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  二十五章

  二十五章


「はレ?」


 天には太陽。


 とっくに夜は明けており、何やら見覚えのある虎顔が真上からおれの顔を覗き込んでいる。


 虎月だ。


「何ぁにが、どんどんだ。目ぇ覚ませ、このバカ!!」


 おれは唐突に怒鳴りつけられ、慌ててよだれを拭いて立ち上がり、状況の把握に努める。


 どうやらかなり長い時間、眠っていた。

 いや、かなり変な夢を見た様な気もするが、いや、そもそもおれは、紅華に殺されたはず?。


「お前、感謝しろよ。お前の中の仲間が必死でお前を守護し、回復に努めたようだ。

 俺の頭に、お前がぶっ倒れている情景が飛ばされてきたから、探し回ったんだぞ。

 慌ててきてみりゃ、俺の馬、喰っちまいやがって。一体何があった?」


「喰った、おれが?」


 嫌な予感がして、おれは手をそっと後頭部へそえた。

 何やら牡丹の口から大きく飛び出ているものがあり、手に取って(う〜ん、どれどれ)と確認してみる。

 

 妙に筋張って細くしっかりとした部位。えっと、これは……?。


「馬の前足だ」


「ヒェッ!!」


 ポツリと漏らした虎月の言葉に、慌てて前足をとりおとした。


「うん?。

 そういえばおれは、紅華に胸を五本の指槍をくらって死んだはず……。じゃない、傷が消えてる?」


 そう。


 横一列で胸に穿たれた貫通痕の部分は乾燥した血液で汚れているものの、しっかりと肉が隆起し、傷口が見当たらなくなっている。


「おれは紅華に一度、殺されたんだ」


「お前を殺したって?。どうせ油断したんだろ。化け物女に胸でも見せられたか?」


 グッ。当たらずも遠からず。

 接吻で脱力してたなんて、言えない。


「何故、そう思う?」


「月影斬九郎は普通の方法では殺せないってのが、俺達の定説だ。

 それがこうまで見事にやられたんじゃ、お前、よっぽど気を許した相手。女しかねーわな」


 褒められてるのか、けなされているのか分からないが、惚れた女に心を許すおれの性癖も分析されての攻撃だったのだろうか。

 我ながら、情けない。

 そのせいで、おれの仲間には多大な迷惑をかけた。


 窮地に立ったおれを回復させようと、牡丹は急場しのぎのエネルギー源にと、死亡した馬一頭をまるまる呑みこんだに違いない。


 おれは伸ばした髪の毛で、離れた場所にいた馬を力づくで引き寄せ、その巨体を後頭部に吸い込んでいく様を想像し、ゾッとした。


 だがこれも全て、おれを助けるため。


 当の牡丹は安らかに寝息を立てて眠っている。

 かなり疲労している事は、おれにもわかる。寧ろ、奮闘し意識消失したと言っても良い。

 肉体の再生、生命維持に妖力を全てつぎ込んだためだ。


 他の妖も疲労している。

 皆、逃げずにおれを救うため、頑張ってくれたという証だ。


「それにしても、これからどうするよ?。馬はお前が喰っちまったしな」


「すまねぇ。借りてた馬、奴に殺されちまって」


「気にすんな、仕方ねぇ。

 と、言いたいところだが、俺も生活苦しいんでな。

 貸しってことにしとく」


「今、何時だ?。かなり時間、経ってるだろ」


「昼過ぎだな。妖が動き始めるまでには、まだ時間がある」


「いや、どうやらそんな時間はなさそうだ」


 おれは脳内に届いた一枚の画像に目を止める。


 陽光さんさんたる時間帯であるにもかかわらず、奴、紅華は、はなさんの姿に化け、婚礼の儀が行われる高松家の前に姿を見せたのだ。


 先日、念のため喜三郎にのみ了承をもらい、高松屋、西京屋ともに百目を数眼仕掛けてはいたが、百目がおさめたその邪悪な微笑から、奴がこれから何をするつもりか、容易に想像できた。


「やばい。奴がもう高松家の前にいる。日中でも活動できるようになっちまってる」


 さすがに虎月も表情を曇らせて

「だが、どうする。

 大都の中心までは、結構距離あるぞ」


「大丈夫。おれは女運悪いが、こっちにも幸運の女神はいるようだ。

 まだおれを、見放していないらしい」


 おれの視線は、これだけ大騒ぎしてるのに、伏せをして眠り続けるぶーちゃんに注がれていた。


 おれは再びぶーちゃんの背に乗り、山野をかけていた。

 今、団子はやれないが、後払いだ。


 先程からさらにギアは上がり、油断すれば地面に投げ落とされ、大怪我しかねないスピードだ。

 念のため、身体中に鉄っつあんを這わしておく。


 耳元にはゴウゴウと凄まじい風切り音が届き、恐怖でどうにかなりそうだったが、必死でぶーちゃんの身体にしがみつく。


 時折、崖から大ジャンプなどして、ほぼ空を飛んでいる状態に、おれの口元からは悲鳴がもれている。

 虎月が聴いたら、馬鹿にされるに違いない。


 体長3メートルの鬼獅子とは言え、今回はスピードを第一とするため、おれ一人で、高松家に向かうことにした。


 虎月が、「今度は死ぬなよ」と、言葉をかけてくれただけで充分だ。


 おれは紅華に刺された時のことを思い返してみた。


 先程まで会話していたはなさんが突如消失し、紅華へチェンジした訳。


 陽が落ちた事で、身体の支配率が一気に紅華に傾いたためだろうか。


 はなさんの口づけを、紅華の計画では無く、はなさんのおれへの想いと思いたい自分がいた。

 貴重な紅玉をさらに三つも嚥下したのは、そんなはなさんが表に出てくることを防ぎたかったためでもないのか?。


 まことに自分勝手な思い込みだが、きっとそうに違いない。

 自由に動けるなら、もっと早くさやさんたちを襲った筈だ。


 間に合ってくれ!。

 おれは微かな願いを胸に、大都へと急ぎ、舞い戻った。







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