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「本当にあった怖い話」シリーズ

道標

作者: 詩月 七夜

学生の頃、先輩から聞いた話。


先輩が小学生の頃、夏休みに田舎にある親戚の家に遊びに行った。

そこは静かで自然豊かな土地で、山に囲まれたのどかな村だったという。

小さい頃から何度か遊びに来ていたこともあり、村で顔見知りになった子どもたちもいたそうだ。

で、夏休みのたびに帰省しては、その子たちと一緒に遊ぶのが常だったらしい。


先輩が小4の夏のことだった。

その年も親戚の家に遊びに行き、地元の顔なじみの子どもたちと再会した先輩は、早速一緒に遊び始めた。

何もない田舎だが、外で遊ぶ場所には事欠かない。

山には探検や虫捕りができる森があるし、秘密基地も作り放題。

沢では跳び込みもできるし、魚釣りだってできる。

駄菓子屋で買い物をし、神社の境内で菓子を食べ、かくれんぼやごっこ遊びも楽しめた。

とにかく都会ではできないことができ、車や自転車の往来も少なく、交通事故の心配もない。

騒音に敏感な口やかましい大人もいないため、子どもたちは自由に遊びを謳歌できた。

そうした遊びの天国みたいな田舎で、先輩たちは近くのある山に向かった。

目的は探検である。

地元の子どもによると、夏になる少し前に山の中にあるトンネルみたいな遺構を見つけたそうで、先輩が帰省してくるのを待って、大人たちには内緒で探検に行こうと計画していたんだそうだ。

で、待ちに待った先輩が帰省した日が来たというわけである。

準備をした先輩たちは早速山に向かった。

何でも目的であるトンネルは山の中腹にあるという。

その途中の道は結構な山道で、地元の人間でも滅多に分け入らないらしい。

だが、遊びに飢えた好奇心旺盛な子どもたちは、たくましい探求心で山道を踏破。

トンネルまでの道筋を覚えていたという。

それを聞き、先輩も安心して一行に加わった。


が、道は想像以上だった。

途中までは舗装された道があり、自転車で行くことができるのだが、脇道にそれると砂利道に変わり、やがでそれも消えた。

先輩はおっかなびっくり地元の少年たちの後をついて行ったという。

途中、変則十字路の分かれ道になった時、地元の子どもが言った。


「ここがよく迷うポイントなんだ」


成程、道標もないし、風景にも特徴が乏しいので、うっかりすると帰り道が分からなくなってしまいそうだ。

慣れていない先輩だと、本当に帰り道とは違う道に進んでしまいそうだった。

息を飲む先輩に、地元の子が続けた。


「心配しなくても大丈夫。俺たちだけの目印があるんだ」


そう言う地元の子が一本の大きな木を指差す。

すると、その木の幹には赤いラッカーで矢印が書いてあった。

この矢印の方向に進めば、帰り道だということらしい。


「で、この矢印の反対が秘密のトンネルの場所なんだ」


それから先輩は、意気揚々と進む地元の子らとトンネルのある場所に進んだ。

そして、程なくするとトンネルの入り口が見えた。

入り口は割としっかりしているつくりになっている。

地元の子らが仕入れた情報では、昔に作られたものだが、開通を前に計画がとん挫したらしく、以来、放っておかれているらしい。

トンネルの中は暗いが、少したら行き止まりになっており、ちょっとした穴倉になっていた。

夏だが中は涼しく、崩落の心配も少なさそうだ。

先輩たちは早速改造をを始め、自分たちの新しい秘密基地に仕立て上げた。

そうして満喫した後、日も傾き始めたので帰宅することにした。

わいわいと盛り上がりながら、例の変則十字路にたどり着く。

先輩は赤い矢印を確認しつつ、矢印の方向へと向かった。

しかし…


「…なあ、何かおかしくないか?」


進む方向の景色が、来た時と違う気がする。

妙に無言になる地元の子どもたちに、胸騒ぎを覚えた先輩がそう声を掛けた。

すると、それを皮切りに子どもたちが騒ぎ出した。


「俺もそう思った!」

「何か違うよな!?」

「でも、矢印はあってたぞ!?」


軽くパニック状態になる一同。

しかし立ち止まっているわけにもいかない。

日がどんどん暮れ始めているのだ。

恐怖に後押しされるように、先輩たちは先を急いだ。

そうして、ありえないことが起きた。


何と、目の目に例のトンネルが姿を現したのである。


全員が息を飲んだ。

彼らは変則十字路からほぼ一直線に進んでいたはずなのだ。

なのに、目の前には来た方向にあるトンネルがある。

恐怖が限界に達したのか、一人の子どもが、


「早く逃げろ!」


と叫んで、駆け始める。

それにつられて全員が後を追った。

途中、転んだり、荷物を放り出したりしながら、先輩たちは再び変則十字路にたどり着いた。


「あっちだ!」

「今度こそ間違いないよな!?」


全員で何度も確認し、矢印の方向へと向かう。

走りながら、半泣きになり、木の枝に引っ掛かりながらも走り、先輩たちはようやく舗装された道路までたどり着いた。

あとはもう自転車にまたがり、一目散に下山したという


翌日、あり得ない体験をした先輩たちはよくたまり場にしている神社の境内に集まり、昨日の一件について話し合っていた。

昨日の道行きを思い出し、あれこれ話していると、先輩たちは一人の少年が妙に無言なのに気付いた。

よく見たら顔色も良くない。


「どうしたんだ?」


最初は「何でもない」と言っていたその少年は、しつこく追求され、重い口を開いた。


その少年は道に迷い、トンネルに戻ってしまった後、立ち尽くす一同の中でただ一人だけ「あるもの」を目撃してしまったという。


それはトンネルの中から手招く無数の青白い手と、ぼんやりと浮かぶ顔たちだった。


それを見た瞬間、少年は「早く逃げろ!」と叫び、逃げ出したんだそうだ。


最後に。

その先輩が語るには、昔、そのトンネルでは工事中に事故があり、亡くなった人たちがいたらしい。

けど、それが工事中止の理由なのかは分からないという。

また「あるもの」を目撃した少年は、今も毎年、夏になるとトンネルに線香を立てに行っているそうだ。

「それが、見てしまった俺の役目なんだろう」と、中年になったその少年は言っているという。

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