたようだ。とめどなく涙が流れる。


「相当辛いことがあったようだね。話してごらん。少しは気が楽になるかもしれない」


「ありがとうございます。取り乱して申し訳ありません……」


 キリトが優しく促すと、ワタルはハンカチで涙を拭き、キリトに話し始めた。


「レジスタンスは、帝国の急進的な領土拡大政策をよしとしない帝国内のグループ、我々は『良識派』と呼んでいますが、その支援を受けています」


「ミャウ族のレジスタンス活動は、情報収集や救民活動が中心で、過激なことは行っていなかったのですが……」


 ワタルはそこで言い淀んだが、続きを話し始めた。


「……先月、その良識派のトップから僕に密命があったのです。ミャウ族が武装蜂起するよう誘導し、第36区が内戦状態になるように仕向けろと……」


 ワタルは力なく(うつむ)いた。そのまま話を続ける。


「第36区は、帝国の南方侵攻の(かなめ)です。ここで内戦が起きれば、南方侵攻計画は足下から揺らぎます。良識派のトップは、そこから南方侵攻を中止する方向へ持って行きたいようなのです」


「確かに、南方侵攻計画が頓挫すれば、帝国だけでなく南方諸国の数多くの人の命が救われます」


「この中央大陸には帝国以外に大国はありませんが、南方大陸には帝国に匹敵する大国があります。両大国が激突すれば、この世界初の『世界大戦』に繋がりかねません」


「ですが、第36区が内戦状態になれば、ミャウ族の多くの命が奪われます。ミャウ族はどうなってもいいのでしょうか」


 ワタルが苦しげな表情でキリトを見た。


「頭では分かっているのです! 帝国や世界全体の平和のため、必要な犠牲なんだと……ですが、僕にはどうしても実行できませんでした」


「それで、僕は後任の任期付召喚職員の条件を『戦後の復興の歴史に詳しい人』にしてもらいました。そういう人であれば、仮に内戦になったとしても、少しでもミャウ族の犠牲を少なくできるのではないかと思ったのです」


「ですが、その召喚に失敗し、後任への引き継ぎは諦めかけていました。しかも、良識派のトップは、第36区の新しい司政官に冷酷で有名な方を任命して、ミャウ族の不満を煽ることにしたと聞いて、半ば絶望していました」


「まさか、その冷酷で有名な司政官の身体に、僕が後任にと考えていた方の魂が入るとは……奇跡です」


 ワタルは再び目に涙を浮かべ、慌ててハンカチで涙を拭った。


 ワタルの苦悩を考えると、キリトは胸が締め付けられるような気持ちになった。何とか助けになってあげたい。


「そのトップって誰なの? 良識派って言うくらいなんだし、再考してくれるんじゃないの?」


「残念ながら直接連絡できる手段がなく、再考を具申するのは難しいです。その、トップは……皇帝陛下です」


 予想外の名前に、キリトは驚いた。

続きは明日投稿予定です。

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