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  三十四章

  三十四章


 あの高松家での一件より、一ヶ月後。


 おれは、喜三郎、さやさんと共に、ここ万霊湖付近に建立した、はなさんの墓前に立っていた。


「坂崎 華。やっぱり、この字面だったんだ」


 あの騒動の後、店の人間のほとんどを亡くした高松屋は、やはり商売を続けられず、商いを閉じる事となった。


 西京屋も、屋敷内より気を失ったさやの母親と、弟夫婦他、数名の親族が見つかったものの、元旦那が世間体を気にして家から追い出した実の長女とも言えず、さやを妬んだ狂った女の所業という事にして、かろうじて商売は続けている。

 

 それにしても、さやと華は本当に双子だったのだろうか?。


 行方知れずの父親の事がひっかかる。


 一瞬、華はさやの父親が外で愛人にでも産ませた子供ではないかという考えが頭をかすめたが、今となっては真偽の確かめようがない。


 百目でさやの母親の頭の中を覗けば

何か掴めるかもしれないが、それは本来のおれの仕事ではない。


 また神経衰弱ぎみの母親は、今回のことでさやに不吉なモノを感じるようになったとして、さやが旅立つ事を止めなかったらしい。


 そう。


 喜三郎とさやは二人で大都を離れ、新たな地で細々と商売を始めるらしい。


 今日おれは、その旅立ちの見届けもかねて、万霊湖付近に建てた華さんの墓に参ったのだ。


 おれは、墓前で焼香し、ゆっくりと顔を上げた二人に声をかけた。


「それにしても、よくあんな大店、飛び出す気になったな?」


 今回の事はさやさんの家庭の問題が発端だが、はなさんを紅華へ変生せしめた野盗の正体は、喜三郎の親族郎党の可能性が高い。

 

 後日、調べによって、兄二人とその親族数名が、遊ぶ金欲しさに盗みを働き、派手に遊び回っていた証拠が見つかった。

 蛇宝寺での凶行も、歯止めの効かなくなった盗賊一味にありがちな事だった。


「今回の事は、華さんが悪かったという事では無いと思うんです」


 喜三郎はさやへと視線を向けて、ポツリと言った。


「あの一件で大勢の人が死にました。

 私も親族、仕事筋の客人まで死なせてしまい、とても大都では顔を上げて歩けません」


 さやも心の内を一気に語り始めた。


「母も、姉は死産と聞かされていた、の一点張りで。

 実は気付いていたのかもしれません。

 姉が一人でひっそりと生きている事に。

 私が美しい着物に袖を通す度、姉は寒さに震える毎日。

 立場が逆なら、私も家を怨みます。

 今では母は、毎日、姉と私が自分を殺しに来ると怯えるようになり、私も家に居られなくなりました。

 ですが、後悔はしません。

 喜三郎さんと、今度こそ普通の商いを

してみたいんです!!」


「頑張ってね、花嫁さん!」


「えっ?」


 思わず牡丹が声をかけてしまい、慌てる。


「と、とにかく身体には気をつけてな。

 仕事料も割り増し貰っちまって、すまねぇ。

 ありがとよ!!」


 実際、ここには書けないが、かなりの額の礼金を貰った。

 あまりの額に気が引けて、華さんの墓を建立する手筈を整えたのは、実はおれだ。


「家屋も土地も手放しましたからね。

 妹はこの地に残りますので、今後もどうぞよろしくお願いします。

 妹は斬九郎さんの話をすると、とても機嫌が良いんですよ」


「あんな百貫デブに、せんせはもったいないわ!!」


「は?」


 またまた牡丹が心の声を口に出し、超慌てる。

 このままだと、もっととんでもない事を言い出しそうだ。


 おれは万霊湖の街道側で手を振り、手を繋ぎ仲良く歩を進める二人をしばらく見送った。


 

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