三十ニ章
三十ニ章
「GYAAAAA!!」
瞬間、屋敷が振動する程の紅華の絶叫。
奴が吐き出した次元弾は己の巨大な右手を塵一つ残さず、消失させていた。
その攻撃の特徴は、最初に触れた物質を消滅させる。
だだし、その触れた物が自分の身体であったとしてもだ。
「危なかったわね、せんせ!!」
「牡丹!!。気が付いたのか!」
紅華が、次元弾を放った瞬間、再び意識を取り戻した牡丹。
おれを蘇生する為、馬一頭と万霊湖の水を大量に摂取し、そのエネルギーは全て回復につぎ込んだ為、自身も極大の疲労のため、今まで深くお休み中だったのだ。
おれの窮地にタイミング良く目覚め、その髪を天井の梁に巻き付けて、瞬間、引き上げたのは、超ファインプレーと言うしかない。
「牡丹、色々迷惑かけちまって……」
「せんせ、そんなの後!。
それより、あれ見てよ!!」
絶叫する紅華の左手中央に見え隠れするはなさんの顔は、その殆どが紅華に吸収されており、残るは左の眼球と鼻筋がわずかに見えるのみ。
そう。
先程の脱出劇もはなさんが紅華の右手に働きかけ、拘束がわずかに緩んだ事は想像に難く無い。
もう既に唇も失い、訴えかける事さえ出来ないながら、そのはなさんの左眼からは一筋の涙が伝い流れる。
「せんせ、その娘の気持ち、無駄にしないで!!」
涙を流した意味を直感的に理解したおれの背中を、牡丹がおした。
「はなさん。今、仕事を果たすよ!!」
牡丹の髪を解除、おれの身体は紅華に向かい、急速に自由落下を始める。
危機を脱したものの、その絶対的窮地におれの身体は何故か自然と動き、刃に手を添え胸元に垂直に構えた。
その瞬間、おれの全身をこれまで感じた事のない圧倒的な力を持つエネルギーが包みこむ。
その力がおれの肉体を満たすと、おれのなかに居る闇の住人たちが、一斉喚起するのが分かった。
妖力ゼロで息も絶え絶えの筈が、一気にフル充電。
いや、通常の1000%を超える妖力を瞬間的に叩き出す。
妖力も無く、霊力さえガス欠寸前。
打つ手無しで迎えた最終戦に、おれの身体から噴き出した謎の青き焔。
その根源は、闇夜を照らす月の光の力
に相違なかった。
陽の光とは対極の、それでいて闇に愛されし月の光が、青い焔となっておれを通し発現する!!。
「せんせ、今よッ!!」
「分かってる!!」
狙うは一点。
はなさんの顔が残る左手中央部。
はなさんは己が紅華の、弱点であると暗に告げた。
このチャンスは逃す訳にはいかない。
「ごめん!!!」
おれはこのような場に於いても、情に流されず、クールに仕事をこなす気概はあった。
だが、現実におれの口から出た言葉はそれであった。
刀を逆手に握り、落下スピードも加味し、渾身の力を込めその切っ先を左掌に突き立てる。
はなさんの顔面全てが紅華に吸収されるギリギリのタイミング。
おれの全身から噴き出す青き焔。
その全てが刀身に収束し、そこから一気に紅華の全身へと拡散。
その身を焼き尽くした。
(今回は貸しにしといてやる)
内なる誰かがそう言ったが、あれは誰の声だったか?。
「お、おのれ、月影斬九郎。
このままで済むと思うなよ。
妾の仲間が必ずや……」
屋敷を揺るがす紅華の絶叫は、最後まで聞くことは出来なかった。




