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ハニホヘと彩葉  作者: 創造主(犬)
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和傘をもつ男

また、白い着物を着た人が舞台袖から歩いてくる。

白い着物を着た人は右手に赤い和傘をさして、座布団に座る。

座布団に座ると、優雅な動きで和傘を閉じた。

1回手を叩くと周りが暗くなり、前には無かったはずのスクリーンが、上から降りるように現れた。

モノクロのスクリーンに映し出されていたものはまた別の紅い和傘をさしている男の姿。

かすかに聞こえる砂嵐の音、少しして砂嵐の音が静かになると同時に白い着物を着た人の声が流れてきた。

「また、奴は同じ過ちを繰り返す···足掻いて、足掻いて、足掻いたところで全て無駄に終わる···。そう分かっているはず、だが奴は再び繰り返す」

スクリーンにうすし出されていて砂嵐で見えにくかった男の顔が鮮明に映し出されていき、モノクロから色がついていく。

「その化け物の名は―」


―ハニホヘ―


8月3日 AM11時13分 神社

「···は?」

しばらくの沈黙が辺りを支配していた。

彩葉は知りもしない人からいきなり罵倒を受け、思考が完全に停止していた。

十分すぎる程の時間が経過したあと、和傘をもつ男は口を開いた。

「君は俺が見えるだろ」

彩葉は衝撃を受けた。

今、目の前に立っている奴は化け物だということに。

様々な疑問が頭を過ぎる中、一つだけちゃんと聞かなければならない。

なぜ、化け物と会話ができているのかと。

彩葉が今まであってきた化け物達は、話が通じなかったり、攻撃的なものが多かった。

話せたとしても、意味の分からない言葉を繰り返すだけだ。

しかし彼は会話をしている。

つまり、自分の目的への情報が増えるということだ。

彩葉はこの知りもしないような化け物に今まで感じなかった感情を抱いた。

彩葉は今に至るまで、愛情と言えるものを受けたことがなかった。

だから今まで一番愛を与えてくれるだろう人、父と母を探していた。

でも、本当に父と母を探すことは愛を受け取る事になるのだろうか。

でも父と母が愛をくれるとは限らない。

ならもっと他の人を探していればよかったのではないだろうか。

彩葉は過去に何度もそう考えた。

が、普通の人からしたら気味の悪い少女へ愛を与えようとする人はいなかった。

彩葉に向けて愛をくれる人はいなかった。

今までの人生がそうだと教えてくれる。

なら、もう人じゃなくてもいいじゃないか。

そうだ、私は愛さえくれればいい。

和傘をもつ男はしばらく時間が経過しても反応しない彩葉に痺れを切らしたのか喋り始めた。

「ま、それだけさ。俺達が見えていようが見えまいが俺には関係ないからな」

そう言うと後ろを向いて歩きはじめてしまった。

駄目だ、行かせてはいけない、初めて出会った唯一会話ができる化け物なんだ。

激しい喜びに似た感情が、彩葉を走らせた。

彩葉は自分らしからぬ動きで、目の前の化け物の袖を掴む。

「···なんだよ」

振り向いてくれた。

あと、やる事はただ一つ。

「一つ、お願いがあるの」

彩葉の今までの人生で初めてのわがまま。

「私を···紅い門の先へ連れて行って」

彩葉の人生は、今初めて動き始めた。


AM同時刻 あちらの世界の入り口

妖怪の世界、通称あちらの世界は三つの階級に分かれている。

まず最上位の世界、上界。

上界にはあちらの世界を支える中心部の機能があり、ゲームに食事や運動等の娯楽は勿論のこと、仕事や自分のやりたい事ができる自由な世界。

そしてその次が心界で、最も妖怪達が住む世界。

この心界は、基本的に人間界と何ら変わらないが、ルールが少し緩い事や仕事の種類が少し多い等、かなり住みやすい世界。

そして最後の世界が下界である。

下界は本当に悪い事をした妖怪を更生させる為の最終処置。

それでも更生できなかった場合地獄に落とされる。

より上位の妖怪が上界へ登り、そして下位の妖怪が下界へ降ろされている。

上界に住んでいる妖怪を怪と呼び、心界に住んでいる妖怪を妖と呼ぶ。

そして下界にいる妖怪の事を戎と言われている。

そして、この三つの世界を管理する組織がある。

あちらの世界での最高権力者である閻魔大王を筆頭とした管理組織。

牛頭鬼、馬頭鬼などの鬼を部下とした組織によって、あちらの世界の並行をたもっているのである。

そして、閻魔大王らによって管理されている世界こそ妖怪の世界、あちらの世界である。

今、私達のいる人間の世界から、あちらの世界へ繋がる入口は必ず心界に繋がっている。

「そして今、ここにいる訳だが···」

ここは心界の入口、紅い門をくぐった先にあるあちらの世界入口。

「何度も言うようですが通行許可証を出してください!そうでないと心界には入れられないルールなんですよ···」

青い一つ目の鬼らしき妖が少し涙ぐんだ声で話していた。

その妖は鬼らしく、その肉体は大きな岩を彷彿とさせるほどの筋肉に人の二倍はあるだろう身長、そんな鬼の妖が木製の小さい椅子に窮屈そうに座っていた。

「宛はあるから早くどうしてくれよ〜な?、通してくれたら報酬は弾むからさぁ〜」

「その言い方絶対宛てないじゃないですかー!」

鬼の妖が優男にそう言っていると後ろの方からかなりドスの効いた低い声がかかった。

今度は赤い三つ目の鬼、少し違うのがこの青い鬼より一回り大きいことだ。

「ちょっとお兄さん、こっち行きましょうか」

優男はどこかに引っ張られて行った。

「全く困るんだよなぁ···ああ言うやつ···まぁブツブツ行っても仕方ないか···あ、お次の方どうぞー」

狭い小部屋に連れていかれた優男は、赤い鬼の妖にすごい目付きで見つめられていた。

まさにこの状態は尋問のような雰囲気を出していた。

「お名前は?」

「ふっ、名乗る程のもn···」

目の前で机が叩き割られた。

「···お名前は?」

「半澤博史です···」

名前を聞き出した妖は、叩き割られた机を無理やり立たせて名前を書いた。

「なぜこちらへ?」

「いや、ほんと、野暮用で···」

「野暮用でこちらの世界へ来ますか?」

「···」

あまりにも正論だ。

博史は返す言葉も無く、しばらくの沈黙が続く。

しびれを切らしたのか鬼の妖はしばらく外へ出ていってしまった。

胃が痛くなる程の張り詰めていた空気が弛緩していくのがわかる。

しばらくたった後、誰にも聞こえないほど小さく博史は呟いた。

「···ったく一体いつになったら来るんだよ、あいつはよぉ···」


PM0時01分 神社


「なんで···あんな所に行きたいんだい?」

静かに質問をしてきた。

まるで行くべきところではないように。

彩葉は少し考え、自分が何故行こうとしているのか答えることにした。

「···私は今まで生きててよかった、なんて思ったことが一度もないの。

だから思ったの、本当に居るべきところがここなのかって···」

彩葉は前に居る化け物に目を合わせる。

「だから、あなたに連れて行って欲しいの」

一陣の風が吹き抜けていった。

「僕は、君を連れていったって問題は無い。

もしあちらの世界で君が殺されようと生かされようと僕には関係がない」

「それでも私は行く」

はっきりと化け物の目を見据えた。

その時、化け物は少し昔の事を思い出した。

それは何年前かも忘れてしまったある時の記憶。

春の心地よい陽の光が当たる日、化け物は少年と出会った。

自分の目の前でうるさく泣く少年。

目障りだ、鬱陶しい、普通の化け物はそう思うであろう。

でもその化け物は他の化け物達には持っていない感性があった。

簡単に言うとその化け物は普通ではなかった。

なにかあったのか知らないが顔を涙でぐしゃぐしゃにした少年の目の前に赤いチューリップを置いてやった。

少年からしたら何も無い所から急にチューリップが出てきて困惑しただろう。

少年はすぐに立つと周りを見渡した。

「誰かそこにいるの」

少年はその化け物を呼びかけた。

その化け物は答えるように木の棒を手に取りいるよと地面に書いた。

その時からだ、その化け物は少年と行動を共にするようになったのは。

少年はその化け物から勇気や楽しさを教わり、化け物は人間の興味深さを知った。

共に笑い、怒り、悲しみ、楽しむ。

少年はその化け物と共に感情を分かちあっていったのだ。

しかし少年は人間である。

いつしか、必ず別れの日がやって来る。

少年から青年、成人を迎えいい歳をした老人になった。

そして動くことが無くなり、病室に寝たきりでいた。

「···長かったな」

しわがれた声でその化け物を呼んだ。

その老人の目の前には赤いチューリップが浮いていた。

軽く微笑むと老人はその化け物にゆっくり語りかけた。

「俺は、お前と会えて人生最大の幸福だった。

お前のおかげで妻もできたし、可愛い孫にも恵まれた。

でも、ずっとお前さんと一緒にいることは出来ないみたいだ。

俺はお前さんが何者なのかも知らないが、ずっと一緒にいてくれて嬉しかったよ」

その老人は化け物からチューリップを受け取ると、近くにあった花瓶に刺した。

「そういやぁお前さんとあったのも、この赤いチューリップが原因だったな。

お前さんがチューリップを出したせいで俺の人生がこんな鮮やかな物になっちまってよ、本当にありがとな。

···最後にこの老人の願いを叶えてくれるなら、お前さんを一目見てみたかったな···」

ゆっくり、目を閉じ始めた。

が、すぐに目を見開くことになる。

「へっ···最後の最後まで俺の願い事を叶えやがって」

目の前にいたのは赤い和傘をさした男、そしてこの老人の人生において、最高の友人。

「お前さんの名前は?」

「···ハニホヘ」

「ふっ···変な名前だな」

「うるせぇよ···じいさん。

それじゃああんたの名前も教えてもらおうか」

「そうだな、それじゃあ改めまして···俺の名前は琴乃葉琉生、見えもしない奴と親友になりいい人生を送ってきたヨボヨボのジジイだ」

「琉生···か、そっちも変な名前だな」

「そうか?俺は普通だと思うんだがな」

2人の静かな笑い声が響いた。

「···ハニホヘよぉ、このジジイの最後の願いを聞いてくれやしねぇか?」

「最後なんて縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよ」

「···この俺の孫を守ってやってくれねぇか?」

「孫?」

「あぁ、お前にしか頼めねぇ事だ。

頼んだぞ」

「そうかよ、頼まれとく。

···そういゃあその孫の名前を聞いてなかったな」

「おう、そうだったな。

よく覚えておけよ、俺の孫の名前は」


ー彩葉ー


ハニホヘは目の前にいる少女に名を聞いた。

「お前の名前は?」

「私の名前は···琴乃葉彩葉」

そうかよ、あっちまったよじいさん。

これで、やっとあの時の約束を守ることができそうだよ。

ハニホヘは軽く笑うと彩葉に向かって言った。

「気が変わった。

いいだろう、この俺が連れて行ってやる。

ただし!俺の側から離れるんじゃねぇぞ」

彩葉はコクリと頷いた。

「よし」

ハニホヘは神社の賽銭箱に近付こうと歩き始めると、彩葉に止められた。

「まだ、名前も聞いてない」

「名前?」

全く、こういうところもあいつにそっくりだな。

「いいか?よく聞けよ。

俺の名前はハニホヘだ」

「ふふっ···変な名前だね」

本当にこういうところもあいつにそっくりだな···

「さぁ、いくぞ」

彩葉とハニホヘは5円玉を賽銭箱に入れた。

前に来たように古い神社から大きな紅い門へと姿を変えた。

ハニホヘと彩葉は綺麗な水の様な液体をかいくぐり、紅い門の前へと行き着いた。

こうして近くに来て見てみるとかなり年季が入ってるようで、所々に色が剥げたりしているが、その威厳さは失われてはいなかった。

その紅い門は木がきしむような音を出しながらその巨大な門を開いた。

そこに広がる景色は···

とても、美しかった。


白い着物を着た人は座る位置を直すように動いている。

そしてこちらにきずくと一つ、咳払いをして和傘を開いた。

「この2人はこれからどうなるのか、貴方には分かりますか?

検討もつかないでしょう。

なぜなら、私はまだ読んでいないから。」

その白い着物を着た人は深いお辞儀をし、再び手を叩いた。

―続く―

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