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短編の予定でしたが少し長くなりましたので3話に分けました。ぽんぽんぽんと1日で更新します。

よろしくお願いいたします。


「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」


「…かしこまりました」


 初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。

 そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。


 なんでこんなことになったのか。言っとくけど親も兄弟も誰も私を虐げてなんかいない。むしろ「ごめんよアメリア! 私たちが不甲斐ないせいで!」と泣きながら最後は見送ってくれた。


 我がリンジー家は領地を持つ侯爵家。税収も安定していて、何不自由ない、というかかなり恵まれた生活を送っていた。

 だが領地にある、誰も入らない森の中にダンジョンが知らぬ間に出来ていて魔物によるスタンピードが発生。大量の魔物が押し寄せ、なんとか魔物を退治したものの領地は甚大な被害を被った。


 そしてその後しばらくして、復興中の領地を狙って多くの盗賊団が襲ってきた。こちらも何とか撃退したが被害は大きかった。


 それから2年後の今年の春、まだ復興の終わらない領地で大雨が降り続いた。その影響で川が氾濫。大災害を起こし畑はほぼ全滅、領民の家も押し流され多くの犠牲者が出てしまった。


 立て続けに起きた災害により、復興するために多額の金銭がかかった。蓄えていたお金は瞬く間になくなり、それどころか多額の借金をしなければならなくなった。もちろん国からも援助はして貰えたけど決して多くはない。

 私たちの生活も質素倹約に努め売れる物は何でも売ってお金に変えたけど、それでもまだ足りず。もう我が領地は立ち行かなくなり没落寸前まで追い込まれた。


 それによって私は10歳の時に婚約を結んだ方から婚約解消を告げられた。



 そんな時、ニコラーク伯爵家から私に縁談が持ち込まれた。


 ――借金を肩代わりする代わりに、アメリア・リンジー嬢との結婚を申し込む。


 20年前に上質なエメラルドが採れる鉱山が見つかってから、ニコラーク伯爵家は一気に急成長し一攫千金を築いた国内でもかなりの大富豪だ。


 もうリンジー家は終わりだ、と悲観していた我が家に降ってわいたような幸運。お父様には「これは有難い申し出だが、お前はどうする? 嫌ならばはっきりと言ってくれ」と聞かれ私は二つ返事で嫁ぐことを了承した。これで我がリンジー家が、我が領地が助かるならば安い物。

 「ああ、良かった。お前が嫌だと駄々をこねたら無理やりにでも嫁がせるつもりだったんだ」と言われたときは初めて殺意が湧いたけども。



 そして縁談を承諾する旨の手紙を出し、数日後。私の夫となるエリオット・ニコラーク様がお見えになった。そして冒頭のセリフへ戻る。


 正直言って「は? 何言ってんだこいつ」と思ったけど、この結婚を逃せばリンジー家は終わってしまう。顔には出さず(ちゃんと出さずにいられたと思う)了承した。

 

 なんでもエリオット様は心に決めた女性がいたらしい。だがその人は平民で結婚が認められない。それで貴族女性で愛のない結婚、かつお飾りでもいいと了承してくれる令嬢を探していたのだそうだ。その時、多額の借金を抱えたリンジー家を発見。これ幸いと私に縁談を申し込んできたのだ。


 親である伯爵家当主も、きちんとした貴族女性を妻として迎えるならば愛人として囲うことは認める。そう言っているらしい。


「お前は正妻となるがお飾りだ。私の愛はただ一人。その人の為だけに捧げている。真実の愛なんだ。お前とは白い結婚となるが許せ」


 しかも「お前」。一応私は侯爵令嬢であなたよりも上の爵位の令嬢なのだけど。それなのに「お前」。

 それになーにが「許せ」だ。てめーみてぇな傲慢野郎との白い結婚、願ったり叶ったりだっつーの。ふざけんな。


 …あら嫌だ。はしたないお言葉でしたわ。ほほほ。


 もう第一印象からして最悪だったエリオット様。いや、もうエリオットでいっか。「白い結婚」なんてこちらからお願いしたくらいだ。そもそも政略結婚なのだ。愛がなくても構わない。

 でもいくら家の借金返済の為の結婚だったとはいえ、もし相手が誠実な人ならば私もその人を支えていこうと思っていた。だけどこんな最悪な人だったなら「白い結婚」はむしろ万々歳だ。操が守られる。


 エリオット様、あ、違った。エリオットはニコラーク伯爵家の嫡男。でも剣の才能があったエリオットは騎士で王国騎士団に勤めている。それで普段は王都に住んでいて、その他の家族の皆様は王都から離れた領地に住んでいらっしゃる。

 嫡男なのに騎士をやっているのもエリオットが30歳になるまでらしい。その後は領地に戻り当主を引き継ぐそうだ。



 因みにご両親はその愛人を囲うことを認めてはいるが、平民である彼女が本館に足を踏み入れることを許していない。だから愛人は新たに建てたこぢんまりとした別館に住んでいるという。

 だが私は正妻となるため、住むことになるのは本館だ。そのことについて愛人から何かを言われそうだな、と思ったら。


「結婚契約書を用意した。これを読んでサインしてほしい」


 そう言われて差し出された書類に目を通す。書いてあったのは

 一つ、正妻としての権限を与えるが愛人となるジェニーに対し不当な振る舞いはしないこと。

 一つ、公の場に出る場合は仲睦まじい夫婦として演じること。

 一つ、ジェニーに子が生まれたら自分の子として育てること。


 上から二つ目までは別に良い。だが最後のはどういうことだ。愛人が育てればいいのになぜ私が育てなければならないのだ。


「…質問がございます。私が子育てをする理由を教えてください」


「私は嫡男だ。跡継ぎが必要となる。お前が育てる理由は貴族としての教育を望んでいるからだ。家庭教師はもちろんつけるが、貴族としての振る舞いなどはジェニーでは教えることが出来ない。だから子が生まれたらお前の子として申請する」


「それは愛人の方は了承するのですか?」


「問題ない。私がしっかりと説明すればわかってくれるはずだ」


 …本当かよ。


「では、もう一つ質問です。私はその愛人の方と接することはないと誓いますが、もしその愛人の方から接触してきた場合はどうしたらよいでしょうか?」


「そんなことなどあるはずがない。ジェニーは守ってやらねばならないほど弱々しく、だがとても賢く優しい人なんだ。だが、私が正妻を迎えたことで落ち込むだろう。だがそれでお前に何かを言うような人ではない。私がしっかりとお前はただの飾りだと説明しておくからな」


 …さいでっか。その言葉に嘘がないことを祈るのみだ。

 

 この契約書について物申したいことはある。だが、家の存続が掛かっている結婚だ。私に不満を言う権利はない。

 そう思った私は何の不満も愚痴も零すことなくサインをした。





 私が嫁いでから。お屋敷にいる使用人達も私のことを認めず、きっと肩身の狭い思いをするのだろう。と思っていたのだけど。


「若奥様、お食事のご用意が出来ました。料理長が若奥様の為に腕を振るいましたので存分にお楽しみください」


 と言われ出てきた食事は、想像以上に豪華な食事。腐りかけの食事でも用意されると思っていた私は拍子抜けした。


「湯あみの後は若奥様をピカピカにさせていただきます!」


 と全身を素晴らしいエステ技術によってピカピカに磨き上げられた。おかげで髪も肌もツルツルだ。


「今日はお天気もよろしいですし、お庭でお茶でもいかがですか?」


 と庭へ出れば可愛いテーブルセットに美味しいお茶とお菓子。このお菓子も料理長がわざわざ作ってくれたらしい。美味しいだけじゃなく見た目も可愛い。



 居心地良すぎ~…。



 想像してたのと全然違ってかなりびっくりしている。旦那様はもちろん、私に会いに来ることはない。別館にて愛しい愛人と共に過ごしている。だからなのか、屋敷の使用人たちは私にとても気を遣ってくれるようだ。むしろ――


「全く若旦那様も騎士としてはとても優秀な方らしいんですけど女性の趣味がちょっと…」


 とか


「あの人のどこがいいのか私たちにはさっぱり。平民出なのにまるで王女様にでもなったかのような横暴な振る舞い。別館に行くのが嫌です」


 など。ありとあらゆる愚痴を吐いていた。おかしい。確かエリオットは『守ってやらねばならないほど弱々しく、だがとても賢く優しい人』だと言っていたはずなんだけど。 



「気持ちはわかるけどあまり人の悪口は言わない方がいいわ。どこで誰が聞いているのかわからないわよ」


 と言えば、「若奥様! なんと出来た方なのでしょう! 若旦那様も早く目を覚ませばよろしいのに」と言われた。私は一生目が覚めなくていいのだけど…。


 



 ある日、ずっと館に引きこもっているのも飽きたので侍女と護衛を連れて街へぶらりと出かけた。何か欲しい物があるとかじゃないからただのウィンドウショッピングだ。たまにはこうして外に出て違う景色を見たかったのだ。


「アメリア!? アメリアじゃないか!」


 近くのカフェにでも入ろうかと思っていたら、ふいに名前を呼ばれた。声のする方向へ顔を向けるとそこには学生時代の友人であるレイモンドがいた。


 ――レイモンド・アデルーク公爵令息様。学生時代に仲良くなった友人の一人。

 

 彼はとても頭がよくて顔もいい。家柄もよくて男性からも女性からも人気があった。

 そして彼と彼の婚約者とも気が合って、私の元婚約者も合わせてみんなで一緒に過ごすことが多かった。


 そして私の初恋の相手。


 レイモンド様の婚約者のセセリア・モルトラン公爵令嬢様はお美しいのはもちろん、とても明るくて少しお転婆だけどとても気のいい方でレイモンド様とお似合いだった。だから私は嫉妬することはなかったし、2人の仲睦まじい姿を微笑ましく見ていた。


 そう言えば公爵令嬢なのに『商人になって世界中を回りたい』だなんて爆弾発言をした時は驚いた。冗談だとわかっていたから『実現すると良いですね、成功したら教えてくださいね』なんて言って皆で笑っていた。懐かしい思い出だ。


 

 レイモンド様が初恋の人だとはいえ、お互い婚約者がいる身。想いを伝えるなんて愚かなことはしない。私たち4人で過ごすことがとても居心地が良かったのだ。

 ただの友人として過ごし、そして去年そのまま卒業した。

 


 そんな彼は今頃、家を継ぐために忙しいだろうになぜこんなところで再会するのか。あら? そういえば結婚式の招待状はまだ送られてきていなかったような。


「アメリア、久しぶりだな。元気だったかい?」


「ええ。お陰様で。レイモンド様も…あ、失礼いたしました。アデルーク様」


 つい学生時代のことを思い出して馴れ馴れしく話してしまった。もうそんなこと出来はしないのに。


「やめてくれ。昔のように接してもらえると嬉しい。もう学生ではないけど親友だろう?」


 本当にこの人はあの時のまま、いつだって優しくて心を砕いてくれる。


「それにしても領地へ戻ったんじゃなかったのかい? 確か今年の春ごろ、大雨で大変なことになったと聞いている。婚約していたラマーニ侯爵令息とそろそろ結婚するはずだろ? それなのに王都にいるなんて何か用事でも?」


 ラマーニ侯爵令息様。私と婚約解消した方。その方は私のリンジー領の隣で王都からは離れている。社交シーズンなどでない限り王都に来ることはない。


「……それが」


 これは言ってもいいのか。どうしようかと考えあぐねているとレイモンド様は「もしかして何かあったのか?」と聞いてきた。


「あの…実は私、別の方と結婚いたしましたの。それで今は王都にいるのですわ」


「え? 別の人? え? 誰と? いつ?」


 切れ長の目がこれでもかと見開かれ相手は誰なのかと質問されるレイモンド様。


「あの…ニコラーク伯爵家のエリオット様ですわ」


「ニコラーク伯爵家の、エリオット…」


 どうされたのかしら? 呆然とされて。


「…それはどうして? と聞いてもいいかい?」


 隠してもしょうがない。どうせちょっと調べればわかることだから。


「ご存知の通り、私の領地は今年の春に大雨による大災害に見舞われました。それで、今までの被害と重なってかなりの借金をせざるを得なくなりまして…。お恥ずかしい話なのですが、ラマーニ様との婚約が解消になりましたの。それでエリオット様が借金の返済をしてくださるとのことであちらから婚姻の打診が来ましたのよ」


「………そうだったのか」


 あら? かなり肩を落としていらっしゃるように見える。…きっと優しい方だから、リンジー領がこうなったことで起こった私のことに心を痛めているのかもしれない。


「……今、君は幸せかい?」


「……ええ。伯爵家では大変良くしてくださいますのよ」


 エリオット様とのことを正直に話す必要はない。使用人みんなは本当に良くしてくれている。その点は幸せだ。


「…それでは私はこれで失礼いたしますわ。レイモンド様もお元気で」


 これ以上長く彼といるのはあまり良いとはいえない。もし誰かに見られて変な噂が立てば、レイモンド様にご迷惑が掛かる。もう二度と会わない方がいいだろう。


 レイモンド様と別れてそのまま伯爵邸へと帰って来た。


「若奥様、先ほどお会いした方はどなたですか?」


「ああ、学生時代の友人よ。レイモンド・アデルーク様。…学生時代によくしていただいたの。それだけよ。他に何もないわ」


 街へ一緒に出た侍女は、私が浮気することを心配しているのかレイモンド様のことを聞いてきた。私は浮気するつもりもレイモンド様とどうこうなるつもりも一切ないから、そこははっきりと言っておいた。


 


 そして伯爵邸へ来てから2か月後、侍女がお天気がいいので、と庭でお茶を薦めてきたのでそれを楽しんでいたら招かれざる客がやってきた。


「あなたね! エリオットの妻になったっていうのは!?」


 全力疾走で近寄って来た見知らぬ女性。そして出てきたセリフ。この人が例の愛人だろう。……コレのどこが弱々しくて賢くて優しいのだろうか。


「……そうですが。あなたは?」


「あなた私のことを知らないわけ!? ばかじゃないの!? …はは~ん。エリオットに愛してもらえないからっていじわるしようって言うんでしょ?」


 …いったい何を言っているんだか。お飾りなことを承知で嫁いできてますが何か。


 というか確か彼女、平民よね? 平民で貴族に対してその言葉遣いと態度。使用人たちの言っていることが本当だったんだとわかる。


「ふん。かわいそうな人。顔はまぁまぁ綺麗だと思うけど、私の方が断然可愛いわね。それにエリオットに見向きもされないなんてさっさとここを出ていった方がいいんじゃない? みじめだわ」


 いや、別に見向きもされなくていいんだけど。むしろそれが一番有難い。

 ああ、側にいる侍女からも不穏な空気が流れている。早く帰ってほしい。


「大体なんで私が別館であんたみたいな見向きもされない女が本館にいるのよ!? さっさと出て行って私にその場所を譲りなさいよ!」


「……私にそれを言われても困るわ。愛しいエリオット様にそう言ったらどうかしら?」


「エリオットに言ってもそれは出来ないって言われたのよ! だからあなたに頼んでいるんでしょう!? なんでわからないのよ!?」


 ……ダメだ、これは。この人と話をする気にならない。というかエリオット様はこの人の何がよかったんだろうか…。謎だ。生まれてから一番の謎だ。


 それに初めにエリオットは、私がお飾りだということをしっかりと説明すると言っていたはず。彼女のこの様子だと何も伝わっていないことがわかる。


 何やってんだよクソ野郎。……あら、またはしたないお言葉を。失礼。


 はぁ…。ため息しか出ない。正直、貴族の中には愛人を迎えているところも結構多い。だけど正妻と愛人とでは立場が全く違う。正妻はある程度の権限があるけど愛人には全くそれがない。それを平民として育った彼女だからわからないのだろう。平民は愛人を迎えるなんてことはしないと聞く。まぁそこまでの財産がないというのが理由だと思うけど。


「…申し訳ないけれど、私の一存でどうこう出来る問題ではないのよ。あなたが私に対して不満に思うのは自由よ。でもそれはエリオット様に言ってくれるかしら?」


「だから!! エリオットは出来ないって言ったのよ! あなたが出ていけば……っ! ちょっと! どこへいくのよ! 話はまだ終わっていないわ!」


「申し訳ないけれど、エリオット様からあなたと会うことを禁じられているの。だから部屋へ戻らせていただくわ」


 これ以上彼女のキャンキャン声を聞いていたくない私は、席を立って部屋へ戻ることにした。


「若奥様、申し訳ございません」


「いいのよ。あなた達のせいじゃないことくらいわかっているわ」


 後ろに続く侍女から謝罪をされた。この人を相手に仕事をするのは苦痛でしょうね。ここの使用人たちがかわいそうだわ。



 そしてその日の夜、エリオットが私の部屋へとやって来た。


「アメリア。ジェニーに接触しないよう言っていたはずだ。契約書も交わしている。なのになぜジェニーと会ったりしたんだ? あまつさえ彼女をいじめたというのはどういうことだ!?」


「は?」


 一体この人は何を言っているんだろうか。私が愛人と会ったことは間違いない。だが、私からではなく彼女からやって来たのだ。しかもいじめた? むしろいじめられたのは私の方だと思うけど…。


「…エリオット様。仰っている意味がわかりませんわ。確かに今日、彼女とお会い致しました。ですが私から会いに行ったのではなく彼女の方からお見えになったのです」


「なんだと? ジェニーが嘘をついているとでも言うつもりか!?」


「その様子を侍女も見ております。それに私は彼女をいじめてなどおりませんわ」


 後ろに控える侍女に視線を送れば「間違いございません、別館にいる侍女にも確認をしていただければ」と言ってくれた。彼女がいてくれて良かった。私1人の証言じゃ信じて貰えなかっただろうから。


「それとエリオット様。確認したいことがございます。一番初めに、私はただのお飾りだとしっかりと説明すると仰ってましたわよね? それにあの人はとても賢く優しい人だとも。ですが、本日私はあの方よりさっさとここを出て自分に正妻の座を渡せと言われましたわ。それを受けて私はエリオット様に申し上げるよう伝えました。ですがエリオット様はそれは出来ないと仰るから私のところへ来たのだと。

 私も困っておりますの。私から接触せずにいたとしても、彼女の方から来るのであればどうしようもございませんわ。エリオット様からしっかりと説明していただけませんこと? それにエリオット様はしっかりと説明すると仰ったのですからちゃんと実行していただかなければ困ります」


 私は言いたいことを一気に言ってやった。私が全て悪いみたいな言い方されたんじゃ流石に許せない。


 確かに私は借金返済のために、条件を呑んで嫁いできた。だけどやってもいないことを責められる筋合いはない。私はきちんと契約書通り、彼女との接触も不当な扱いも一切していないのだ。


「……わかった。もう一度確認をとる」


 一言そう言ってエリオットは部屋を出ていった。


「なんですかあれは! あれが次期当主様だなんて…。若奥様は何も悪くはございません。私たちは皆、若奥様の味方ですわ」


「ありがとう」


 使用人のみんなが優しくて本当に良かった。それだけが救いだわ。もしそうじゃなかったら……。考えただけでもぞっとする。


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