二十三章
二十三章
紅華が去った後、おれは全身から力が抜けていく感覚に、己の死を悟った。
牡丹、百目、鉄っつあん、テン。
頼むから、逃げられる奴はおれの身体から逃げてくれ。
ちくしょう……。
こんなことで人生終えるんなら、有り金もって遊郭に行っとくんだった。
に、しても紅華の最後の笑みと言葉が気にかかり、脳内で何度も再現される。
(明日の晩が、楽しみだ……と)
明日の晩、って言やぁ、喜三郎とさやさんの婚礼の儀……。
まさか……。そう言う事なのか?
何も知らない妹の晴れの舞台で、いきなり登場し、地獄絵図を展開する気だ。
ヤバい!!
紅玉を三つも取り込んだ紅華を、はなさんが抑える事はまず無理だ。
事態は最悪の展開を迎えてしまった。
だが、刻、既に遅し。
とうとう力尽き、瞼を閉じるおれの瞳に最後に映ったのは、他人の生死など我、関せずと、大きなあくびをもらすぶーちゃんの姿だった。
(だめだ、こりゃ……)
そこでおれの意識は暗黒の淵へと堕ちていったのだった。
「おい、起きろ!」
おれは何故か、突然パッチリと目を覚ました。
どうやらおれは、大広間中央の畳の上で大の字になって、寝ていたようだ。
おそろしく広い間だ。軽く、百畳くらいはある。
あくびプラス、胸を掻き掻きするおれの耳元には、おれを起こした老人の声が今でもしっかりと残っている。
不思議だ。
大広間の端には、壁一面に巨大なスクリーンが展開され、そこには拡大された母なる星、地球が映し出されていた。
そしてその前に立つ、人の姿。
だが、全身が青い焔に包まれており、ハッキリと視認出来ない。
あいつが声の主だろうか?。
「気がついたか?」
青い焔を纏った老人はスクリーンの方を向き、こちらを振り返る様子は無い。
だが、声は耳元で囁かれるように、しっかりと聴こえてくる。
どう考えても、普通じゃない。
「あんた、誰だ?」
「誰だと思う?」
「おおかた、おれのような美青年を付け狙う大金持ちの変態だな。
悪いが、おれにそういう趣味は無い。別の奴にしとけ!。
なぁ、牡丹!。
……って、あれ、おい、牡丹。
返事しろよ!」
今、気が付いたが、おれの身体に妖の反応が無い。
牡丹までいなくなっちまってる。
こんな事、今まで一度だって……。
「彼女は別の十畳間で仕事をしている。今頃は大忙しだ。後で、礼を言っとけ」
「仕事って何を?」
「お前がマヌケだから、周囲が苦労する。まぁ、お前のじいさんもそんな感じだったからな。血は争えんな」
「なんだ、じいさんの知り合いかよ。だったら、ここから出してくれよ。
おれをマヌケ呼ばわりした事は、パンチ一発にまけとくから!」
老人は一切、振り向かない。スクリーンを見つめたままだ。
「殴れるもんなら、ここまで来てみろ。
自分の力を使いこなせず、仲間に頼ってばかり。
その様子だと、何故自分が妖を取り込めるか、その理由も思い出していないのだろう」
「何だと、赤の他人が知ったかぶりやがって、コイツ……って……。
か、身体が前に進まねぇ。
どうなってる?」
畳に額を擦り付け、土下座するような格好で「ウオォ!」と脚力を全開にするも、不可視の圧力壁に阻まれ、進んだ気がしねぇ。
どのくらい進んだ?。
「ほう。やれば出来るではないか。 5mmほど前進したぞ!」
「てめぇ、馬鹿にしやがって!。
一体、何者だ!」
「儂はお前の先祖。始まりの焔。
お前たちが知るところの、万鬼と呼ぶ者だ」




