宇宙打撃空母クリシュナ外伝――代理戦争――
そう、あの時の空も赤かった……。
――DOWDOWDOW
劣化ウラニウムで出来た銃弾が、大気を軋ませ割り込んでくる。
【警報】……燃料タンク被弾! エンジン大破!
背後より激しい銃撃を受け、警報音が鳴り響く。
刹那、私の愛機【シルバー・ハンター】が悲鳴を上げて爆発。
私は急いで脱出し、落下傘にて未知の密林へと降下した。
「……ふう」
――二時間後。
味方機に救助され、私は九死に一生を得た。
私の名はカーヴ。
人間に作られた人型のバイオロイド兵器だ。
この時代の人間は戦争を忌避していた。
それゆえ人間同士の戦争は、星間条約違反。
……が、我々人造兵器たちに、殺し合いをさせるのは違法ではない。
その当時の私は、地球連合軍第二攻撃飛行旅団のパイロットだった。
その当時の人類は、植民惑星政府側と地球政府側に別れ、新規にテラフォーミングされた惑星を巡り激しい抗争を続けていた。
両者ともスローガンは『人間の永遠なる平和』と謳う。
しかし、我々意思を持つ人造兵器にとっては、毎日が地獄だった。
☆★☆★☆
――その日の晩。
「だから、シルバー・ハンターでの攻撃自体が無理なんだよ!」
「……ああ、そうだよな!」
同僚の人造兵器のパイロットたちが酒場にて愚痴る。
我々の飛行旅団は、敵要塞のへ爆撃に失敗続きだった。
私は煙草を燻らせながら、無言にて同意した。
……地球連合軍・重攻撃機【シルバー・ハンター】。
この機は4つの大型の武装ハードランチャーを持ち、地上攻撃にはめっぽう強いが、その分鈍重で、敵戦闘機にはカモにされることが多かった。
今日も4名の同僚が帰ってこなかったのだ……。
「……す、すまん」
「申し訳ない」
後から酒場にはいってきた護衛の戦闘機乗り達が、我々に謝る。
彼等の殆どが、血のにじんだ包帯を巻いていた。
皆、人間であれば必死の銃創であった。
彼等の姿を見て、我々は閉口するしかない。
何故ならば彼等の乗る戦闘機はめっぽう質が悪く、植民惑星側の戦闘機に歯が立たないでいたのだ。
我々を守る護衛戦闘機たちも必死だった。
……何の為かは解りはしなかったが。
☆★☆★☆
――翌朝。
「出撃!」
よく太った高慢な司令官からの訓示が終わり、我々は各自再び攻撃機に乗った。
「二番機、出撃準備良し!」
『了解!』
管制と連絡を取り、飛行場を順次発進。
私は今日も分の悪い戦いに出撃した。
攻撃機は私を含めて10機。
それを護衛する戦闘機は僅か6機だった。
――2時間後。
『頭上敵機! 警戒しろ!』
深い雲を抜けると、敵機が背後の太陽の方角から現れる。
……後背の斜め上空の位置を取られた!
これは最悪と言っていい状況だった。
『散開!』
護衛戦闘機は次々に反転。
我々を見捨てるかのように急上昇した。
『機を近づけろ! 離れると食われるぞ!』
「了解!」
我々攻撃隊は、怯えた草食獣のように密集して身を護る。
敵機に落とされるまえに、味方同士で衝突しそうなほどに機を寄せていく。
――BABABABA!
後背より、我々を狙う敵機からの銃撃。
防御銃座の弾幕を掻い潜り、敵機は執拗に食い下がってきた。
この第一派の攻撃に、攻撃機2機が食われる。
『敵機は30機以上だ! 退避せよ!』
敵の第二派の攻撃において隊長機から連絡が入り、攻撃機隊は一斉に反転。
攻撃ルートを諦め、退避を試みる。
『二番機カーヴ、何をしている!?』
隊長機の命令に従わず、私だけは退避しなかった。
敵機は30機もいたのだ。
私は、皆でまとまって逃げたら全滅する恐れがあると考えたのだ。
――PAWPAW
敵戦闘機から重質量弾が襲い来る。
私は必至に操縦桿を握り、攻撃ルートを堅持した。
……が、敵戦闘機の殆どは逃げる本隊を追って、私についてくるのは一機だけ。
「やはり無理か!?」
攻撃目標の敵要塞が見えたが、後背の敵機が引き剝がせない。
【警告】……ロックオンされました!
警報音が鳴り、観念して目をつむる。
……もう終わりだ!
短い生涯だったな……。
――DOW!
そう思った刹那、後方の敵機が爆散。
目を凝らしてみると、味方の護衛機が自爆覚悟で体当たりして私を守ってくれたのだった。
……彼らは昨日のことを気にしていたのだろうか?
この後、私の機は敵要塞破壊に成功。
攻撃作戦は目標を達成したが、生きて帰れたのは私だけだった。
我々は今日も戦い続ける。
全ては人間たちの為に……。