表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

2


 それから私は天気のいい日に庭でお茶をすることを止めた。また彼女が突撃してくる可能性を考えた結果だ。

 おかげであれから私は直接彼女に会ってはいない。だが、本館まで足繫く通っているようで入り口で執事長にあしらわれているようだ。


 全くエリオットは何をやっているんだか。ちゃんと説明すると言っていたのに。



 それから使用人たちのお陰で、愛人と会うこともなく日々は過ぎていった。


 私は屋敷の中を花で飾ってみたり、眠っていたアンティークの家具を引っ張り出して模様替えしたり自分が過ごしやすいよう手入れを行ったりして過ごしていた。


「若奥様、たまにはドレスや宝石など買われてはいかがです? 屋敷の備品ばかり購入されてご自分のは何も買っていらっしゃらないじゃないですか」


「ああ、いいのよ。ここへ来た初めにドレスとかいろいろ購入したので間に合っているから。最低限のものがあればそれでいいのよ」


「ですが、あの別館の愛人は高価なドレスや宝石をいつも旦那様に強請って買っているようです。正妻である若奥様が何も買わないのは…」


 本当にここの使用人たちは優しい。それだけで私は何とか精神的に助かっているのだ。

 愛人はエリオットに何でも買ってもらっているらしい。私は一応正妻だから使えるお金はある。だけど自分の為に使うことはしない。そんなことをすれば何を言われるかわからないからだ。だから使うのは屋敷の維持費や使用人達中心で使うことにしている。


 ニコラーク家は大富豪だ。エリオットは騎士だがその給金だけで愛人のドレスや宝石を買うことは出来ない。給金は少ないわけじゃないけれど、話を聞く限り購入している物を考えたらあっという間に破産する。

 エリオットが嫡男であることと、伯爵家当主からここへ資金が送られているのだろう。だけど当主様はそのお金のほとんどを愛人に使っていることをご存知なのだろうか。


 …それは私が考えることではないか。私が何を言ったところでどうにもならないことなのだから。



 そしてたまにある社交で当主の代わりにエリオットが出席する時は、私も彼と共に出席した。その時は契約書の内容通り仲睦まじい夫婦を演じていた。だけど、その翌日は決まって蕁麻疹が出るようになった。相当なストレスを感じているということだ。


 そして出席したパーティーはレイモンド様も出席されていた。その時は軽く挨拶を交わすだけにとどめておいた。お飾りの正妻だとバレていないといいのだけど。



 私が嫁いでもう少しで2年が経とうとしている時。エリオットが私の元へ訪ねてきた。


「1週間後、領地へと戻らなければならなくなった。1ヵ月くらいで戻る予定だが屋敷のことを頼んだ」


「かしこまりました」


「それと……」


「はい。なんでございましょうか」


「いや…。久しぶりに本館へ足を運んだが、屋敷の中が随分と変わっていて驚いた。君が指示したのか?」


 変わった? ああ、もしや花を飾ったり家具の配置を変えたりとかそういったことだろうか。


「はい。いつ何時お客様がいらっしゃるかもわかりませんので、屋敷の中をある程度手入れさせていただきました。何か不都合がございましたか?」


「いや、以前と違い華やいでいて雰囲気が明るくなった。やはり女主人というのは必要なのだと実感した」


 はぁ。さいでっか。


「不都合がなくようございました。ではこのまま続けさせていただきます。…それとお願いがございます」


「なんだ?」


「…愛人の方ですが、あれから何度か私に会わせるようこちらへ来ているようです。私は契約書通り、接触を避けるためお会いすることはありませんがエリオット様がいない間に頻繁に来ることも考えられます。エリオット様からも再度お伝えいただきたいのです」


 そう。彼女は全く諦めておらず何度も何度もこちらへ来ては、執事長に軽く追い払われているらしい。全くその執念は大したものだ。


「…わかった。改めて私の口から伝えておく」


 それを聞いて少し眉間に皺を寄せたエリオットは、1人別館へと帰っていった。



「…まさか屋敷の中のことを褒められるとは思わなかったわ」


「別館は何もそういったものはありませんしね。あの愛人が購入するのはいつも自分の物だけですもの。別館の内装などは一切興味がないですから、若旦那様も気が付いたのだと思いますわ」


 私が思わずそう呟けば、私付の侍女がそう答えた。


 別館は本館ほどではないが建物自体は立派だ。だけど愛人が癇癪を起し、花瓶などを叩きつけて壊したりするものだからそういった物は排除されたらしい。それなのにエリオットはそれに気が付いていないという。


「この本館を見て若旦那様も理解してくださればよろしいのですけど…」


 頬に手を当てため息を零す侍女。彼女とは違い、私は別に気が付いてほしくはないしどうでもいい。



 そして1週間後、エリオットは領地へと出発した。そして私の不安が見事に的中したのだ。


「ちょっと! 今まで何度も訪ねてきたのによくも逃げ続けてきたわね!」


 二度と会いたくない愛人が、使用人の目を盗み堂々と屋敷の中へと入って来たのだ。朝食を取りに食堂へ行く途中で運悪く彼女と会ってしまった。


「…あなたはここへ入ることは出来ないはずよ。今すぐ別館へお帰りなさい」


「エリオットにいじわるなこと言わないで! 私わかってるんだから! 私のことが邪魔でわざとあんなこと言ったんでしょ!? 許さないんだから! あんたみたいな悪女なんてエリオットに相応しくないのよ! 早くとっととどこかへ行きなさいよ!」


 ……またこの話。何度説明すれば理解するのだろうか。きっと一生理解なんてしてくれないんでしょうね。


「ジェニー様。こちらへの立ち入りは禁止されております。速やかに別館へお戻りください」


 愛人の大きな声を聞いたのか、誰かが呼びに行ったのか。恐らく両方だとは思うけど、執事長が慌ててここへ来て愛人を追い返そうと私を庇うように前に立った。


「あんたも邪魔よ! いつもいつも私の邪魔ばかりして! あんたなんかエリオットに言ってすぐクビにしてもらうんだから! 謝ったって許してあげないから覚悟しておきなさい!」

 

 また勝手なことを…。愛人がエリオットに言ったところでクビに出来るわけがないのに平気でそんなことを宣うなんて。ここの使用人たちの雇い主はニコラーク伯爵家当主だ。エリオットではない。それに愛人が気に入らないからと使用人をクビにすることなんてエリオットにだって出来ることではない。


「それとそこの性悪女! 私とエリオットの仲を邪魔しようとしてエリオットを領地へ返したでしょ!? 卑怯なことなんてしないで正々堂々と勝負しなさいよ! こうやって離されたって私とエリオットは永遠の愛で結ばれているんだから!」


 ……えーと。彼女は何を言っているのだろうか。私が2人の邪魔をするためにエリオットを領地へ送ったと、そう言った?? なんで私がわざわざそんなことをしなければならないのか…。


「何か勘違いされていらっしゃるようですけど、私はあなた達の仲を邪魔するつもりも意地悪をするつもりもないわ。エリオット様は用事があり領地へと戻られただけ。それを私のせいにされても困るわ。

 それにエリオット様からも言われているのでしょう? ここへ来ることはやめて欲しいと。だったら大人しく言われた通りにしていた方があなたにとっては良いはずよ」


「きー--っ!! 何よ正妻ぶって! エリオットは私のモノよ! 愛されないからって私にこんなことをしてタダで済むと思わないでよね! エリオットに言いつけてやるんだから!!」


 そう大声で叫んだあとは、執事長に引きずられるようにして別館へと帰っていった。


「……私『きー--っ!』って言う人、初めて見たわ」


 嵐が去った後、私がポツリと零すと周りにいた使用人たちがぷっと噴き出していた。



「若奥様、先ほどは申し訳ございませんでした」


 執事長が戻ってくるなり、開口一番謝罪がきた。


「いいのよ。あなたが悪いわけではないのだから。…それにしても困ったわね。エリオット様がいない間、毎日のようにここへ来る気かしら。それとあなたをクビにするとかも平気で言っていたけど…」


「入り口に見張りの兵士をつけておきます。当主様が認めていないのです。もう二度とこちらへ立ち入ることはさせませんのでご安心くださいませ。

 それと、今日のことですが当主様にお知らせいたします。流石にここまでのことは看過出来ませんから」


 今までエリオットにそれとなく愛人について苦言を呈してきたが、想像通り全く話を聞かなかったらしい。だけど今回のことは流石に見過ごせないようで、伯爵家当主に知らせるとのことだ。さて、そのことで彼女はどうなるのかしら。ま、私の知ったことではないけれど。



 それからは兵士のお陰で愛人がここへ入ってくることは出来なくなった。おかげで心穏やかに日々を過ごし1ヵ月後、エリオットが帰って来た。

 もちろん本館へ来ることはない。真っ先に別館へと戻ったようだ。



 あれから数日が経ち、執事長が私の元へとやってきた。


「若奥様…若旦那様には黙っておくよう言われましたがお伝えすべきだと思い、お話ししたいことがございます」


 心痛な面持ちで話を始めた執事長。聞くと、莫大な財産を築いたエメラルド鉱山からエメラルドが採れなくなったというのだ。それもとうに1年が経っているらしい。収入がガタ落ちした今、贅沢以上の贅沢を知った彼らはこの現状を打破するために更に深く掘り進めていくことを決定したそうだ。

 だが専門家が言うには採れたとしても微々たるものしかないだろうという。


「このままではいずれ、ここへ送られる資金もかなり減ってしまうことが予想されます。館を管理されている若奥様には知っていただいた方が良いかと…」


「…そうね。今まで館の維持費の為だけにしかお金を使ってこなかったから蓄えはあるはずよ。今からは出来るだけ質素倹約に務めます。食事もみんなと同じものを食べるわ。最悪なことを想定して骨董品などいつ売ることになってもいいように査定だけはしておいてちょうだい。そうならないことが一番だけど、わからないから準備だけはしておきましょう」


「そんな! 若奥様のお食事まで変える必要は…っ」


「いいのよ。私は元々没落寸前の貧乏時代を過ごしていたもの。質素な食事には慣れているわ。それに料理長の腕なら例え質素な食事でも美味しいはずだもの」


 「若奥様…っ」と侍女と執事長が涙を流している。…本当に質素な食事でも全然平気だからそこまで悲しまなくても大丈夫なのに。


 あとは愛人の浪費を抑えて欲しいところだけど、そこはエリオットが何とかするしかない。というか何とかしてほしい。だが恐らく無理だろう。今までのことを考えればあの愛人が言うことを聞くとは思えない。



 そして案の定というかなんというか。エリオットがドレスなどの購入を控えるよう言ったが全く聞き入れないという。


「若旦那様が『買ったドレスや宝石が沢山あるんだから、しばらく買わなくてもいいだろう?』と言ったら『酷い! 私、あの人にいじめられているのにエリオットまでそんなこと言うの!?』と泣いて泣いて大変だったみたいですよ」


 はぁ…。全くため息しか出てこない。


 私がいつ、どこであの愛人をいじめたというのか。むしろ関わりたくないと思っているのに。


「若奥様、本日の夜、若旦那様が夕食を一緒にとられるとのことです」


 侍女の愚痴を聞いていたら執事長から爆弾発言が飛び出した。


「え? 夕食を一緒にとるですって!?」


 それを聞いた侍女からは「やりましたね、若奥様!」と拍手喝采だが、私は処刑台に乗せられた咎人の気分だ。…嫌だ。物凄く嫌だ…。あいつと一緒になんか食べたくない。


 だけど私にそれを断る権利なんてあるわけはなく。とぼとぼと足取り重く食堂へ向かえばエリオットは先に待っていた。


「…アメリア。よく来てくれた」


「……いえ。夕食を共に、と伺いましたので」


 この人今私のこと名前で呼んだ!? 嘘でしょ!? 最初っから散々お前呼ばわりされていたのに!?


 内心かなり動揺しているが、顔には出さず(出さなかったはず)大人しく席に着き食事をとることにした。

 


「……………」


 …なんで何もしゃべらないのか。ただただ無言で食事をとるだけになっている。何か話があるから一緒に食事をとっているんじゃないのか。


 気まずい。非常に気まずい。


「……その。今までジェニーが済まなかった」


「え?」


 ただフォークを口に運ぶ作業をせっせと行っていたら、重い口を開いてエリオットがいきなり話しかけてきた。しかも謝罪を。


「私は今までジェニーの話だけを信じていたんだが、執事長をはじめ周りの人間に聞けば今までかなり酷い態度をとっていたらしいな」


「…一体どうされましたの? 急にそんなことを仰るなんて」


「領地に戻っていただろう? その時に執事長から手紙が送られてきて――」


 愛人が本館へ侵入し、暴言を吐き執事長をクビにするだの騒いだあの一件について執事長が知らせると言っていた通り、伯爵家当主にその話が無事伝わったらしい。その時の当主はかなり怒り心頭だったという。そしてエリオットの愛人に対する管理が不十分だとしてお叱りを受けたそうだ。


 当主はかなり傲慢な貴族の考え方を持っていて、平民の扱いは良いものではない。平民ごときが本館へ足を踏み入れたことが許せなかったらしく、今では別館にいることすら許せないらしい。今すぐ追い出せと言われエリオットが何とかするからと宥めている最中だそうだ。


 そしてエメラルドが採れなくなっている今、ここへ送られてくる資金もかなり減ることを知り愛人に無駄な買い物を控えるように伝えたが泣き喚くしかせず、ほとほと困り果てているらしい。


「聞けば君は一切自分の物を購入せず、館の維持費のみに使っていると聞いた。そして宛がわれた資金もしっかりと残し、最悪な状況を考えて対策もしていると。…そして自分の食事まで使用人と同じものを食べているとか」


「…執事長から聞きましたのね」


 彼の方へ非難するような目線を向ければただにっこりと微笑み返された。そんなこと別に言わなくてもいいのに余計なことを。

 だから今日はエリオットと同じ食事で用意してもらったというのに。


「…それなのにジェニーは高価な物を買うことを止めようとはせず、この前は勝手に商人を呼び寄せ宝石を購入していたらしい。もう二度と勝手にそんなことをさせるつもりはないが、しっかりした君からだったら聞いてくれると思うんだ。だから君からもジェニーに話をしてもらえないか?」


「はい? なんて仰いまして? なぜ私が彼女と話をしなければなりませんの? 以前あちらから接触された際、私の言うことを全く聞きませんでしたわ。むしろ私がいじめているだなんて言っているそうですね。

 そもそも私は契約通り彼女との接触は致しません。彼女への説明に関してはエリオット様がなさると仰ったのですから責任を持っていただきたいですわ。私はお飾りとはいえ、正妻としての働きはしていると思っております。エリオット様が付けられた条件なのですから、ご自分でなんとかなさってくださいまし」


 あまりにも自分勝手な発言に顎が外れるかと思った。自分で何ともならなかったから私に話をしろだなんて自分勝手すぎる。


「だが君は正妻だろう? 正妻だったら愛人の管理もするべきだ。夫が頼んでいるんだから君はそれに従うべきだろう。それにリンジー領の借金返済が出来たのも私のお陰だ。君は私の言うことに従うべきではないのか?」


「な…」


 なんですって!? じゃああの契約書は一体何の意味があるっていうの!? 信じられない…。


 だけど悔しいけれど借金返済が出来たのは紛れもなくこの人のお陰だ。不服だけども従うしかないのかもしれない。従わずにいて「金を返せ!」なんて言われたら私の家族にも迷惑が掛かってしまう。


「ではジェニーのことは頼んだからな。しっかりと話をするように」


 そう言い捨ててエリオットは食堂を出ていった。


 クズだとは思っていたけどここまでだとは思わなかった。だけど借金返済のために条件を呑んだのは私だ。怒りを呑み込むしか方法はない。これは家族とリンジー領の為だもの。


 部屋に戻ると侍女も「若旦那様には呆れました! なんて酷いことを仰るのか!」とカンカンに怒っていた。私が何とかやっていけているのも使用人たちが私に対して寄り添ってくれるからだ。本当に感謝しかない。





 そして翌日、愛人は本館へは入れないから庭でお茶会をするといって呼んでもらった。何があってもいい様に、侍女と執事長、そして護衛と見張りを兼ねて兵士を3名待機させておく。


 すると愛人がどたどたと足音を鳴らして現れた。


「ふん。来てあげたわよ。感謝しなさい。……それにしてもあなた随分貧相な恰好しているのね。どうせエリオットから何も贈られていないんでしょう? 可哀そうな人。早くここから出て行って私に正妻の座を譲りなさいよ、この悪女!」


 ………コレにどうやって話をしろというのか。最初から分かっていたけど、人の話をまともに聞く人じゃない。それに愛しいエリオットが話しても無理なら誰が説明しても無理でしょうに。


 なんてモノを私に押し付けたのか。


「ジェニーさん、と仰ったわね。随分と着飾っていただいて悪いのだけど、もう少し品のある組み合わせをした方がいいわ。ただギラギラと宝石を身に着ければいいってものじゃないのよ」


「ふん。負け惜しみ言わないでくれる? 自分がエリオットに見向きもされないから悔しいんでしょ? そうやって私をいじめたってエリオットにいいつけてやるんだから」


 はぁ。もう既に頭と目が痛い。指にはごてごてとした宝石が付いた指輪をいくつも付けて、ネックレスに髪飾りに統一感もない物がこれでもかとくっついている。これが素敵だと思っている彼女の感性を疑う。なんて下品なのか…。


「はぁ…。ジェニーさん。今日はその話をしに来たんじゃないの。あなたの散財が目に余るから止めてもらいたくてお呼びしたのよ。今見る限りでも十分に高価な物をお持ちだわ。エリオット様からも言われていると思うけれど、しばらくは高価な品物の購入を控えて欲しいの」


「はぁ!? 自分が買ってもらえないからって私にそんな事言うなんて最低ね! エリオットは優しいから私が欲しいって言えば買ってくれるの。残念ね。愛されない自分を恨みなさい」


 わかっていたけれど、全く話が通じない…。どうしたらいいんだコレは。


「…ジェニーさん、勘違いしているようだけど私は別にエリオット様に愛してほしいだなんて思っていないのよ。いつまでも2人仲良くいてくれればいいわ。だけど今散財をされるのは困る…「嘘よ! 愛されないからと言って私にいじわるしたいだけじゃない! 一体どこまで最低な悪女なのよ!」


 人が話している時に遮って被せてくるなんて…。


「もういいわ! エリオットが可哀そう。こんな悪女が正妻でずっと居座っているだなんて。あんたは一生エリオットに愛されることはないし見向きもされないみじめな女なの。いい加減自覚してさっさとここを出ていきなさい!」


 叫ぶように言い放つと、帰りも来たとき同様足音をドタドタと踏み鳴らして帰っていった。


「はぁ~…。もう私にどうしろというの…」


 お行儀が悪いことを承知で、テーブルに肘をついて手に額を乗せて打ちひしがれた。


「…若奥様。気をしっかり持ってください。あの人相手だと誰だって同じですわ」


 ああ、侍女の優しい言葉が心にしみるわ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ